2007-11-10

『沖で待つ』絲山秋子 を読んで

沖で待つ (文藝春秋)絲山 秋子沖で待つ
(文藝春秋)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート4つ

あっさりしているのに、コクがある。(ラーメンのスープみたいな言い方だけれど)そんな表現がぴったりな小説。
文章はサラッと軽くて、スラスラ読める。でも読書後にしっかり残る深い感じがある。
これが、絲山秋子なんだと。

本書には2つの作品が収められている。
「勤労感謝の日」と「沖で待つ」。
どちらも、30代の女性が主人公の話。
すべての働くひとに贈る、芥川賞受賞作!
住宅設備機器メーカーに同期入社して、福岡支社に配属された太っちゃんと女性総合職の「私」。営業マンとしてバブル期を共に働くうち、「仕事のことだったら何だってしてやる」関係が育っていく。しかし、太っちゃんの突然の死。約束を果たすため、「私」は彼の部屋にしのびこむ……。信頼と友情を確かな筆致で描く「沖で待つ」に「勤労感謝の日」を併録。働く現場の大変さと充実感を知るすべての方にエールを送る傑作短篇集です。
文藝春秋 書誌ファイルより

「勤労感謝の日」は、36歳独身無職で母親と2人暮らしの恭子が主人公。
「正当な理由のない自己都合退職者」というレッテルを貼られ、職安で再就職先を探す日々。
ある日、近所の人からお見合いの話を持ちかけられる。しかし、その相手の男がサイテーの奴だった。

人生のピークを過ぎてしまったのかもしれない。明日も、明後日も、この先に何を目指すべきなのか分からない。
ゴールはどこにあるんだろう。
パンプスを鳴らしながら商店街に入るとクリスマスソングが聞こえた。サンタクロースなんていないってみんな十歳やそこらで判るのに、なんで残りの人生七十年間サンタクロースなんだろう。夢がある?夢なんか見てる暇あるか。

疲れてるのは、自分だけじゃないんだと、確認できる。

そして、「沖で待つ」。
久しぶりに感動する小説を読んだ、そんな気がする。

主人公はメーカーの営業として忙しく働く女性の、「私」。
「私」は、会社の同期の男性と、ある約束をする。
「先に死んだ方のパソコンのHDDを、後に残ったやつが破壊するのさ」

誰だって、自分のPCの中に保存してあるデータには、他人には見られては困る種類のものがあるだろう。

そして、男は死んでしまう。「私」は約束を守るため、彼の自宅へ、彼のPCを壊しに行く。

今は、まだ学生の私には、会社の同期っていうのがどういうものなのかは、具体的にはよくわからない(たぶんバイト仲間とは違うのだろう)。
仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。
同期ってそんなものじゃないかと思ってました。

忙しく働く営業職の人の姿っていうのも、(身近にそんな人はいないし)、
残業して午前3時にタクシーで帰宅したり、40度の熱があっても仕事に行ったり、なんて世界はなかなかイメージできない。

来年から社会人になる予定の私には、忙しくて過酷な中にも、面白さを見つけるんだろう、なんて漠然とした想像しかできない。

それでも、この「沖で待つ」を含めて、絲山さんの書く、会社で働く人の姿は、どこか「空しさ」みたいなものが際立って感じられる。

嫌なことも良いこともあって、それなりに苦しいこと辛いことも乗り越えて、仕事の上では成長して、評価もされ、
それなのに、「正直、これでいいのか?」って思いが日々たまっていく感じ。
迷っているっていうのか。
その不思議な「空しさ」を抱える主人公に、(なぜそこに魅力を感じてしまうかはわからないが)強く惹かれてしまう。
「仕事がないんなら帰りなよ」
「俺がいちゃまずいか」
「まずかないけど、なんにもいいことないよ」
「別に悪いこともおこらないさ」

2作品とも、30分くらいで読めてしまう、短い小説。
でも読み終わった後の、余韻は長く長く残る。

またまた「絲山秋子は良い」と感じてしまう一冊。

【関連】
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絲山秋子 Official Web Site


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