HOME > 本(小説)中村航 :このページの記事一覧
2009-04-25

『100回泣くこと』中村航 を読んで


100回泣くこと (小学館文庫)100回泣くこと
(小学館文庫)
中村航


souiunogaii評価 

内容紹介
実家で飼っていた愛犬・ブックが死にそうだ、という連絡を受けた僕は、彼女から「バイクで帰ってあげなよ」といわれる。ブックは、僕の2ストのバイクが吐き出すエンジン音が何より大好きだったのだ。
4年近く乗っていなかったバイク。彼女と一緒にキャブレターを分解し、そこで、僕は彼女に「結婚しよう」と告げた。彼女は、1年間(結婚の)練習をしよう、といってくれた。愛犬も一命を取り留めた。愛犬→バイク修理→プロポーズ――。幸せの連続線」はこのままどこまでも続くんだ、と思っていた。
ずっとずっと続くんだと思っていた。精緻にしてキュート、清冽で伸びやか。
今、最注目の野間文芸新人賞作家が放つ恋愛長編。

小学館から出た作品で、しかもタイトルに"泣く"なんてフレーズが入っていて、これじゃあいかにも「泣ける恋愛小説です!」っていう感じがあんまりにも過ぎるだろ。
最初はやっぱりそんな風に考えてしまうけれど、
しかし、これが「作者が中村航である」ということになると、話は別で、
それだけで余計な不安はすぐにかき消されてしまう。
実際、この本を手にとるのに一切の躊躇は無かった。

そして、読んで良かった。感動した。

この『100回泣くこと』は、確かにジャンルとしては恋愛悲劇小説に入るのかもしれないけれど、
しかし『世界の中心で、愛をさけぶ』みたいな作品とは全然違う種類の作品だと思う。
これはやっぱり読んでみて感じてもらうしかないと思うのだけれど、
それは一言でいえば、中村航という作家の持つパワーのすごさ、みたいなもの。

一つひとつは小さなありふれたことなのに、それらを「実はかけがえの無い大切な幸せの証なんだ」ってことをハッと気づかせてくれる。
中村航がつむぎ出す言葉の、キラキラと輝き、ふんわりと柔らかくて、温かみにあふれるその"パワー"に、不思議と心がいっぱいに満たされる。
読むたびに、「ありがとう」って気持ちが沸きだしてくる。イイ。
うっかり新幹線で読んで号泣しました。
透明な世界をあなたにも。
ゴスペラーズ 北山陽一

主人公の「僕」は、彼女と結婚の約束をし、一緒に暮らし始める。
何でもないような出来事にだって、意味を見つけて、とっても大切なイベントとしてきちんと描き、忘れてはいけない思い出に変えてしまう。
中村マジックと言ってもいい、2人の間に作れラルHAPPYにあふれる空気の感じを、
本当に素敵な表現で伝えてくれる。
読んでいてこんなにイイ気持ちになれる作家は他にはいないとさえ思う。
食事の場面や、小物の描写など細部まで、幸せな感じが滲み出している。

一つひとつのエピソード、一つひとつのシーンに、中村航ワールドならではの要素がちりばめられていて、面白い。
さまざまなできごとが、僕らに点を穿つ。その中から幾つかを選び出して、僕らは線を引く。そうやって物語を紡いでいく。

主人公が古いバイクを修理して走れるようにするエピソードがあるのだが、
分解したバイクの部品の描き方は『夏休み』でのカメラの分解シーンにも共通するものがあって、
作者の"機械"に対するある種の信仰のような熱い思いが伝わってくる。

さらに、物語に厚み・深みを与えてくれる最高の脇役たちのキャラクターも、実にイイ。ガソリンスタンドの加藤さん(『リレキショ』にも登場したあの人だ)、
試作室の石山さん、彼女の両親。

主人公が、彼女と出会う前の、浪人生時代の話や、実家の家族や飼っていた犬についても丁寧に描かれていて、
それが、主人公がどんな生き方をしてきて、自分をどうやって作ってきたのかを感じられるようになっていて、非常に上手い。
今、僕らには確かに何かが起こっていた。だけどそれはあんまり自然に僕らの皮膚に溶け込んでしまったため、何も起こっていないようにも思えた。
その代わりに――。
誓いの言葉の後に、彼女が今日の日付を書き込んだ。
そっと封印するように、スケッチブックを閉じた。

『絶対、最強の恋の歌』や『僕の好きな人が、よく眠れますように』みたいな幸せいっぱいのハッピーエンドの作品もそれ自体はとても素敵なんだけれど、
でも、それはやっぱり本作のように、幸せが永遠には続かないことをきちんと示してくれる物語があるからこそなんだと、はっきりと思う。

中村航公式サイト
中村航さん:47CLUB 地元著名人インタビュー

『ぐるぐるまわるすべり台』中村航 を読んで
『リレキショ』中村航 を読んで
『夏休み』中村航 を読んで
『僕の好きな人が、よく眠れますように』中村航 を読んで
『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで


2009-04-18

『ぐるぐるまわるすべり台』中村航 を読んで


ぐるぐるまわるすべり台 (文春文庫)ぐるぐるまわるすべり台
(文春文庫)
中村航


souiunogaii評価 

内容紹介
中村 航『始まりの三部作』完結編
僕は大学を辞め、塾講師をする傍ら、バンドのメンバーを募集した。
〈熱くてクール、馬鹿でクレバー。最高にして最低なメンバーを大募集〉
そんなうたい文句に集まったロックな面々。
ボーカル志望の中浜に自らの分身を見た瞬間、僕の中で新たな物語が始まった。
カップリング作「月に吠える」も収録。
Look out! 新しい夏の王よ、飛び立て!
Get on up! 遠い音楽は確かにそこにあった。
解説・桜井秀俊(真心ブラザーズ)

中村航の始まりの三部作3rd『ぐるぐるまわるすべり台』です。
キャンパスという言葉の語感の良さは異常だと思う。

書き出しからもう「あぁ、中村航を読んでる!」って強く確かな実感があって、やっぱり中村航が紡ぎ出すフレーズが大好きだとあらためて思います。

主人公の大学を退学するシーンから物語は始まる。
彼は塾の講師のバイトをしながら、バンドのメンバー募集サイトにメッセージを投稿する。
そこから、新たな出会いが生まれて、世界が動き出す。
物事が始まる瞬間、スタートするときの感じを、中村航にしか書けない天才的な表現で丁寧に描いていく。

大学の木嶋教授、塾の榎本教室長、不登校で塾の個別指導に通う中学生のヨシモク、
そしてバンドのメンバーの、尾崎さん、チバさん、てつろーさん、中浜さん。
彼ら一人ひとりに、主人公と出会うまでの物語があって、出会ってからの物語があって。
過去・現在・未来、みたいな。
僕は僕の物語であったかもしれない物語を語った。完結したのか、それとも始まったのか、遠い音楽は確かにそこにあった。一周回ったんだ、と僕は思った。一周回ったスタート地点は、かつて僕がいた場所とは違う。始めたこと、始めなかったこと、聞いたこと、語れなかったこと。一周回ったんだ、と僕は思った。ぐるぐるまわるすべり台に乗って僕らは回る。下に着いたらまた上に昇る。屋上では何回目かのへルター・スケルターが鳴り響いていた。


続くサイドストーリーの『月に吠える』は、千葉と哲郎が、バンドに参加するまでの物語。
写真現像用の機械を製造する工場のラインで、派遣社員として働く哲郎は、QCサークル活動をしながら、他の部署で働く千葉と出会い、新しい世界に物語を作り出していく。
(公式サイトのProfileによれば著者の中村航は大学卒業後にF写真光機で数年間働いていたらしい。)
周囲の人間と自分とを区別し、間に見えない壁を築いていた哲郎が、少しずつ変わっていく姿が、とってもイイ。
今この瞬間から旗を掲げよう、と哲郎は思った。


これで中村航の始まりの三部作を全て読み終えました。
にゅいーん。

中村航公式サイト

対談『ぐるすべ』も実はパラレルなんです(中村航×長嶋有):文藝春秋 自著を語る

『リレキショ』中村航 を読んで
『夏休み』中村航 を読んで
『僕の好きな人が、よく眠れますように』中村航 を読んで
『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで
2009-02-21

『リレキショ』中村航 を読んで


リレキショ (河出文庫)中村 航リレキショ
(河出文庫)
中村 航


souiunogaii評価 

内容紹介
全選考委員絶賛の第39回文藝賞受賞作

僕は“姉さん”に拾われて、“半沢良”になった――
深夜のガソリンスタンドに届いた一通のフシギな招待状=ラブレターがもたらす、
ひそやかな世界の変化。
『目印になる木を探して。祈るような気持ちで』

中村航の始まりの3部作1stの『リレキショ』を読みました。
あぁ、中村航ワールドは、確かにここから広がっていったんだ、
なんて感じながら、とても気持ちよく読みました。

ありふれた日常の何でもないようなことにも、一つひとつにはやっぱり物語が隠されていて、そういう大切なものを、丁寧に丁寧に選び抜かれた言葉を使って描くことで、
世界をキラキラと輝かせて見せてくれる。
そんな不思議なパワーを持った素敵な文章を生み出してくれる、中村航という作家の魅力を感じる。
だから私は、中村航作品が大好きだ。

主人公は「僕」(半沢良)。
彼がガソリンスタンドの深夜アルバイトを始めるところから、物語はスタートする。
僕は「姉さん」と二人暮らし。
そこに時々遊びにやってくるのは、姉さんの友人の「山崎さん」。
僕に仕事を教えてくれるのガソリンスタンドの先輩は「加藤さん」。
そして、僕の働く姿を遠くから双眼鏡で見ている、受験生の「ウルシバラ」。

そんな、僕とその周りの人たちと展開されていく物語には、それぞれに別々の時間が流れていて、僕の世界に対する見方は、ちょっとずつ変化していく。

物語のスタートとゴールは、あえて余分な説明が省かれていて、
この後はどうなるんだろう、ここに至るまではどういう流れがあったんだろう、
みたいな感じがあって、はっきり書かれていないけれど、そこにはきっとこんな物語がつづいている、っていうのがきちんと伝わってくる。
それは期待と好奇心に満ちあふれ、あらゆる可能性を秘めた生命体のように思えた。またそれは、ひとつの小宇宙のように完結していた。そんな紙だった。
――大切なのは意志と勇気。それさえあれば大抵のことは上手くいくのよ。
そう言って励まされ、そして書いた僕のリレキショだった。

僕はその紙を丁寧に三つに折り曲げ、地球儀がデザインされた封筒に入れた。そして、かもめのシールで封をした。
何かを託すような気持ちだった。

中村航公式サイト

【関連記事】
『夏休み』中村航 を読んで
『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで
『僕の好きな人が、よく眠れますように』中村航 を読んで
2009-02-14

『夏休み』中村航 を読んで


夏休み (河出文庫)中村航夏休み
(河出文庫)
中村航


souiunogaii評価 

内容紹介
話したいことがいっぱいあるんだ。
永遠と一瞬が交差する夏。
『もうすぐ完全に日が暮れる。そうしたら夏休みは終わりだ』

吉田くんの家出をきっかけに突然訪れた、二組のカップルの危機。
彼のプチ家出を理由に、僕らの妻ユキと舞子さんから「果たし状」が届いて!?
なつかしくて新しい、とびきりの夏のおはなし。

『絶対、最強の恋のうた』『僕の好きな人が、よく眠れますように』とを読んですっかりはまってしまった中村航ワールド。
その、"始まりの三部作2nd"ともいわれる『夏休み』を読みました。
やっぱりイイ。すごくイイ。

言葉の一つひとつから伝わってくる、キラキラしていて、あったかくて、
それは正に「しあわせです!」って表現がぴったりな感じです。

ずっとずっとこのままこの物語を読んでいたい、残りのページが減っていくのが何だか切なくて、そんな風に思わせてくれる。
中村航独特の、日常世界にあるかけがえのないものの描き方は、やはり素晴らしい。

物語の登場人物は、主人公の僕と、その妻のユキ。
そしてユキの友人の舞子さんと、その夫の吉田くん。
2組の若い夫婦、男女4人の織り成す本当に素敵なストーリー。
例えばユキにAまたはBという選択肢があったとする。ユキの希望や意志といったものは既にAを選んでいたのだとする。そういうときにする賭けにこそ意味があるのよ、とユキは言う。
――Bにもフェアに機会を与えるの。その上で勝って得た選択には新たな価値が宿るじゃない。

男女間の愛と、男同士の友情、その2つのバランスが絶妙。

特に、主人公の僕と、後輩キャラの吉田くんとの関係が、とてもよくできている。
後の『絶対、最強の恋のうた』にも通じるものが感じられる。

さらに、中村航作品と言えば、魅力的な脇役たちの存在も欠かせない。
ユキの母親、レンタカー店の工藤さん。実にGOODだ。

また、本作では食べ物の描写も、すごくすごく上手い。
俺丼、炊き込みご飯、俺うどん、親子丼、ホットプレスサンド、アメリカンドッグ、温泉饅頭、旅館の夕食、お茶、コーヒー、ビール。
食べ物からではなくて、それを食べてる人物から伝わってくる美味しさ。

吉田くんが、PENTAXのMEというフィルム一眼レフカメラに愛着をもっているというのも、写真が趣味の私にはポイントが高い。

そしてそして、他の中村航作品にも見られるおなじみのフレーズももちろん登場する。
「肉にキープなし」
世界三大美徳のひとつ、仲良し。

中村航の『夏休み』、私は土です。

中村航 公式サイト

ME復活応援サイト(PENTAX のMF一眼レフMEシリーズの分解と修理を中心にしたHP)

中村航の『夏休み』200字読書感想文コンクール

【関連記事】
『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで
『僕の好きな人が、よく眠れますように』中村航 を読んではてなブックマーク
『リレキショ』中村航 を読んで
2009-01-17

『僕の好きな人が、よく眠れますように』中村航 を読んで


僕の好きな人が、よく眠れますように(角川書店)中村航僕の好きな人が、よく眠れますように
(角川書店)
中村航


souiunogaii評価 ハート5つ

内容紹介
「こんなに人を好きになったことはありますか?」
僕の大学院にやって来た、魅力的な彼女。僕はひと目で恋に落ちた。
だが、ふたりには恋が許されない理由があった・・・。
今年最高のラブ・ストーリー!

先日読んだ、『絶対、最強の恋のうた』で、すっかり中村航のファンになてしまった私ですが、
今回読んだ『僕の好きな人が、よく眠れますように』も、とても良かったです。
素敵な恋愛物語でした。

『絶対、最強の恋のうた』のアナザーストーリーみたいな感じで、あの木戸さんも登場します。
あらすじ
東京の理系大学で生態分析研究を続ける大学院生の僕の研究室に、北海道からゲスト研究員が入ってきた。名前は斉藤恵。僕はひと目で恋に落ちた。日夜研究を続けて一緒に過ごすうちに、二人の距離は徐々に縮まっていく。だが、ふたりにはけっして恋が許されない理由があった……。

というように、主人公の「僕」は、北海道に夫を残して、1年間という期間限定で東京に来た「めぐ」に、ほとんど出会ったその瞬間に恋をしてしまいます。
そしてまた、「めぐ」も「僕」のことを好きになってしまいます。
「ところであれですね、斉藤恵って素敵な名前ですね」
「えー」と、彼女は不満そうな声をあげる。
「どこがいいんですか?」
「言いやすいし、何かシブい」
「でもですね、前の名字のほうが、ずっといいんですよ」
「前の名字?」
「はい」

始まった恋は指数関数的にどんどん加速していく。
もうただひたすらに、二人は互いへの「好き」という気持ちを強くしていくだけ。
もっと、ずっと、果てしなく、限りなく、二人の愛は深く確かなものになっていきます。
しかし、それでも彼女には夫がいる。
その事実は、決して忘れることのできない、決して消すことのできない、確かな障害として現実に存在していて、
だからこそ、この二人の物語はとても切なくて、とても美しい。
言葉にするのが怖くて、彼女の夫のこととか全然訊けなかった。考えると苦しくて、胸がぺしゃんこになるきがした。

そして、そして、忘れてはいけないのが、木戸さん。
「僕」がバイト先で出会った、木戸さんという人のキャラクターが、実にイイ。
『絶対、最強の恋のうた』でも、そのカリスマ的なカッコよさに魅了されてしまったが、本作でもそのカッコよさは変わらない。
「僕」は木戸さんのアパートで、すき焼きを一緒に食べ、イカをつまみにウィスキーを飲む。
木戸さんはギターを弾き、「僕」は彼女の話をする。

木戸語録と呼ばれる、木戸さんの言葉が、とにかくイイ。

「数学の世界だったら、永遠に近付き続ける線を簡単に定義できるだろうよ。宇宙の果てまで行っても、決して交わることのない2つの曲線は、それでも永遠に近付き続けるんだ。だけどよ、残念ながらそんなものは、この世にはねえ」

「この世には、マグレと気まぐれしかねえんだよ」

中村航さんの書く文章を、私は大好きだ。
この、日常にありふれていそうな何でもないことが、実はとてもかけがえのないもので、そのことに気づいた幸運な人にとっては、世界はどこまでもキラキラしたものであふれている。
そんなことを感じさせてくれる。
以前書いたかもしれませんが、中村航の魅力は、
日常の出来事を宝石みたいに輝かせる「伸びやかさな突飛さ」の表現力にあると思っています。

↑で、コガさんも書かれていますが、まさの私もその通りだと感じます。

『絶対、最強の恋のうた』とセットでぜひ読んで欲しい、特別おススメの一冊です。


僕の好きな人が、よく眠れますように

『僕の好きな人が、よく眠れますように』特設サイト:角川書店

中村航 公式サイト はてなブックマーク

中村航 特別インタビュー「カップルに真似されたらうれしい」:毎日jp(2008/12/4)

【関連記事】
『夏休み』中村航 を読んで
『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで
『リレキショ』中村航 を読んで
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。