面白かった!
普通に考えれば“ありえない”世界の話を、こんなにも身近な描き方をされてしまうと、「いや、ひょっとしたら」と考えてしまう。
そんな不思議な力を持った小説です。
あらすじ
突然訪れた「となり町」との戦争のお知らせ…。町役場からの広報誌により、僕は、自分が住む舞阪町と、となり町との戦争開始、そして戦死者の存在を知らされる。やがて、町役場の要請により「敵地偵察」の任を負うことになった僕は、「役場の論理」で「戦争という事業」が着々と不条理に進められていく現状を感じながらも、戦争自体がどのような形で行なわれているのか実感を持つことができない。
成和24年という架空の年号、おそらく近未来の日本が物語の舞台。
「となり町との戦争」という、はっきり正体の見えない現実に、主人公の「僕」と読者とが一緒になって巻き込まれていく。
「戦争」なんて急に言われても困ってしまう。一体どういうことなんですか?説明して下さい。そんな思いを「僕」と読者とで共有しながら、物語が進んでいく。
「僕」は読者の持つ気持ちを代弁してくれる。
正義や愛、道徳などという概念が、所変われば様変わりすることは充分にわかっているつもりだ。だが、それはあくまで遠い異国の地、特に宗教的な基盤が違う他国においてのことだと考えていたのだ。これもすっかり冷えてしまったレモンティーを口にしながら、思う。僕が常識と思っていること。それは自明であると思っているが故に、あらためて誰かと議論するということも今までなかった。だが、常識の淵から一歩身を乗り出してみると、そこには深く、そして暗い亀裂が横たわっているかもしれないのだ。
私は戦争を知らない。
中東やアフリカという遠い世界の戦争をTVで見たり、60年前の白黒の世界だったり、あるいは映画やドラマだったり、そんなものからもらった戦争のイメージしか持っていない。
「戦争の音を、光を、気配を、感じ取ってください」
展開がゆっくりじっくりな部分と、スピード感や緊張感のある部分とが上手に組み合わさった構成になっているので、読んでいて退屈しないし疲れない。終わりまで一気に読まされてしまう。
あまりにもリアルじゃないから。まるで遠い砂漠の国で起こった戦争で、死者何百人ってニュースで聞いてるみたいだ。まるで他人事だ。どうしてだろう。
読み終わったあと、現実社会に照らし合わせて、いろんなことを考えずにはいられない。
第17回「小説すばる新人賞」授賞作品『となり町戦争』 :集英社
となり町戦争 :角川映画