2007-09-02

『予備校が教育を救う』丹羽健夫 を読んで

予備校が教育を救う (文春新書)丹羽 健夫予備校が教育を救う
(文春新書)
丹羽 健夫

souiunogaii評価 

著者の丹羽健夫さんは、証券会社などに勤めた後に、大手予備校の河合塾に入社し(講師ではなく)事務方の要職を歴任された方です。
第二次ベビーブーム世代が受験生となる1970年代に、地方予備校だった河合塾は一気に大躍進をとげ、駿台・代ゼミと並ぶ3大予備校と呼ばれるまでに成長しました。
この本は、当時 教務部長として河合塾で数多くの改革を行なった著者が描く、
「河合塾の成長物語」です。
進学率のアップ、それに伴い年とともに増大する浪人生を抱えた予備校は、この時期、すなわち第一次進学率アップ期に、内容的に従来の公教育の小型版から脱皮し、新たな教育類似期間としての道を歩みはじめるのである。そのきっかけとなったのは全共闘世代の新種の講師たちが予備校の教壇に登場したことであった。

しかし、単なる「河合塾成長物語」に終わらないところが、この本の価値だと思います。
予備校という“しがらみの無い教育機関”だからこそ見える教育の問題点と、予備校ならではの解決法が数多く示されています。
予備校だけでなく、高校(文科省)や大学まで含めて、教育機関がめざすべき方向を提案しています。
もくじ
第一部 予備校のお話
1 逃げた生徒をおいかけろ
2 原始予備校から近代予備校へ
3 予備校の商品
4 講師がつくる「教育ワンダーランド」
5 予備校の全国展開

第二部 学校のお話
1 本質を考える授業を取り戻せ
2 納得型の沈殿
3 老若先生のほどよいバランスを
4 学校文化と社会性
5 正しい中高一貫性を目指そうよ
6 勢いのある学年とそうでない学年
7 なぜ75パーセントの中学生が塾に通うのか

第三部 大学のお話
1 いままでのやり方では難関大学に入れない!?
2 少子化で「よき社会人養成大学」はどうなる
3 教育学部の行方
4 郷愁の旧制高校
5 全共闘運動とその後の不思議

去年は世界史の未履修が明らかになったりして、進学校の過度の受験指導が問題になったりしました。
この本でも、「高校が受験テクニックばかりの授業をするから、予備校は教科の本質を教えるようになった、かつてとは逆の体質になっている」というようなことを指摘しています。
私も県立の進学校を卒業後、浪人して駿台予備校で学びました。
実際に、高校の教師よりも予備校の講師の方がはるかに魅力のある授業をしていたように思います。
「学問の本質を見すえて勉強して欲しい」という熱意が伝わってくるというのか、「とにかく毎日授業を受けるのが楽しみでしかたがなかった」という高校ではけっして感じることのなかった気持ちが、予備校では感じることができていました。
日本中の普通科高校が大学合格実績を上げんと奔走しはじめていたのだ。そして高校が予備校のお株を奪って、知識の記憶、ドリル、正解発見のテクニック授業に走り出していたのである。
教務部長は聞いた。
「予備校でやることを高校がやってしまっていることはよく分かった。じゃあ、あなた方は教室で生徒に対して何を教えようとしているのだ」
髭の講師が答えた。
「他の人は知らんが俺は生徒たちが高校でやり残してきたことを教える」
「やり残してきたことってどんなことですか」
「いいですか。生徒たちは答えの出し方は教えてもらってきているが、なんでこの問題が出されるのかとか、なんでこうすれば正解が出るのかとか、なんでこの教科を学ぶのかとか、本質というか教科の根っこの部分を教える教育をほとんど受けてきておらん。だから教科の根っこのところ、本質の部分を教える。それしかない」

著者は予備校のあるべき姿を模索する中で、数多くの新たな取組みに挑戦しています。キーワードだけを挙げていくと、
全共闘世代講師、運動会、缶ビール、逆さま世界史、誤答にも部分点、クラス分け、模擬試験、合格可能性、人気講師、オリジナルの教材、大検コース、韓国・中国との入試比較、納得型の生徒と理解型の生徒、カンボジアへのボランティア、など
です。
予備校ならではの数多くのデータを表やグラフで分かりやすく見せてくれ、さらに、生徒や講師の生の声が聞こえてくるエピソードが数多く紹介されていて、それが読んでいてとっても面白いです。
利益を追求するだけの企業ではなく、「真に日本の教育を良くしていきたい」と願い、そのためにやれることは全部やってやろう!という予備校の人たちの気合が伝わってくる部分がいくつもあります。

私は予備校で勉強することができて本当に良かったと思っています。
それは、高校では知ることのできなかった多くのことを、予備校で学ぶことができたからです。
でも、欲を言えば、いま予備校が教えている「教科の本質」のようなことを高校でも学ぶことができるのならそれが一番だと思います。

文科省や法律に縛られた小中学校・高校と、しがらみのない予備校とが協力し合って、日本がかかえる教育の問題を解決するための方向性が、この本の後半の第二部第三部でも提案されています。

「予備校が教育を救う」というタイトル、読む前は少し大げさな言い方なのではと思いました。
でも、政府・文科省で教育改革を議論している人たちの作る案なんかよりも、予備校の人たちが考えていることの方がずっと良いように思えてしまう、「実は予備校こそが教育を変える起爆剤になるのでは」と感じさせてしまう、そんな本でした。
とはいえ、根本的なシステムの違いがあるのだから、公教育は塾・予備校に勝てるはずがない、と割り切ってもらっては困る。なにしろ日本の教育の量的な根幹は公教育にあるのだから。


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