HOME > 本(科学・テクノロジー) :このページの記事一覧
2007-10-07

『未来を予測する技術』佐藤哲也 を読んで


未来を予測する技術 (ソフトバンク新書)佐藤 哲也未来を予測する技術
(ソフトバンク新書)
佐藤 哲也


souiunogaii評価 ハート4つ

地球シミュレータという、日本が世界に誇るスーパーコンピュータがある。

「地球シミュレータは、非常に巨大なコンピュータである。横65m、縦50m、高さ17mの巨大な体育館のような建物の中に納められている。四百億円という高価なものであり、地震で壊れないように免震構造が施され、落雷で破損しないよう建物全体が8本のポールで囲まれて電線で覆われ、電磁シールドされている。」
「地球シミュレータ・システムの総電力は、約5メガワットである。」

著者は、このとてつもないコンピュータ「地球シミュレータ」のセンター長である。
いつの時代も求められる未来予測。気象予測、地震予測、経済予測など様々なニーズがあるが、コンピュータ・シミュレーションは、現代もっとも科学的信頼に基づいて行われる未来予測の手法である。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の調査にも貢献する「地球シミュレータ」を通し、シミュレーションの「今」と「展望」を解説し、新しい文化の胎動を俯瞰する。

本書のメインテーマはもちろん「地球シミュレータが可能にした地球丸ごとシミュレーション」であるのだが、内容はそれだけにとどまらない。

古代の人類が「占い」「祈り」によって自然の動きを予言しようとしていた時代に始まり、中世、近代、現代と、歴史的に順を追って自然科学がどのように発展してきたのかを説明している。
もくじ
第1章 一つの技術が人間の生き方を大きく変える
第2章 未来予測は「祈り」と「占い」から始まった
第3章 変わりゆく科学のパラダイム
第4章 近代科学の落としもの
第5章 コンピュータと情報産業
第6章 シミュレーション文化の胎動
第7章 未来を映し出す望遠鏡の世界
第8章 21世紀はシミュレーション文化の世紀
第9章 終章―未来への提言

エジプト人から量子力学まで。そんな歴史に思いを巡らせながら楽しみながら読める内容になっている。

そして、後半はいよいよコンピュータの話に入っていく。ここでも、歴史的な背景を丁寧に説明している。
手回し計算機に始まり、最初の電子計算機ENIACの話、コンピュータのしくみとその進化。
最後に、満を持して、地球シミュレータが登場してくる。

著者が、これほどまでに歴史的背景を大切に語るのには理由がある。
それは、地球シミュレータが、自然科学発展の歴史上、それまでには考えられなかった研究方法を可能にした初の機械であり、それは人々の意識を大きく変えるほどのインパクトを持った革新的な技術だったからである。

しかし、21世紀のはじまりとともに現れた地球シミュレータは、理論を凌駕し、新たな科学技術のパラダイムを彷彿とさせる風格を備えていた。ニューヨークタイムズをして「コンピュートニク」と名づけしめた本当の理由はここにあるのだ。日本人の関係者のほとんどは、地球シミュレータのピーク演算能力が40テラフロップスという、当時としてはとてつもない値だったからだと単純に今でも誤解をしている。この誤った認識は、日本人の科学に対する理解のレベルの低さを示す一つの実例だと思う。

キーワードとして何度も出てくる言葉は、マクロ、ミクロ、ホリスティック、部分、丸ごと、システム。

デカルトの要素還元論以来、自然を部分に分けて理解しようとしてきた人類が、初めて「全部を丸ごと考える」という方法を手に入れたのだ。
部分だけを研究していたときにはなかなか見えてこなかったものが見えるようになってきた。
「未来が視える」ようになったのだ。
人と自然の持続的発展にとって最も良いシナリオを、人類が比較・選択することのできる、最初の道具である。(中略)
地球シミュレータは、人類が開発したこれまでの技術の中で唯一、未来を直接の研究対象とし、その行く末を科学的に観測してくれる最初の道具といってもよいのである。

地球温暖化、異常気象、地震予測、などなど。
「未来を科学的に予測する研究」なんて、なんだかワクワクしてくる。

シミュレーションといえば、最近NHKで放送していたドラマ「スーパーストーム」でも、気象学者たちがハリケーンを高性能コンピュータ「テンペスト」でシミュレーションするシーンが、すごくカッコよく描かれていた。

さらに次世代スーパーコンピュータとして「汎用京速計算機」という国家プロジェクトも、2012年の完成を目指して動き出しているという。
今度もまた、人類の意識に革命を起こすような研究方法が生み出されるんだろう。楽しみだ。
人はシミュレーションによって、「未来を読むことができる」「未来を設計することができる」ようになる。未来を観る「望遠鏡」の発明である。

スーパーコンピュータといえば、ちょっと前に読んだ「スーパーコンピューターを20万円で創る」も非常に面白かった。

地球シミュレータセンター
理化学研究所 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部
書評 - 未来を予測する技術 :404 Blog Not Found
スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)伊藤 智義スーパーコンピューターを20万円で創る
(集英社新書)
伊藤 智義

souiunogaii評価 ハート5つ


2007-09-15

『ファインマンさん最後の授業』レナード・ムロディナウ を読んで


ファインマンさん 最後の授業 レナード ムロディナウ (著), 安平 文子(訳)ファインマンさん 最後の授業
(メディアファクトリー)
レナード ムロディナウ (著)
安平 文子(訳)

souiunogaii評価 ハート4つ

「自分はいま、いったい何をするためにここにいるのか?」
「自分がいま一番にやるべきことは何なのか?」
そんなある種哲学的とも思える問題を、これほどまでに深刻に問い続ける人が、哲学とは遠い存在だと思える“理論物理学者”の中にいたんだと知り、驚きました。
「人生」を考える、ある若い物理学者の、小説風の物語です。
本書には、1981年の冬に始まった、わたしのカルテクでの1年目の様子が書かれています。この世の中で自分の居場所をどう見つけたらいいのか、と もがく若い物理学者と、この若者に知恵を貸す、老境を迎え、死を目前にした著名な物理学者との物語でありながら、同時にこれはリチャード・ファインマンの晩年の物語でもあり、ノーベル賞授賞者の同僚マレー・ゲル=マンとの確執にもふれている。また、今日では物理学や宇宙論の主要な理論となっている、ひも理論の初期の話にも言及した。
はしがき より

本書を読むのに、難しい物理の知識は必要ありません。物理学者ってどんな風な人たちなのか想像もつかない、と思っている人でも面白く読める本になっています。

新人の物理学者であるレナードは、悩んでいました。偶然で書けた論文が偶然に認められて、世界有数の研究機関のカルテク(カリフォルニア工科大学)に自分の部屋を持つことができたけれど、もう自分には学者として何かを成す自信がない。全米から優秀な人材が集まるカルテクの中で、「自分は何の力も持っていない」と思いこみ、学者としてやっていく気力を失っていました。
そんな彼に、人生のヒントのようなものを与えてくれたのが、有名な物理学者ファインマンでした。
もくじ
1 おとなりはファインマンさん / 2 ファインマンとの出会い / 3 カルテクへの招待 / 4 電子的なふるまい / 5 知恵くらべ / 6 科学の探偵 / 7 物理とストリップ / 8 想像の翼 / 9 世界を変えるひも / 10 空腹の方程式を解く / 11 遊び心 / 12 ゴミ収集の哲学者 / 13 ひも嫌い / 14 理論の環境保護 / 15 ファインマンの虹 / 16 おんもしろい少年 / 17 物理学から見た小説 / 18 恐怖のシンボル / 19 古臭いでたらめ / 20 対称性の救い / 21 思い残し / 22 最後の贈り物 / 23 虹をつかもう / 24 虹のかなたへ

レナードの悩みよりは少し軽いけれども、似たようなものは、大学に入ったばかりの頃には、多くの人が抱えるものでは、と思います。
「大学の授業が、入学前に自分が思い描いていたものとは大きく違っていた」
「これが自分が勉強すべきことなのか?」
などと考えたりして、私も悩んだ記憶があります。

本書のタイトルは「ファインマン〜」ですが、この本の主役はあくまでも著者であるレナード自身であるように、私は感じました。
彼が、始まったばかりの人生の方向性に迷い、自分のなすべきことを、周囲の魅力的な学者たちとの交流の中で、一生懸命に探そうとする、その物語なのです。

数多く紹介されている“ファインマンとの会話”の中から、私の印象に特に残ったものを書いておきます。
「デカルトが虹を数学的に分析しようと思ったのは、虹にどんな特徴があるからだと思う?」
「デカルトがその気になったのは、虹を美しいと思ったからだよ」
(中略)
「聞いてもいいかな?小さい頃を思い出しみてくれ。君にとっちゃ、そんなに昔じゃないだろ?子供の頃、科学が好きだったか?科学に夢中になってたか?」
 わたしはうなずいた。
「物心ついた頃からずっと」
「僕もさ」先生は言った。「てことは、きっとおもしろかったんだろ」
そう言うと、先生はまた歩き出したのだった。

人生の行き先を決めかねて悩んでいるその時期に、どんな人に出会うのかは、とても重要なんだということを、この本は教えてくれます。
偉大な学者ファインマンとマレー、同僚のシュワルツにコンスタンチン、親友のレイ、多くの人々と素敵な出会いをはたすことができた著者を、私はたいへんうらやましく思いました。
「ファインマンさん 最後の授業」は、知の旅であると同時に心の旅でもある。質問と答え、そしてその間にある美しい神秘に心を動かされる一冊だ。


ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫) リチャード P. ファインマン (著), 大貫 昌子 (訳)
ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)
リチャード P. ファインマン (著), 大貫 昌子 (訳)

ユークリッドの窓~平行線から超空間にいたる幾何学の物語 レナード・ムロディナウ (著), 青木 薫(訳)
ユークリッドの窓 (NHK出版)
平行線から超空間にいたる幾何学の物語
レナード・ムロディナウ (著), 青木 薫(訳)
2007-09-08

『スーパーコンピューターを20万円で創る』伊藤智義 を読んで


スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)伊藤 智義スーパーコンピューターを20万円で創る
(集英社新書)
伊藤 智義

souiunogaii評価 ハート5つ

自然科学系のノンフィクションで、これほどにも面白いと思った本は久しぶりです。
もしも、高校時代や大学1年のときにこの本に出会うことができていなら、私の大学生活も、少しは価値のあるものになっていただろうに。

タイトルだけでは、「自作パソコンの話?」と思ってしまいますが違います。
東京大学の研究室で創られた、天文学の計算をするための特別なコンピューターの製作記録物語です。
通常のパソコンなどに比べて格段に速い計算を行なうスーパーコンピューター。
数十億〜数百億円をかけて、ときには国策として開発が行なわれるが、この分野でひときわ異彩を放つスーパーコンピューターが1998年に日本で開発され、話題を呼んだ。GRAPEと名づけられたそれは、開発費わずか20万円。天文学者たちによる手作りで、天文計算においては驚異的な計算速度を誇り、巨大楕円形銀河誕生の謎を解明するなど画期的な成果を挙げた。コンピューターの専門家のいない、たった四人の開発チームはいかにしてプロジェクトを成功へ導いたか…。無味乾燥に見える科学の世界の裏側で繰り広げられた熱い人間ドラマを、開発チームの一員だった研究者自らが活写する。

まさに「プロジェクトX」系の物語です。
物理学や天文学についての知識のある人やコンピューターの内部のしくみを少しでもしっている人なら、とっても楽しめる物語です。
(もちろん、そうでない人でも楽しめるように、専門的なことも簡単な言葉で分かりやすく説明されています)
「誰も作ったことのない物を、最初に創ることのカッコよさ」を感じながら、一気に読み終えました。
伊藤はドキドキしながらクロックスイッチを動かした。一回、二回、三回…。
データ列は伊藤の設計通りの変化を示していた。伊藤の身体に鳥肌がたった。
成功!
誰もいない研究室で、伊藤はじっとしていられなくて、ふうふう息をつきながら、うろうろと歩き回った。時間は深夜の3時を過ぎていた。
(中略)
電気をつけると伊藤はホワイトボードに大きく、「GRAPE-1完成! 9月2日」と書いた。

スーパーコンピューター開発の主要メンバー、杉本、夷崎、牧野、伊藤。4人それぞれが適材適所に分担された仕事をこなしていきます。
本当のチームワークとは何か?
それはきっと、馴れ合いでもなければ助け合いでもない。


この本では、著者は自分のことを「伊藤」と三人称で書いています。開発の現場での出来事を客観的に描いています。それによって、読む人も、開発メンバーの一員としてあたかも研究室にいるかのような気持ちになれます。
ですが当然ながら伊藤を見た世界・伊藤の心情が多く描かれております。
夷崎と伊藤のギクシャクした関係の描写などの、当事者だからこそ書けるんだなと思わせる場面がいくつもあり、そのことが、物語としてのたいへんな面白さを感じさせています。

さらに、メンバーそれぞれの高校時代にも触れ、天文学の道を選んだ経緯が説明されているの点も、興味深くよめました。
私は物理学を学ぶ大学生であり、来年はIT企業で働く予定ですので、特に身近に感じられました。
「自分はどうして今の学部学科を選び、何を目標にして勉強してきたんだろう?」
なんて考えながら読みました。

本書では、著者が原作を書いた「栄光なき天才たち」についても、どんな気持ちで原稿を書いたのか、などが描かれています。
中学生のとき、教室の本棚に担任の先生が寄付してくれた「栄光なき天才たち」の単行本がおいてあって、私は好きで読んでいました。それを思い出しながら、文章を書く力のある方なんだと、あらためて感じました。
読みやすさ、物語の組み立ての巧さ、読む人をぐんぐん引き込む力を持った本です。

最初にも書きましたが、高校時代や大学1年のときにこの本に出会うことができていたら、と強く思います。そんな感動を与えてくれる、非常に面白い本でした。

大学で理系の学部を目指そうとする受験生や、大学に入学したばっかりの1年生なんかに、ぜひおすすめしたい1冊です。

書評 - スーパーコンピューターを20万円で創る :404 Blog Not Found
手作りスーパーコンピュータへの挑戦―テラ・フロップス・マシンをめざして 杉本 大一郎
手作りスーパーコンピュータへの挑戦
テラ・フロップス・マシンをめざして
杉本 大一郎

栄光なき天才たち 1 (集英社文庫) 伊藤 智義, 森田 信吾
栄光なき天才たち 1 (集英社文庫)
伊藤 智義, 森田 信吾

ブレインズ―コンピュータに賭けた男たち 1 伊藤 智義, 久保田 真二
ブレインズ―コンピュータに賭けた男たち 1
伊藤 智義, 久保田 真二
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。