![]() | (小学館文庫) 中村航 ![]() souiunogaii評価 |
内容紹介
実家で飼っていた愛犬・ブックが死にそうだ、という連絡を受けた僕は、彼女から「バイクで帰ってあげなよ」といわれる。ブックは、僕の2ストのバイクが吐き出すエンジン音が何より大好きだったのだ。
4年近く乗っていなかったバイク。彼女と一緒にキャブレターを分解し、そこで、僕は彼女に「結婚しよう」と告げた。彼女は、1年間(結婚の)練習をしよう、といってくれた。愛犬も一命を取り留めた。愛犬→バイク修理→プロポーズ――。幸せの連続線」はこのままどこまでも続くんだ、と思っていた。
ずっとずっと続くんだと思っていた。精緻にしてキュート、清冽で伸びやか。
今、最注目の野間文芸新人賞作家が放つ恋愛長編。
小学館から出た作品で、しかもタイトルに"泣く"なんてフレーズが入っていて、これじゃあいかにも「泣ける恋愛小説です!」っていう感じがあんまりにも過ぎるだろ。
最初はやっぱりそんな風に考えてしまうけれど、
しかし、これが「作者が中村航である」ということになると、話は別で、
それだけで余計な不安はすぐにかき消されてしまう。
実際、この本を手にとるのに一切の躊躇は無かった。
そして、読んで良かった。感動した。
この『100回泣くこと』は、確かにジャンルとしては恋愛悲劇小説に入るのかもしれないけれど、
しかし『世界の中心で、愛をさけぶ』みたいな作品とは全然違う種類の作品だと思う。
これはやっぱり読んでみて感じてもらうしかないと思うのだけれど、
それは一言でいえば、中村航という作家の持つパワーのすごさ、みたいなもの。
一つひとつは小さなありふれたことなのに、それらを「実はかけがえの無い大切な幸せの証なんだ」ってことをハッと気づかせてくれる。
中村航がつむぎ出す言葉の、キラキラと輝き、ふんわりと柔らかくて、温かみにあふれるその"パワー"に、不思議と心がいっぱいに満たされる。
読むたびに、「ありがとう」って気持ちが沸きだしてくる。イイ。
うっかり新幹線で読んで号泣しました。
透明な世界をあなたにも。
ゴスペラーズ 北山陽一
主人公の「僕」は、彼女と結婚の約束をし、一緒に暮らし始める。
何でもないような出来事にだって、意味を見つけて、とっても大切なイベントとしてきちんと描き、忘れてはいけない思い出に変えてしまう。
中村マジックと言ってもいい、2人の間に作れラルHAPPYにあふれる空気の感じを、
本当に素敵な表現で伝えてくれる。
読んでいてこんなにイイ気持ちになれる作家は他にはいないとさえ思う。
食事の場面や、小物の描写など細部まで、幸せな感じが滲み出している。
一つひとつのエピソード、一つひとつのシーンに、中村航ワールドならではの要素がちりばめられていて、面白い。
さまざまなできごとが、僕らに点を穿つ。その中から幾つかを選び出して、僕らは線を引く。そうやって物語を紡いでいく。
主人公が古いバイクを修理して走れるようにするエピソードがあるのだが、
分解したバイクの部品の描き方は『夏休み』でのカメラの分解シーンにも共通するものがあって、
作者の"機械"に対するある種の信仰のような熱い思いが伝わってくる。
さらに、物語に厚み・深みを与えてくれる最高の脇役たちのキャラクターも、実にイイ。ガソリンスタンドの加藤さん(『リレキショ』にも登場したあの人だ)、
試作室の石山さん、彼女の両親。
主人公が、彼女と出会う前の、浪人生時代の話や、実家の家族や飼っていた犬についても丁寧に描かれていて、
それが、主人公がどんな生き方をしてきて、自分をどうやって作ってきたのかを感じられるようになっていて、非常に上手い。
今、僕らには確かに何かが起こっていた。だけどそれはあんまり自然に僕らの皮膚に溶け込んでしまったため、何も起こっていないようにも思えた。
その代わりに――。
誓いの言葉の後に、彼女が今日の日付を書き込んだ。
そっと封印するように、スケッチブックを閉じた。
『絶対、最強の恋の歌』や『僕の好きな人が、よく眠れますように』みたいな幸せいっぱいのハッピーエンドの作品もそれ自体はとても素敵なんだけれど、
でも、それはやっぱり本作のように、幸せが永遠には続かないことをきちんと示してくれる物語があるからこそなんだと、はっきりと思う。








