2010-08-18

『きのうの神さま』西川美和 を読んで

きのうの神さまきのうの神さま
(ポプラ社)
西川美和


souiunogaii評価 

内容紹介
『ゆれる』で世界的な評価を獲得し、今、最も注目を集める映画監督・西川美和が、
“真実と嘘の境界”をテーマに日常に潜む人間の本性を渾身の筆致で炙りだした短篇小説集。
映画『ディア・ドクター』に寄り添うアナザーストーリーズ。


映画「ディア・ドクター」の監督・西川美和さんが、小説という表現手法で、映画とはまた少し違った視点から、同じ「僻地医療」にまつわる様々な問題をテーマにして描いた5つの物語からなる短編集。

映画の方は、笑福亭鶴べえやえいたの演技が光っていたし、ストーリーも人物も情景も、一つひとつの描写がとてもたくみに作られていて、すごく良かった。
そして、その輝きは、小説になっても全く失われておらず、いわゆるノベライズ本みたいな薄っぺらな本なんかとは違って、このあたりからも、西川美和という人の表現者としての才能を十分に感じさせてくれる。

映画「ゆれる」という作品でも、映画と小説の両方から同じようなすごさを感じたっけ。

5つの短編の物語は、それぞれが「僻地医療」という共通のテーマを持ちながら、医師・看護士・患者・家族という主人公となる人物の視点や、物語の舞台を移し変えながら、別々の独立した世界を描いている。
そういう作りそのものも面白いし、一つひとつの話の深さもあって、読んでいて実に様々なことを考えさせる、ずっしりと重さのある小説になっている。

「1983年のほたる」は、映画にも出てきた「りつ子」さんの小学生時代のお話。
彼女が何を思って、どんな気持ちで村を離れることになり、医者の道に進んだのか、その原点ともいえるものが、少女が村人と自分との間に見えない壁を作り距離を意識し始めるその姿が、上手に綴られている。
それでも、人と同じは、いやだと思う。学校の友だちのことが嫌いなわけじゃない。家族のことも。村のことも。見下したりなんかしてない。たぶん。けれどこの先、全く変わりばえのしない人たちと、全く変わりばえのしない風景を見て、お姉ちゃんたちが過ごしてきた後を全く同じようにたどるのは、わたしはいやだと思っている。


「ありの行列」は、となる離島に、代診で来た男の話。
学会で島を数日の間留守にする老医師の代わりに、男はあるおばあさんを往診する。
そのおばあさんは、退屈なのが嫌だからと、死ぬ注射を打ってくれと男に頼む。
離島という場所が抱える問題を、西川流に描くとこうなるのか、と。


「ノミの愛情」「ディア・ドクター」は映画のアナザー・ストーリーともいえる物語。
医師を夫にもつ元看護士の女、医師を父親にもつ男。
ある種のドクターという職業への憧れをもち続ける人間の、苦悩をこれまた上手に描いている。


「満月の代弁者」は、ある村で長年診療所で医師として仕事をしてきたある男が、ある事情により村を離れることになり、後任の医師への引継ぎをしながら村人たちを診て周る。僻地医療を自分の仕事とする意思の覚悟を描いた、物語。

今さら命が尊いだなんて僕は言わないですよ。だけどとにかく楽に死ぬことよりさきに、楽に生きることです。あなたも、サキヨさんも。少しは逃げたり、人の力に頼ったりすることを考えてもいいんだ。僕だってあなたを見殺しにしたいとは思わないですよ。


映画「ディア・ドクター」公式サイト

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