2008-05-31

『ブルータワー』石田衣良 を読んで

ブルータワー (徳間文庫)石田衣良ブルータワー
(徳間文庫)
石田衣良


souiunogaii評価 ハート4つ

内容紹介
悪性の脳腫瘍で、死を宣告された男が200年後の世界に意識だけスリップした。地表は殺人ウイルスが蔓延し、人々は高さ2キロメートルの塔に閉じこめられ、完璧な階層社会を形成している未来へ。「…この物語は平凡な一人の男が、天を衝く塔を崩壊から救う。『ブルータワー』へようこそ! 夢みる力が決して失われる事のない世界へ」

石田衣良が9.11テロで崩壊した世界貿易センタービルに衝撃を受けて、書き上げた初のSF小説です。
400ページを超える結構な長編です。でも本当に面白くって、寝る間を惜しんでどんどん先へと読み進んで、一気にラストまで読んでしまう。
あらためて、石田衣良さんの作家としての力を感じさせられます。

大きな戦争の後、恐怖の生物兵器「黄魔」によって地上に住むことができなくなり、交配した200年後の未来の世界。
人類は、高さ2キロメートルの超高層タワーのなかで何とか生き延びています。
タワーの下層には貧困に苦しむ人々がひしめき合い、タワーの上層には、富裕な支配者階級が優雅に暮らす。ひどすぎる格差社会。
そんな未来に、主人公はタイムスリップし、伝説の救世主の役割を与えられてしまう。
タワーの格差問題を解決し、人々を導き、戦争を終わらせ、生物兵器「黄魔」に戦いを挑みます。人類の存亡をかけて。

実に壮大なスケールの世界観で描かれる未来の物語。
そこには、現在に既に存在している様々な問題に対する危機感を強く呼び起こすものがありました。
果てしなく発達した科学テクノロジー。人類を滅ぼそうとする生物兵器・殺人ウィルス。解決の糸口を見出せないまま続く、戦争・紛争そしてテロ。

SFという新たなジャンルでも、石田衣良ならではの街の描写力は変わりません。
本作の舞台は新宿。200年後の荒れ果てた新宿の町は、現在と上手くリンクさせた表現によって、何ともいえないリアルさを持っています。

そして何より、この物語を感動的なものにしているのは、主人公の心の動きの表現。
意図せずして救世主としての役割を負うことになった彼は、タワーの上下の戦争の中で、自身の居場所を探してさまよう中で、何度も自爆テロや戦闘を目の当たりにして、何人もの人々の死を目にします。
命をかけて戦争を終わらせるために闘おうと決意する彼は、一人で活躍するヒーローではありません。周囲の様々な立場の人々と互いに協力し、正しいと信じる道を進んでいく、そういう感じです。
そんな彼の心情描写が、表現豊かな文章からあふれるように伝わってきます。

最後に人類を救うのは、科学テクノロジーでもコンピュータでもない。
もっと大切なものがある。そんなメッセージを感じさせてくれる素敵な物語でした。
スター・キング (創元SF文庫)エドモンド・ハミルトンスター・キング
(創元SF文庫)
エドモンド・ハミルトン


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