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2009-01-24

映画「ブラインドネス」の原作『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ を読んで


白の闇 (新装版)ジョゼ・サラマーゴ(著), 雨沢泰(訳)白の闇 (新装版)
(NHK出版)
ジョゼ・サラマーゴ(著), 雨沢泰(訳)


souiunogaii評価 ハート5つ

感動しました。
とにかく読んで!この圧倒的な世界観を感じて欲しい。

内容紹介
1998年ノーベル文学賞受賞サラマーゴの最高傑作
わたしたちすべての目が見えなくなったら?

視界がまっ白になる病気。原因不明のまま、伝染病のように感染は広がってゆく。
政府はかつての精神病院を収容所にして、患者の隔離をはじめる。
そこでは、秩序が崩壊し、人間の本性がむきだしになってゆく。
阿鼻叫喚の世界。
やがて国中が目の見えなくなる病気に侵されて……。
圧倒的な空想力で描かれる現代の寓話。

2008年に映画「ブラインドネス」(フェルナンド・メイレレス監督)が公開されましたが、その原作小説が、この『白の闇』です。

物語を生み出したジョゼ・サラマーゴはポルトガルの作家で、この『白の闇』の成功がきっかけとなり、1998年ノーベル文学賞を受賞しています。
授章理由は「想像力、あわれみ、アイロニーに支えられた寓話によって、われわれがとらえにくい現実を描いた」です。

映画「ブランドネス」
映画「ブラインドネス」公式サイト

物語は、映画の予告編を観てもらえば分るように、原因不明の伝染病によって、すべての人が失明してしまう、というものです。

350ページ以上もある、大作です。
登場人物たちは名前を一切持たず、また会話文と地の文とを区別しない独特の文体、論理的かつ情緒的な描写、それらは私が今までにまったく読んだことのないスタイルで、
もうとにかく「すごい」と思うばかりでした。

読みながら、世界とは何か、生きるとは何か、人間とは、文明とは、心とは、と様々なことを深く深く考えさせられました。
しかし、同時に「早く先を読みたい、もっと」と感じさせるストーリーの強さもあります。

"人間"というものが持っている、最も汚い、醜い部分と、最も美しく、尊い部分を、これほどまでに印象的に描いた作品を、私は他に知りません。

こんな素晴らしい作品に出会えたこの事実に、とても感謝せずにはいられません。

とにかく、読んでください。
大げさかもしれませんが、この物語を知らずにいることは、何か大きな損失である気がしてなりません。

フェルナンド・メイレレスが見た白の闇:excite.ism
Blindness (Harvest Book)Jose Saramago (著), Giovanni Pontiero(訳)Blindness
(Harvest Book)
Jose Saramago (著), Giovanni Pontiero(訳)



2009-01-17

『ラジオデイズ』鈴木清剛 を読んで


ラジオデイズ (河出文庫)鈴木清剛ラジオデイズ
(河出文庫)
鈴木清剛


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
追い払うことも仲良くすることもできない男が、オレの六畳で暮らしている……。二人の10年ぶりにあらわれた同級生との気まずくやるせない1週間を奇跡的なまでのみずみずしのみずみずしさで描き、たちまちベストセラーとなった
第34回文藝賞受賞作

今日の新聞に「大卒就職内定率5年ぶり悪化」という記事があった。
"やりたいことを見つけられない若者"なんて言葉が一時期よく使われていたかれど、あの場合の"やりたいこと"って一体何なんだろう?
そんなことを、この小説を読みながら考えてしまった。

主人公はカズキ。21歳。高校を卒業後、カセットテープを造る工場のラインで働いている。実家を出て、今は一人暮らしをしている。

それと、カズキの彼女のチカ。20歳。ファッションの仕事がしたくて、専門学校に通っている。

そこに、ある日突然、カズキと小学5年のときに同じクラスだったサキヤが訪ねてくる。
カズキのアパートに1週間居候させてくれ、と。

3人に共通しているのは、"やりたいこと"が今はできていない、ということ。

自分のやりたいことが分らなかったり、選んだ道が正しいのか悩んでいたり、たとえやりたいことが見つかっていても、それを実現させるための方法を求めてさまよっていたり。
3人は、狭い安アパートの部屋で一緒に酒を飲み、またあるときは川に沿って土手を歩いたりしながら、はっきりと見えない自分たちの未来への思いを口にする。

あるとき、サキヤがカズキに言った言葉が、何だかとても印象に残った。
「知ってる?ホントにやりたいことがあったら、簡単に言わないほうがいいんだぜ」
「なんで」
「口に出せば出すほど、言葉で形になっちゃうんだよ。形になっちゃったらさ、人間はもう行動しようとしないんだぜ。喋ることでエネルギー使い果たしちゃうんだ。カズキの周りにもいるだろ。熱く語ってるやつら。ああいうのは、それで終わりだな」
「そうかな」
「言葉にしないかわり、強く想うんだ。凄く強く想って信じていれば、きっと現実になる」



2008-06-28

『ぼくだけの☆アイドル』新堂冬樹 を読んで


ぼくだけの☆アイドル (光文社)新堂 冬樹ぼくだけの☆アイドル
(光文社)
新堂 冬樹

souiunogaii評価 ハート2つ

内容紹介
27歳、彼女なし。情けないヤツだけど、だんだん可愛く見えてくる。

みーちゅんは、ぼくのもの。でも、それは二人だけの秘密なんだ――。
度胸も行動力もないけれど、わりとまじめで一生懸命、かなり夢見がちな27歳・あきおくんに訪れる、絶好のチャンスと最悪のピンチ。
めざせ、第二の『電車男』! 
絶対に無理だとわかっていても、アイドルに真剣に想いをよせたって、いいじゃない。
ファンタジック・ニート青春小説。

2007年に永井大主演でドラマ化もされた小説です。

主人公は、昆虫ショップで働くオタクな青年、あきお。
アイドルのみーちゅんが脳内彼女、極度の妄想癖と虚言癖あり。
真面目でいいやつなんだけど、行動がすべて裏目に出て、現実世界ではなかなか報われない。
そんな彼の前に突然に現れた桜子という可愛い少女。
二人の間に訪れるとんでもなサプライズ的結末が面白い。

物語は、ほとんど主人公あきおの脳内のセリフを中心に構成されてていて、彼の気持ちがダイレクトに伝わってきて、無意識にいつのまにか彼の世界に入り込んでしまっていた。

彼の周りを取り囲む人物たちも、くせのあるヤツばかりで、面白い。
自己中心の塊の店長。要領のいい後輩。そして九州なまりの強い母親。
楽しい人たちばかりだ。

そして何より、桜子があきおをからかう場面での、彼の脳内の描写が、抜群に楽しい。
「や、やめろよ……やめろってっ」
僕は、桜子の手から逃れ、蚊でも追い払うように頬をはたいた。
いら立ちが、その行為に表れていた。
桜子にたいするいら立ちだけではなく、「お子ちゃま」扱いされることに心地好さを感じている自分に、よりいっそう、いら立ちを感じる自分がいた。

2008-03-09

『デブになってしまった男の話』鈴木剛介 を読んで


デブになってしまった男の話 (求龍堂)鈴木剛介デブになってしまった男の話
(求龍堂)
鈴木剛介

souiunogaii評価 ハート2つ

内容紹介
モテモテのイケメンから、ある理由で101キロの見事なデブになってしまった大介。初めて味わうコンプレックスの重みに悩みながら、愛とは、優しさとは、本当の自分自身とは何かを真剣に考えてゆく。そんな中、彼に訪れた運命の出会いとは…。作者の実体験を元にした、切なくも元気をくれるラブストーリーをぜひご賞味下さい。

あっさりしていてスラスラ読める文章。非常に素直で分かりやすいストーリー。
物語の展開はとってもベタで、読みながら容易にラストが想像できてしまい、実際に想像通りの終わり方をしてくれる。

朝起きたら、自分の姿が変わっていて驚き嘆き悲しむ、という設定はカフカの『変身』なんかにも似ていて、面白い。
そこに至る経緯も、主人公の心の変化の様子も、それを読者に無理なく伝えるために作者がいろいろ工夫して努力して文章を書いたということが、多くの部分から読み取れる。
たまにはこういう小説もいいかな。
2008-02-02

『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ(作), 波多野完治(訳) を読んで


十五少年漂流記 (新潮文庫)ジュール・ヴェルヌ(作), 波多野完治(訳)十五少年漂流記
(新潮文庫)
ジュール・ヴェルヌ(作)
波多野完治(訳)

souiunogaii評価 ハート5つ

内容紹介
しなやかさとしたたかさ、そして仲間。子どもだけの力で、どこまでやれるか。

14歳のゴードンを頭に15人の少年たちだけを乗せたスクーナー船が、ふとしたことから荒海に出てしまった。
大嵐にもまれたすえ、船は、とある岸辺に座礁。島か大陸の一部かもわからないこの土地で、彼らは生きるためにさまざまな工夫を重ね、持ち前の知恵と勇気と好奇心とを使って、スリルに満ちた生活を繰りひろげる……。
“SFの祖”ジュール・ヴェルヌによる冒険小説の完訳決定版。

「十五少年漂流記」というあまりにも有名なタイトルのこの小説、フランス語の原著の題名は「2ヵ年の休暇」だそうだ。

この素晴らしい冒険小説を、今回私は病気で入院中に、病室のベッドの上で読むことになったのだけれど、他にすることも無く退屈していたせいもあって一気に読み通した。
小学生か中学生のときに私は一度この本を読んだことがある気がする。
それでも大人になってから再び飛び込んだその物語の世界は、私をたいへんに楽しませてくれた。

15人の小学生の少年たちが、2年間もの長い期間を、無人島で過ごした。
大人の力を借りることなく自分たちだけで生き延びた。
物語の中ではもちろん、少年たちはそれぞれに知恵と勇気と友情とを精一杯に出し合って、様々なピンチを、困難な問題を、一つひとつクリアしていきながら、この冒険小説を盛り上げてくれる。

この面白さはもう実際に読んで味わうしかない。
私はもうただひたすらに彼らの「生きる力」というか「たくましさ」みたいなものに感心するばかりだった。

と同時に、もしもこのような無人島に漂流みたいな事態が自身の身に起こったとしたら、彼らのように行動できるだろうか、なんて考えたりもした。
もちろん、絶対に無理だろうな。私なんてすぐに飢え死にだ。

だって、野生のウサギや鳥を狩って、殺して、それをさばいて焼いて、食べる、なんてこと出来っこないでしょう。

でもそんな風に考えていると、私たちが例えばマックやケンタッキーで食べる肉だって、スーパーで買うスライスされた肉だって、同じだろう?と。
元をたどっていけば、確かに生きていた牛の命があって、それを殺して、食肉に加工する工場があって、そこで働く人たちがいて、って。
そういう事実を、私はあんまり見ないように(想像しないように)しているなと、そんなことに今さらながらに気づいて、ハッとしたりする。

入院してるときには、平時よりも生とか命とかいうことには多少なりともやはり敏感になって、それでこういうことを考えたりするのかなと思ったりもするが。


また、今回私がヴェルヌの偉大さに感心したのは、この小説がかなり細部まで科学的にそして論理的に描かれているという点だ。
理系頭だからなのか、どうしてもこういうSF小説みたいなものを読んでいると、
「え?ちょっと待って、そこどうなってるの?説明は?」とツッコミを入れてしまいそうになる部分を多く見つけてしまうものなんだけれど、このヴェルヌの作品には、そういうことがほとんど無い。
すごいことだと思う。空想科学の祖、さすが。


私の場合は、今回は「生き物を食べる」ということについて再度じっくり考えてみろ、というメッセージを一番強く感じたんだかれど、その他にも、
子供向けに書かれたこの小説には、そういう人間にとって大切なことを教えようとしているんだなと思える部分がいたるところにあった。

最高の冒険小説。
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