2007-10-22

『深層水「湧昇」、海を耕す!』長沼毅 を読んで

深層水「湧昇」、海を耕す! (集英社新書)長沼 毅深層水「湧昇」、海を耕す!
(集英社新書)
長沼 毅

souiunogaii評価 ハート4つ

「生物海洋学」という学問があるそうです。
海洋生物学と聞き間違えてしまいそうですが、両者は異なる学問です。
まえがきによると、生物海洋学は海洋における生物の「働き」を論じるもの、だそうです。
本書は、広島大学の長沼先生が、自身の講義をベースに書いた、生物海洋学の入門書です。
深層水が表層まで上がる海洋現象「湧昇」は、表層の光とミネラルたっぷりの深層水が出会うところであり、まさに海洋生物生産の鍵である。
本書では、海のメカニズムについてわかりやすく分析・解説し、海洋の持続可能な食糧生産を提言・検討する。「湧昇」を有効利用できるならば、100億人が贅沢なマグロをお腹いっぱい食べることも夢ではない!

「○○学」の入門書、と呼ばれる書籍は各分野で非常に多く出ているけれど、その手の本は大きく分けて2種類あると私は思う。
「教科書的・参考書的な構成で、ちょっと堅い、難しい」ものと、
「身近なテーマを扱い、読んでいて疲れない、分かりやすい」ものだ。
(例えば、前者では「松井教授の東大駒場講義録」(集英社新書)、後者では「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」 (光文社新書)が私は思い浮かぶ。)
まあ、難しい・分かりやすいという判断は、読者がどれだけ予備知識を持っているかによる部分も大きいかもしれないが。

で、本書はというと、もちろん後者に入る。
テーマに「これからのマグロ食」「新時代の食文化」を掲げている。
専門用語の使用は必要最低限におさえていて、しかし重要な概念はページを多く割いて丁寧に解説している。
そして文章スタイルも良い。
おそらく、長沼先生の授業も、学生の人気がきっと高いのだろうな、と想像させる。
その人がまだ知らない事柄を、どうやって興味・関心を持たせ、どうすれば分かるように教えられるか。
ものを語るときの、要素の選び方・順番・休憩のタイミング、それらを良く分かっている。
読んでいて実に心地よい。

そういえば、以前NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」に出演していた長沼さんは、本当に楽しそうに自分の研究を語っていた。

さて、前置きが長くなったけれど、内容の話へ触れていこう。
もくじ
第1章 マグロの生活圏の生産力
第2章 マグロを支える食物連鎖の役者たち
第3章 マグロの生産を支える湧昇流
第4章 100億人のマグロ生産を目指して

海流・大気の循環・地球の自転などの地球規模の自然のダイナミックな話。
プランクトンからマグロ・クジラに至るまでの海の食物連鎖の話。
種々の生物(プランクトン、クラゲ、サンゴなど)の生きるメカニズムの話。
植物プランクトンの光合成と深海のミネラルの関係の話。
などなど、視点を順に移しながら、海の中で、海水はどう流れ、栄養分はどう移動し、生物たちはどうつながりあっているのか、ということを自然に理解させてくれる。

そして、後半ではいよいよ「未来の漁業」を考える、ワクワクする計画の話へとつながっていく。
海の底に眠っているミネラルを表層まで持ち上げるのは、どことなく「海を耕す」というイメージですね。人の心を潤すカルチャー(文化)、土を耕すカルチャー(耕作)、そして、海を掘り返す第三のカルチャーの時代を迎える予感がします。

食物連鎖のピラミッドの一番下、最底辺である植物プランクトンを大量に育てることによって、小魚、イワシ、エビなどを増やしていく、という考えが紹介されている。
そして、そのための方法として、深海の豊富にある栄養・ミネラルを、人工的に海の浅いところに持ち上げて、太陽の光と栄養分に満ちた海を作ろうというのだ。

とてもスケールの大きなこの計画だけれど、本書を読んでいると、それがまったくSF的な世界ではなくて、十分に実現できる可能性をもっていて、かつ実現させる価値・必要性のあるものなのだと感じられてくる。

養殖や栽培漁業よりもさらに2歩3歩も先に進んだ漁業、まさに海を耕す漁業。

近い将来に、きっと現実のものになっているんだろうと想像すると、今からワクワクくる。
30年後のスーパーの鮮魚コーナーやお寿司屋さんのメニューを想像すると、今からドキドキしてくる。

本書には多数の海の生き物が紹介されてる。
読み終わった後は、きっと水族館に行きたくなる1冊。
生物海洋学入門 BIOLOGICAL OCEAOGRAPHY (講談社)Carol M. Lalli, Timothy R. Parsons(著), 関 文威, 長沼 毅(訳)
生物海洋学入門 (講談社)
Carol M. Lalli, Timothy R. Parsons(著)
関 文威, 長沼 毅(訳)

深海生物学への招待 (NHKブックス)長沼 毅
深海生物学への招待 (NHKブックス)
長沼 毅

海洋深層水利用学会

広島大学 海洋生態系評価論研究室
生物海洋学 :広島大学シラバス

【関連記事】
生物学者・長沼 毅を「プロフェッショナル 仕事の流儀」NHK で見て。
『宇宙がよろこぶ生命論』長沼毅 を読んで


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