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2007-11-30

『袋小路の男』絲山秋子 を読んで


袋小路の男 (講談社文庫)絲山 秋子袋小路の男
(講談社文庫)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
指一本触れないまま「あなた」を想い続けた
高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。
川端康成文学賞を受賞した表題作の他、「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。

こんな女の人に、ずっと側にいてもらったら、いいだろうな、なんて考えてしまった。

日向子と小田切は、実に不思議な2人だった。
平行な2本の直線は、どこまで遠くまで伸びていっても、永遠に交わったりはしない。
2人の間の距離は、互いに近づくことも離れることもない。
その、“ちょうどいい”距離を保ち続ける。
結婚はしないのに、葬式はするのだ。

友達でもない、恋人でもない、家族でもない。

「袋小路の男」と「小田切孝の言い分」は連作で、2人のその後をちょっと書き方を変えて書いている。

「袋小路の男」では、“あなたは…”と日向子の目線からの世界で表現されたものが、
「小田切孝の言い分」になると、“あいつは…”と小田切の側から見る世界が加わって、ちょっと違ったテイストに仕上がっている。
なるほど、こういう続編の書き方もできるんだ、と。
どっか行きましょうよ、と言えば小田切は、そうだね、近いうちに、と答える。しかしその「近いうち」が近いうちに来たためしがない。


「アーリオ オーリオ」は、この本に収められた3作品の中では、私は一番これが好きだ。
主人公は、工学部出身で、科学が好きで、何より星が好きな人で、そんなところに、私と重なる部分を小さく見つけた気がして、親近感を感じたからかもしれない。
池袋のプラネタリウムとか、群馬の天文台が登場するのは、ポイントが高い。

地球から遠く離れたところにある星の光は、光ってから私たちの目に届くまでに何年もの時間がかかる。
そこに、書いてから相手に読まれ返事が来るまでに数日間のタイムラグがある「手紙」を重ねているところが、何とも素敵じゃないか。
「手紙ってリアルタイムじゃないじゃん」
「いいんだよ。タイムラグがあても」
「手紙かあ……」

コニカミノルタプラネタリウム“満天”in Sunshine City
県立ぐんま天文台

絲山秋子 Official Web Site



2007-11-20

『絲的メイソウ』絲山秋子 を読んで


絲的メイソウ (講談社)絲山秋子絲的メイソウ
(講談社)
絲山秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
ああッ!
人生は、なんでジグザグにしか進まないんだ!
あっちにぶつかり こっちにぶつかり 決してまっすぐには進まない 絲山秋子の偽らざる日々。珠玉???の初エッセイ集

個人的にすっかりハマッてしまっている小説家、絲山秋子さんのエッセイ集。
小説ももちろん文句なしで面白いのだけど、エッセイもまた格別に面白いじゃないか。
もくじ
絲山の由来 / 禿礼賛 / さあ、モテましょう! / うまい話があるんだよ / 寝言は寝て言え / 男は外、飯は別 / 祭嫌い / 世の中よろず五七調 / タンスの大奥 / アンチグルメ体験 / 喫煙党 / 講談社24時 / 勝ち負けなんてしみったれ / 下り坂ドライブ / 自分の取説 / 恋のトラバター / 男たちよ、本を読むな! / 群馬人絲山 / 無駄と無意味

触れている題材はいろいろ。
酒、タバコ、引っ越し、会社員時代、ルームシェア、群馬、九州、出版社、ハゲ、納豆 などなど。

絲山さんのHPで公開されている日記を読むのも楽しいのだが、こうして一冊の本になっているものを読むのもまた楽しい。

普通の人が言っているのを聞いたら、
「何を自分勝手な!」「理不尽な、屁理屈だ!」などと怒ってしまうようなことでも、
同じことを絲山さんが文章で語ってくると、「そうそうその通り!」「分かる分かる!」と納得・賛同してしまう気になるから不思議だ。

絲山さんの文章には、彼女の強さやカッコよさや豪快さがにじみ出ている気がする。
私はすっぱり化粧をやめてしまった。開き直りもついにここまできた。どうせ洗い流す物に何千円もかけてるなんてバカかと思う。

「絲山作品のファン=絲山さんのファン」と感じる一冊。

【関連】
『逃亡くそたわけ』絲山秋子 を読んで
『沖で待つ』絲山秋子 を読んで
「ニート」絲山秋子 を読んで


絲山秋子 Official Web Site
2007-11-18

『逃亡くそたわけ』絲山秋子 を読んで


逃亡くそたわけ (講談社文庫)絲山 秋子逃亡くそたわけ
(講談社文庫)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート4つ

社会とか、学校とか、仕事とか、うつ病とか、親とか、友達とか、故郷とか、ルールとか、
そんないろんなものを、「見えないゴール」を目指す旅の中で、ゆっくり見つめなおすきっかけを与えてくれる。

精神疾患を抱えた男女の2人の若者が、病院から逃げ出し、車で九州縦断の旅にでる。
そんな映画「逃亡くそたわけ―21歳の夏」が、今年2007年10月に公開され、11月になった今も、いくつかの劇場で上映されている。主演は美波と吉沢悠。
本書『逃亡くそたわけ』は、その原作小説だ。

本を読んでみて受けた印象、その世界はかなり良い感じだった。
だから、まだ観ていないその映画にも興味が沸いてきた。
(DVDが出るまで待つのじゃなくて、ぜひ劇場まで足を運んで観たい)

内容紹介(講談社BOOK倶楽部より)
「どうしようどうしよう夏が終わってしまう」軽い気持ちの自殺未遂がばれ、入院させられた「あたし」は、退屈な精神病院からの脱走を決意。名古屋出身の「なごやん」を誘い出し、彼のぼろぼろの車での逃亡が始まった。道中、幻聴に悩まされ、なごやんと衝突しながらも、車は福岡から、阿蘇、さらに南へ疾走する。

INTRODUCTION(映画「逃亡くそたわけ―21歳の夏」公式サイトより)
“逃げるのに理由なんていらない。”
精神病棟から逃亡し様々な土地をおんぼろ車で旅をしながら心<脳>の葛藤と共に人々や社会との関わり合いなどを通じて、何かを感じ取っていく<ROCKな>ロードムービー。躁鬱病等を取り扱った本作は、現代日本に急増している“心の病”を、若い二人を通じて明るく爽快に描いている。原作は『沖で待つ』で芥川賞を受賞した絲山秋子の同名小説。現代女性の本音を描き出す、今注目の作家である。

主人公の男女の2人は、
花ちゃん(21歳、大学生、自殺未遂・躁の症状あり、福岡出身)と
なごやん(24歳、サラリーマン、鬱の症状あり、名古屋出身)だ。
どうしようどうしよう夏が終わってしまう。21歳の夏は一度しか来ないのにどうしよう。この狂った頭の中には逆巻く濁流があって、いてもたってもいられないのだた。プリズンで夏を終わらせるのだけは嫌だった。

いきおい と なりゆき で、2人はマツダのルーチェに乗り、福岡を出発し、大分、熊本、宮崎、鹿児島と九州を縦断する旅に出る。

別に、目的地など無い。ゴールがあるわけじゃないのだ。
あてもなく、ただ2人が「行きたい」とその瞬間に感じた場所を、何となく目指しながら進んでいく、そんな不思議な旅だ。

なごやんのキャラクターが気に入った。
名古屋出身で、大学に入ったときに上京し、その後サラリーマンとして福岡に来た。
彼は、故郷である名古屋を強く嫌っている。避けている。逃げている。
彼は、名古屋弁を使おうとしない。自分は東京人だと、自身に言い聞かせている。

「あぁ、そういうの、あるな」と、同じ愛知県出身で、現在東京で大学生をしている私は、自分となごやんに重なる部分があるのかもしれない、とも思った。

そして花ちゃん。彼女は根っからの九州人だ。
なごやんとは対照的に、九州に強い郷土愛を持っている。
(なぜか宮崎県知事の顔が浮かんでくる)

そんな2人の、(恋愛関係には発展する気配の無い)絶妙な距離感を保った男女の、九州弁と標準語の会話が、とにかく面白い。
「なごやんこそ東京生まれって嘘ついとったやろ」
「嘘はついてない。東京から福岡に来たのは確かなんだから」
「なして生まれたとこ隠すと?おかしかー」
「そんなこと言えるのは君が名古屋に生まれたことがないからだよ。だったら一度生まれてみろよ、わかるから」

2人は、旅の途中で、病院の中にいたのでは絶対に経験できなかったであろう、いくつかの出来事の、何人かの人たちとの交流と、そのいろいろなことを通して、きっと何かを感じて、何かを見つけ、何かを得たんだろう。

物語中に、九州の観光名所や名物の食べ物がいろいろ登場してくる。
特に私が興味をひかれたのは、「いきなり団子」というしろもの。
花ちゃんがそれを絶賛し、なごやんはそれに文句を言う。
それぞれの、反応の違いには、思わず「くすっ」と笑ってしまう。

これまで、絲山秋子の本は『ニート』と『沖で待つ』を読んだけれども、今回読んだ『逃亡くそたわけ』は、それらとはまた違った作風だなと感じた。
こういうのも、また絲山秋子なんだと。
本作は直木賞候補にもなったが、そうか、なるほど、と。

絲山秋子 Official Web Site


「逃亡くそたわけ―21歳の夏」公式サイト

【関連】
 『沖で待つ』絲山秋子 を読んで
 「ニート」絲山秋子 を読んで
逃亡くそたわけ 21歳の夏「逃亡くそたわけ 21歳の夏」
出演:吉野公佳, 美波
監督:本橋圭太

日が暮れても彼女と歩いてたThe ピーズ「日が暮れても彼女と歩いてた」
[Maxi Single]
The ピーズ

B00XMMJLIAいきなり団子
15個入り 熊本名物
芋屋長兵衛
プレーン

B076DNGJDR【合計15個】なごやん
パスコ
5個入 ×3
2007-11-10

『沖で待つ』絲山秋子 を読んで


沖で待つ (文藝春秋)絲山 秋子沖で待つ
(文藝春秋)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート4つ

あっさりしているのに、コクがある。(ラーメンのスープみたいな言い方だけれど)そんな表現がぴったりな小説。
文章はサラッと軽くて、スラスラ読める。でも読書後にしっかり残る深い感じがある。
これが、絲山秋子なんだと。

本書には2つの作品が収められている。
「勤労感謝の日」と「沖で待つ」。
どちらも、30代の女性が主人公の話。
すべての働くひとに贈る、芥川賞受賞作!
住宅設備機器メーカーに同期入社して、福岡支社に配属された太っちゃんと女性総合職の「私」。営業マンとしてバブル期を共に働くうち、「仕事のことだったら何だってしてやる」関係が育っていく。しかし、太っちゃんの突然の死。約束を果たすため、「私」は彼の部屋にしのびこむ……。信頼と友情を確かな筆致で描く「沖で待つ」に「勤労感謝の日」を併録。働く現場の大変さと充実感を知るすべての方にエールを送る傑作短篇集です。
文藝春秋 書誌ファイルより

「勤労感謝の日」は、36歳独身無職で母親と2人暮らしの恭子が主人公。
「正当な理由のない自己都合退職者」というレッテルを貼られ、職安で再就職先を探す日々。
ある日、近所の人からお見合いの話を持ちかけられる。しかし、その相手の男がサイテーの奴だった。

人生のピークを過ぎてしまったのかもしれない。明日も、明後日も、この先に何を目指すべきなのか分からない。
ゴールはどこにあるんだろう。
パンプスを鳴らしながら商店街に入るとクリスマスソングが聞こえた。サンタクロースなんていないってみんな十歳やそこらで判るのに、なんで残りの人生七十年間サンタクロースなんだろう。夢がある?夢なんか見てる暇あるか。

疲れてるのは、自分だけじゃないんだと、確認できる。

そして、「沖で待つ」。
久しぶりに感動する小説を読んだ、そんな気がする。

主人公はメーカーの営業として忙しく働く女性の、「私」。
「私」は、会社の同期の男性と、ある約束をする。
「先に死んだ方のパソコンのHDDを、後に残ったやつが破壊するのさ」

誰だって、自分のPCの中に保存してあるデータには、他人には見られては困る種類のものがあるだろう。

そして、男は死んでしまう。「私」は約束を守るため、彼の自宅へ、彼のPCを壊しに行く。

今は、まだ学生の私には、会社の同期っていうのがどういうものなのかは、具体的にはよくわからない(たぶんバイト仲間とは違うのだろう)。
仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。
同期ってそんなものじゃないかと思ってました。

忙しく働く営業職の人の姿っていうのも、(身近にそんな人はいないし)、
残業して午前3時にタクシーで帰宅したり、40度の熱があっても仕事に行ったり、なんて世界はなかなかイメージできない。

来年から社会人になる予定の私には、忙しくて過酷な中にも、面白さを見つけるんだろう、なんて漠然とした想像しかできない。

それでも、この「沖で待つ」を含めて、絲山さんの書く、会社で働く人の姿は、どこか「空しさ」みたいなものが際立って感じられる。

嫌なことも良いこともあって、それなりに苦しいこと辛いことも乗り越えて、仕事の上では成長して、評価もされ、
それなのに、「正直、これでいいのか?」って思いが日々たまっていく感じ。
迷っているっていうのか。
その不思議な「空しさ」を抱える主人公に、(なぜそこに魅力を感じてしまうかはわからないが)強く惹かれてしまう。
「仕事がないんなら帰りなよ」
「俺がいちゃまずいか」
「まずかないけど、なんにもいいことないよ」
「別に悪いこともおこらないさ」

2作品とも、30分くらいで読めてしまう、短い小説。
でも読み終わった後の、余韻は長く長く残る。

またまた「絲山秋子は良い」と感じてしまう一冊。

【関連】
「ニート」絲山秋子 を読んで
『逃亡くそたわけ』絲山秋子 を読んで

絲山秋子 Official Web Site
2007-10-08

『ニート』絲山秋子 を読んで


ニート (角川書店) 絲山 秋子ニート
(角川書店)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

前を向いて生きていこうとする力。今の状況を改善しようと一歩を踏み出そうとする勇気。
それらは、一回どこかに忘れてしまったら、再びその手に取り戻すことが難しい、そういうものなのだろう。
ニート。
彼がそれでも今日を生きているのは…。
内容紹介
久しぶりに覗いたキミのブログには、極度の窮乏を示すキミの生活ぶりが記されていた。食事は週に三食。一食は具のないインスタントラーメンで、あとの二食は調味料だけで作るチャーハンだった。食事のない日は水道水だけ。シケモクさえもなくなり、全財産は3,000円を切っていた。勤務先をやめ、引きこもり生活を続けるキミが何よりおそれたのは電気が止められること。ネットを切られることだけは避けなければならなかった。キミが死んでしまうと思ったのは少し大げさかもしれないが、どうしてこんなになるまで私に黙っていたのかと思っていたら、不意に泣けてきた……。
駆け出しの作家としてようやく本が出せるようになった女性作家とニートの青年との、友情とも恋愛とも言いがたい微妙な関係を描く表題作の「ニート」。
 他人を傷つけることを避けようとするばかりに優柔不断に陥り、かえって人を傷つけてしまうホテルマンの主人公と、育ての親である叔母、遠距離恋愛中の女医との距離とその揺らぎを描いた「へたれ」ほか、いずれも珠玉の五篇。

働く意思とか、そういう大きい問題でなくとも、もっとずっと些細なことが。

例えば、朝、目覚まし時計が鳴っているのを止めて、再び眠りについてしまうこと。
「今すぐ起きなきゃ遅刻なのは承知だけれど、あと5分いや、あと30分だけ寝たい」
そして結局は寝過ごしてしまう。
こういうことは、ニートでなくとも誰にでもあることだ。

今すぐやらなきゃいけない、でも、ヤル気がおきない。

例えば、声に出して伝えなきゃならない想いがあるのに、言わなきゃいけないのは分かっているのに、いざとなると言い出せない。

似ている、というか、ある次元では同じなんじゃないだろうか。

働かなきゃいけないのは分かっている、でも、働きたくない。
同じなんじゃないだろうか。

何かがほんの少しだけずれてしまうだけで、私たちだってニート化してしまいそうな、そんな気がしてくる。
夕方、キミからメールが来た。

銀行行った。ちょっとびっくりした。オマエのことなめてたわけじゃないんだけど。でもありがとう。
で、街金に行ったよ。それからスーパーで牛乳買った。あとはタマゴともやしとインスタントラーメン。米はまだあるんだぜ。あと買ったのはさ、タバコ。久しぶりのタバコだよ。

キミにはしみったれが身についてしまっている。肉買えよ。もっと豪儀な報告しろよ。
「ニート」より

「ニート」
小説家の「私」と、ニートの「キミ」との不思議な関係。

「ベル・エポック」
婚約者を亡くした「みちかちゃん」の引越しの準備の手伝いに来た「私」

「2+1」
「ニート」の続きの話。

「へたれ」
「僕」は、遠距離恋愛の彼女の「松岡さん」のいる新大阪行きの新幹線に乗りながら、母親代わりの「笙子さん」を想う。
5編の中では、これが私は一番好きかな。

「愛なんかいらねー」
大学教員の「彼女」は、行きつけのダイニングバーで刑務所から出てきた元教え子の「彼」と再開する。

いつまでもここにいるわけにはいかない。僕はお湯が沸くのをコンロの前で待つように、次の列に並んでじっとすることにした。乗らなくちゃいけないのだ。今度の電車に。
「へたれ」より

絲山 秋子は初めて読んだんだけれど、良かった。
長編とか、他の作品もぜひ読んでみたくなった。

【追記】
『沖で待つ』絲山秋子 を読んで
『逃亡くそたわけ』絲山秋子 を読んで

絲山秋子 Official WebSite
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