2008-01-19

『海の仙人』絲山秋子 を読んで

海の仙人 (新潮文庫)絲山 秋子海の仙人
(新潮文庫)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

孤独に向き合う男女三人と役立たずの神様が奏でる不思議なハーモニー。
芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。
何もしないひっそりした生活。そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。孤独の殻にこもる河野には、2人の女性が想いを寄せていた。かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。
内容紹介(新潮社)より

気に入っている海辺の町で、趣味の釣りと泳ぎを楽しむ気ままな一人暮らし。
テレビも新聞もない。ペットはヤドカリ。そして無職。
まさに“海の仙人”さながらの生活を送る男・河野が主人公だ。

うん、こんな生活も案外いいかもしれないな、なんてふと思ってしまう。
都会の便利な暮らしに一度慣れてしまうと、そこから離れることは難しいと分かっていながら、いつかは、と仙人の生活にあこがれる変な自分に気づいたりして、おかしいよなと思う。

その河野の目の前にある日、ファンタジーという神様が現われる。
このファンタジーという神様、実にいい。
何か超能力的な力を持っているわけでもなく、願いをかなえてくれるわけでもなく、ただ河野のところに居候するだけ。不思議だ。
何より、神様という特殊な存在であるはずなのに、河野は驚きも怖がりもせずに、さも当然のようにファンタジーを受け入れてしまうところが、不思議だ。
でも、そこを、サラッとした文章に、これはこういうものなのだ、と納得させられてしまう。

そして、男女の登場人物たちが主人公にからんできて、物語は進行していく。

クルマや酒・料理の描写なんかは文句なしに上手くて、絲山作品の味わいのひとつだよなとあらためて思う。

敦賀、金沢、新潟、水戸、名古屋、などなどいろいろな町が出てくる。
主人公が抱える過去からのトラウマ、そこに決着をつけるための車での旅。

扱っているテーマはいつになく重たく深いもので、闇っていうか陰っていうか、それが物語後半にドカッと乗っかってきて、前半とのギャップもあってか、読んでいて少しの間ものが考えられなくなる感覚になった。

「孤独」って言葉が何度も出てくる。

それなのにだ、文章は終始一貫して軽やかさ、さらさら感、清涼感を失わない。
だから、重たーいテーマでありながら、嫌な暗さみたいなものがない。

ラストは、何だかいろんなことを想像させる意味深なものになっている。
幸福とは何か、みたいなことをちょっと考えたくなる、読んでよかったと思える小説。

ファンタジーの言葉で、特に印象に残ったものを2つ。
「ファンタジー、なにかをするってことは前にすすむことなんですか?」
「どっちが前かはわからんがな。物事が連鎖するのは間違いないから、前に進むこともあるだろう」

「そうだ。だから思い出せないのが一番正しいのだ。真実とはすなわち忘却の中にあるものなのだ」

絲山秋子 Official Web Site


この記事へのコメント
トラックバックしていただき、ありがとうございます。
・・・なのに変にカスタマイズしているせいか、表示されず、すみません。
そうですね、重いテーマをさらっと描けるのも著者のくぐり抜けた経験が深いからなのでしょうね。
Posted by at 2008-01-20
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