2008-12-23

『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで

絶対、最強の恋のうた (小学館文庫)中村 航絶対、最強の恋のうた
(小学館文庫)
中村 航


souiunogaii評価 ハート5つ

内容紹介
社会科教師のおでこのテカリ占いをしては大受けしていた陽気でマシンガンな中学時代からクールで一目置かれる弓道部員の高校時代を経て、大学生になった私がしたことは、恋をすることだった。遠くの的を見抜く力のおかげで視力が2.0以上になっていた私はその年の秋、キャンバスで遙か遠くから歩いてくる同じ学年の男の子に「今度は的じゃなくて、別のものを射抜くことにしたんです。例えば男子とか」と笑いかけていた。
付き合いはじめて3か月。幸せすぎるくらい楽しかった。でも、ある程度規則正しい生活を美しいものと感じてきた私は、ふと怖くなり、彼にこう告げた。こんな風に付き合うのは、私には無理かもしれない――。彼はゆっくり時間を置いてから、こんな提案をした。毎日死ぬほど会う生活をやめ、デートは週末に1回、電話は週3回にする。それで、無理だったら、もう一度考え直せばいい――。
全力疾走を終えたあと、ゆっくり並んで歩きながらトラックを周回するような日々。そんなある種健全で、美しいモラトリアムな時間が、ゆっくりと確かな時を刻み、輝きはじめる。
累計18万部突破のロングセラー『100回泣くこと』に続く、初恋青春小説の誕生。

最近、河出書房新社の小説ばかりを好んで読んでいたのだけれど、たまには小学館の小説もいいじゃないか、と。
で、読みました、中村航の『絶対、最強の恋のうた』です。
中村航さんは初めて読む作家さんですが、1ページ目からすぐに
(好きだな、この人の書く文章、私は)とそう思いました。

物語は、「大野君」と「私」という同じ大学に通う2人の男女の恋を、互いの目線からそれぞれの想いを語り形式で書いたもの。
前半の2章「スクランブル」「突き抜けろ」は、大野君を一人称「僕」として、彼の浪人時代から現在までを描いている。
それに続く後半の2章「春休み」「最強の恋のうた」は「私」の目線から、彼女自身の中学時代から現在までを描く。

双方の目線から、相手のことをどんな風に見て、何を感じて、どんな気持ちをこめて一つひとつの言葉を口にしていたのかが、場面ごとにとても丁寧に表現されている。
特に、2人がつき合い始める直前のときの、相手に対して抱いていた感情なんかや、つき合っているときの、次に会う日を待つ間の心の中の様子とかの表現の仕方は、本当に上手いなと思う。
私が電話するのは23時前後だったが、彼からかかってくるのは、全く正確に23時だった。時計を合わせておけば、5秒前からカウントダウンすることもできる。
今夜も私は、電話を握って構えていた。23時ちょうどに音が鳴り、鳴ったと同時に出る。百人一首の達人みたいに。
もしもし、と彼の声が聞こえ、私は可笑しさと嬉しさで、ふふふ、と含み笑いをしてしまう。

もちろん、本作品の物語の中心になるのは、2人の恋の話。
そして、それを支えるように大野君と私のそれぞれの独立したエピソードが入ってくる。
例えば、彼女の中学生・高校生時代のエピソード。
もやもやとした中高生独特の"何か"を持ちつつも、若いときの"さわやかさ"を感じさせる。

そして、大野君の方の話も、素敵なものばかり。
大学の友人の坂本、留年してる先輩の木戸さん。
3人の男の「まさに青春」という感じの熱いエピソード。
これがなかなかイイ。
3人で木戸さんの安アパートで鍋を食べ、お酒を飲んで、語り明かすシーンや、
突然思いついて、深夜にレンタカーで富士山まで行って、朝日に染まる雲海を眺めるシーンなんかは、最高だ。
ああ、大学生のときって、こういう意味不明なむちゃくちゃなことが、たまらなく楽しかったよな、と読んでいていろんなことを思い出す。
特に、木戸さんの口から出る言葉が、いちいち何故かカッコいい。
本当にこんな人が身近にいたら、きっと素敵だろうなって、私もそう思う。

と、こういう一つひとつのサブストーリーが、2人の恋愛物語を、よりいっそう深いものにしてくれている。
だから恋人たちは歌えばいい。絶対に最強な恋のうたを。
誰にも聞き取れない特別な声で。あのスパイラルに守られながら。
かけがえのない何かのために。安らかに。朗らかな気持ちで。
不確かな絶対を祈りに変えて、私たちはどこまでも歩き続けたいと願う。

そして、最後の章「冨士に至れ」はエピローグ。
このまとめ方も、私は好きだ。
読んだ後には、とてもいい感じの余韻が残って、心地よい。

中村航、さすがだな。気になる作家リストに追加決定。
他の作品も、ぜひぜひ読んでみようと強く思う。

中村航公式サイト

作家の読書道 第57回 中村航:WEB本の雑誌
100回泣くこと (小学館文庫)中村航100回泣くこと
(小学館文庫)
中村航


【関連記事】
『夏休み』中村航 を読んで
『僕の好きな人が、よく眠れますように』中村航 を読んではてなブックマーク
『リレキショ』中村航 を読んで


この記事へのコメント
コメントを書く
Name:

URL:

Comment:

認証コード:


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。