
でかい月だな (集英社)
水森サトリ

souiunogaii評価 
「でかい月だな」というタイトルだけでは、一体どんな物語なのか、なかなか想像できない。
でもなんとなく表紙を見て、「この本は良い」そんな予感を感じた気がしたんです。
その結果、とっても良い小説でした。
青春、爽やか、ちょっぴりSF、みたいな要素が入っていて、文章も好感の持てるもので、この本を手にとってよかった、と思いました。
あらすじ
ある満月の夜、友人に突然崖から蹴り落とされた中学生の「ぼく」。
一命はとりとめるが、大好きなバスケットボールができない身体になってしまう。加害者の友人は姿を消し、入れ替わるように「ぼく」の前にあらわれたのは、インチキ錬金術師、邪眼を持つオカルト少女、そして「やつら」。そのうちに、世界は奇妙な「やさしさ」につつまれてゆき、やがて、地球のみんながひとつに溶け合おうとする夜がくる…。
一人称の「ぼく」が主人公なんですが、読んでいる私もその少年の目線で物語の世界を見ているような気になれました。
ユキ、中川、かごめ、3人のキャラがとっても好きになりました。
物語の前半は非常にゆっくりな展開で、実は本文を3分の1くらい読み進めても、この物語の正体が見えませんでした。
現実と夢が入り混じったなんとも言えないもやもやした感じ、この後一体何が起こるんだ!っていう期待と少しのイライラとを抱きながら読むことになりますが、文章が良いんで、退屈はしません。
脚の後遺症のせいで、大好きなバスケットを取り上げられ、退屈な毎日を送りながら、なぜ綾瀬は自分を蹴ったのかに答えが出されないことに悩むユキ。
理科室で植物の声を聴く機械を作り、周囲の人間とは距離を置いているが、ユキとは友だちであり、苦しんでいるユキを助けてくれる中川。
眼帯をし、教室で孤立しているが、一人だけ話しかけてくるユキをも無視し続け、ユキに「世界でいちばんアンタが嫌い」という かごめ。
中川京一にしろ横山かごめにしろ、どこか辺境の地に旗を立て、毅然と立っているように思う。その立ち位置からはどんな景色が見えるんだろう。そこは荒涼とした世界だろうか、それとも、とても美しい場所なのだろうか。
ぼくはと言えば、自分の立つべき位置がわからず、どこでもない場所にただぼんやりと浮かんでいるみたいだった。そしてぼくの目に映る世界はピースの欠けこぼれたジグソーパズルの絵のように、いくつかが不足していた。
ぼくの埋めるべきピースを握ったまま、どこかに消えてしまったひとがいる。
ぼくは彼を待っていた。
そしていよいよ後半の3分の1くらいから、徐々に加速していき、それまでもやもやしていたパズルのピースが組み合わさり、最後にいろんなことが分かってくるんです。オブラートみたいに薄いSFが物語全体を包んでいきます。「ぼく」の目で世界を見ながら、「そうだったんだ!そうなんだよ!」そんな感じを楽しみながら読むことができました。
中学生の頃の自分はどんな人間だったかな、なんて思い返しながらいろんなことを考えました。
親、兄弟、クラスメート。いろんな悩み・不安を抱えながら、それでもどうにかして今の苦しい状況を変えていこうとする、そんな中学生の青春を描いた、読み終わったあとの爽やか感がなんとも言えない、青春小説です。
生きてりゃこの先まだ悪いことがいっぱいある。――だから生きよう
水森サトリは、この小説で第19回小説すばる新人賞を受賞しています。
素敵な新人作家に出会えたと嬉しい気持ちになりました。
「次回作もぜひ読みたい」私を水森サトリのファンにさせてくれる、「でかい月だな」はそんな本になりました。
【追記】






