2009-01-11

『おひるのたびにさようなら』安戸悠太 を読んで

おひるのたびにさようなら (河出書房新社)安戸悠太おひるのたびにさようなら
(河出書房新社)
安戸悠太


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
昼休み、会社の外階段で行われる3人だけの遊び。真司の任務は近くの病院へ行き、無音のTVの昼ドラを観ては、先輩女子社員にストーリーを想像して報告すること。視覚と聴覚のずれに揺れる世界をせつなく描く、企みに満ちた傑作!
第45回文藝賞受賞作。

安戸悠太さんの『おひるのたびにさようなら』には、すっかりやられました。
最後まで読んだところで、ようやくこの小説の本当のストーリーをきちんと知ることができました。
そうか、そういう風になっていたんだ、と。
いやいや、途中までは完全に騙されていました。

安戸悠太さん、なかなかやるじゃないですか。

この小説は、登場人物、語りの視点、内容、などの面で考えると、大きく3つの構造に分かれて作られている。
1つ目は、真司という男性と、その先輩の2人の女性が、会社の昼休みにテレビの昼ドラの話をする部分。
2つ目は、彼らが見ている昼ドラのストーリーの部分。
そして3つ目が、その昼ドラを演じている女優やスタッフを中心とした部分。
これら3つの構造が、非常に上手く計算されたやり方で組み合わされて、1つの物語を形作っている。

三人称による、登場人物の描き方、視点の書き分けなどは、とても良くできていて、作者の小説家としての力を感じさせる。
錆びた鉄の匂い。雨の匂いの奥にあった。
真司は外階段にいた。遠くを見つめる目をしていた。雨は止んだが、真昼でも暗い。見下ろす街灯は点ったまま、道沿いにずっと遠くまで続く。緑がかった白が滲む。濡れた道路は黒く光った。静かだった。ほかに誰もいなかった。
もういちど、大きく息を吸い込んだ。錆びた鉄の匂いだった。やっと見つけた。この場所で深く呼吸するたび確かにあったのに、初めて嗅ぎ分けられた。
もう真司が、ドラマの正解を聞くことはできない。

さらに、場面の情景描写には、小説というよりもむしろドラマや映画を見るときに感じるような、シーンごとの流れやつながりを意識させるものがある。
映像の面白さのある小説と言ってもいい。

大きな3つの構造には、それぞれに独立した物語が展開していて、それらが最終的に1つの物語として完成されている、こういう作品を読むと、「小説を読む」という行為そのものに対して、いろいろなことを考えさせられる。

人物、セリフ、心情、情景、ストーリー、場面展開、物語を読む視点の置き場所。

読む、というのは、何とも奥深く、何とも楽しく面白いものなんだと、あらためて感じることができた。
自分でも、終わりまで見通せてしまったら書けなかったと思います。最後までゆらゆらしていたかったんですよ。終わらなくていいんだったら、それぞれの枝がどこまでも広がっていくように、ずっと書いていたかった。
安戸悠太 特別インタビュー (聞き手 神山修一):文藝2009春号

「おひるのたびにさようなら」というタイトルの持つ本当の意味を知るときの感動を、ぜひとも味わっていただきたい。




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