2010-01-30

『うつくしい人』西加奈子 を読んで


うつくしい人うつくしい人
(幻冬舎)
西加奈子


souiunogaii評価 


内容紹介
会社から逃げ出した女、丁寧な日本語を話す美しいドイツ人旅行者、冴えないバーテンダー。
非日常な瀬戸内海の島のホテルで出会った三人を動かす、圧倒的な日常の奇跡。心に迫る傑作長編!


物語は、会社を辞めた30過ぎの女性が、瀬戸内海のとある島のホテルでゆっくり過ごす数日間を描いたもの。

淡々と、ひたすら何気ない普通の出来事を丁寧にじっくりと描写することで、普段都会にいるときには見えていない大切な何かを思い出させてくれる、そんな作品だと感じた。
夜風が私の顔を、遠慮なく叩いていく。もう一度空を見上げると、やはり星は信じられないほど輝いていて、首に風がマフラーみたいにまつわりついていた。気持ち良かった。何より、どうしよう、やっぱり楽しかった。

読み終わった後、一人でどこかに旅行に行ってみたくなる。

【関連記事】
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『しずく』西加奈子 を読んで


2010-01-30

『ヘヴン』川上未映子 を読んで


ヘヴン
ヘヴン
(講談社)
川上未映子


souiunogaii評価 

内容紹介
驚愕と衝撃!圧倒的感動!
「僕とコジマの友情は永遠に続くはずだった。もし彼らが僕たちを放っておいてくれたなら――」

涙がとめどなく流れる――。
善悪の根源を問う、著者初の長篇小説
「苛められ、暴力をふるわれ、なぜ僕はそれに従うことしかできないのだろう」
彼女は言う。苦しみを、弱さを受け入れたわたしたちこそが正義なのだ、と。彼は言う。できごとに良いも悪いもない。すべては結果にすぎないのだ、と。ただあてのない涙がぽろぽろとこぼれ、少年の頬を濡らす。少年の、痛みを抱えた目に映る「世界」に、救いはあるのか――。

『ヘヴン』特設ページ:講談社BOOK倶楽部

とにかく、凄まじい衝撃作だった。
読んでいて、こんなにも心が震えた小説は本当に久しぶりだった。

川上未映子さんの作品は、初めて読んだのだけれど、彼女の描く何とも言えない独特の哲学のある世界に、私は一気にはまってしまった。

学校でのイジメを題材にした小説はこれまでにもいくつか読んできたが、この『ヘヴン』は全くの別物だ。
正義とか罪悪とかそういう善悪の価値観みたいなものが、丁寧に丁寧に選ばれた言葉で綴られている。
200ページを超える長編だが、もう取りつかれるような感じで読んでしまい、時間なんて忘れてしまうくらいだった。

主人公の"僕"は、斜視で、同じクラスの二ノ宮や百瀬たちのグループからロンパリと呼ばれて、壮絶なイジメを日常的に受けている。
そのイジメのやり方が、実に酷いもので、もう精神も肉体もボロボロに傷つけられて、それでも何とか学校に通い続ける"僕"の姿に、私は言葉にできない痛みに、心が苦しくてたまらなかった。

そんな"僕"が、同じクラスの女の子コジマと手紙のやり取りを始める。
コジマもまた、クラスの中で「汚い、臭い」と言われてイジメの対象になっている一人だった。
コジマは、苦しみに耐えて、負けずにイジメに立ち向かい続ける自分たちこそ正しい存在なのだと語る。
自分たちにしか見えない世界があるんだってことを、懸命に語る。
いじめられている自分たちの正しさ、存在している意味を、だから自分たちは大丈夫なんだってことを一生懸命に、自身を納得させるように語る。
わたしたちは弱いかもしれないけれど、でもこの弱さはとても意味のある弱さだもの。弱いかもしれないけれど、わたしたちはちゃんと知っているもの。なにが大切でなにがだめなことなのか。
(中略)
君のその方法だけが、いまの状況のなかでゆいいつの正しい、正しい方法だと思うの

物語の終盤で、"僕"がイジメグループの一人の百瀬と一対一で話をする場面がある。
そこで百瀬の語る言葉の一つひとつが、私にはもう信じられないくらいの衝撃をぶつけてきた。
もう読んでいて一気に沸騰するような怒りが込み上げてきたのだけれど、でもすぐ次の瞬間には、百瀬の言葉の方が実はリアルで正で善なんだった見方もできるんじゃなにのか?っていう気持ちが生まれてきて、自分で自分が分からなくなってしまった。

そしてすごく暗い沈んだ気持ちになった。
「地獄があるとしたらここだし、天国があるとしたらそれもここだよ。ここがすべてだ。そんなことにはなんの意味もない。そして僕はそれが楽しくて仕方がない」

こんなことってあるだろうか。
何が悪で、何が正しいのか、その基準が一気に崩壊するような、そんな衝撃だった。

しかし、物語のラスト、"僕"が見る景色の美しさが、それまでのいろいろな問に一つの答えを与えてくれる
僕の目からは涙が流れつづけ、そのなかではじめて世界は像をむすび、世界にははじめて奥ゆきがあった。世界には向こう側があった。

最後のこの場面に、救われた気がする。

川上未映子、素晴らしい物語をありがとう。

川上未映子の純粋非性批判(公式ブログ)

【書評】『ヘヴン』川上未映子著:MSN産経ニュース(2009/10/04)
善悪の価値観、問い直す 川上未映子さん長編「ヘヴン」:asahi.com(2009/10/14)
2010-01-24

『ボーダー&レス』藤代泉 を読んで


ボーダー&レスボーダー&レス
(河出書房新社)
藤代泉


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内容紹介
この世界はどこにだって、見えない溝がある。僕ら二人の間にも……
新入社員の僕が出会った独特な魅力の在日コリアンのソンウ。二人の友情を通して“世界の今”を描く
第46回文藝賞受賞作。

文藝賞受賞作で、芥川賞の候補にもなった作品。

物語は主人公の二人が入社式で出会うところから始まる。
日本人の江口理倫(まさとも)と趙成佑(チョ・ソンウ)。
すぐに親しくなった二人はお互いを"りーりん"、"なりすけ"と呼び合う。

江口の、学生気分が抜けきらないお気楽なサラリーマン一年生の、何とも軽い感じが物語全体を明るく爽やかなものにしている。

でも、本作が扱っているテーマの中心は"在日コリアン"のアイデンティティの問題であり、深く重い。

ある夜、ソンウが江口に言った言葉がとても印象に残る。
「お前はなんなの?語れないの?語らないの?」
すごい力だった。僕は口を開いても声が出なかった。
「向き合えないの?向き合わないの?どっちだよ」
ソンウの詰問する声はどんどん僕をえぐっていった。

でも、江口もソンウもお互いをかけがえのない親友だと認識しあっている。
そんな二人の関係を、何だかとても羨ましく思った。

ああ、そういうことなんだ。
2010-01-24

『不思議の国のペニス』羽田圭介 を読んで


不思議の国のペニス不思議の国のペニス
(河出書房新社)
羽田圭介


souiunogaii評価 

内容紹介
男子校1年の遠藤は自称エロセレブ。
2つ歳上の女とSMならぬSSの関係を続けるが実は童貞。
エロから始まり、ラブに落ちた、ぼくとナオミの“逆走する純愛”を描く、
文藝賞受賞後第一作!

『走ル』に続いて、最新作『ミート・ザ・ビート』が芥川賞候補になった羽田圭介さん。
私的には、文藝賞受賞作の『黒冷水』の衝撃があまりにも強すぎて、あれを超える作品を羽田圭介という作家がどうやって書いてくるのかいつも期待していたんですが、なかなか。

ということで、今回読んだのは、男子高校生のひたすらエロなバカ青春小説。
明治大在学中に書かれたということで、お茶の水、秋葉原の街の描き方が上手いのも納得。

ラストは爽やか。

今後の羽田圭介に期待。

【関連記事】
『走ル』羽田圭介 を読んで
『黒冷水』羽田圭介 を読んで
2010-01-24

『少女』湊かなえ を読んで


少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)少女
(ハヤカワ・ミステリワールド)
湊かなえ


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内容紹介
高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織から衝撃的な話を聞く。
彼女はかつて親友の自殺を目にしたというのだ。その告白に魅せられた二人の胸にある思いが浮かぶ。――「人が死ぬ瞬間を見たい」。
由紀は病院のボランティアに行き、重病の少年の死を、敦子は老人ホームで手伝いをし、入居者の死を目撃しようとする。
少女たちの無垢な好奇心から始まった夏が、複雑な因果の果てにむかえた衝撃の結末とは?

湊かなえさんの作品は初めて読みましたが、本作ですっかりファンになってしまいました。
ミステリー的なストーリーの作りがすごく良くできているのはもちろんなんですが、
それ以上に、物語の世界全体から滲んでくる何とも言えないダークな感じがたまらないです。
こんな小説を、これまでに私は読んだことがありません。
湊かなえ、素晴らしい才能を持った人に出会えて、とっても嬉しい気持ちでいっぱいです。

物語の主人公は高校生の女の子二人、由紀と敦子。
昔はもっと仲良しだったのに、ある出来事のせいで今の二人の間の関係はちょっとぎこちない。
一人称での語り手を、由紀と敦子の二人で交互に入れ替えながら物語は進んでいきます。
途中に散りばめられたたくさんの伏線が徐々につながり始め、それぞれに進んでいた二人の物語が少しずつリンクしてくると、どんどん面白くなってきて、夢中になって読み進めました。

登場人物が高校生ということで、青春を感じさせる爽やかな場面もあるんですが、
やはり"人の死"をテーマにしているため、全体的に黒いダークな空気に満ちた作りになっています。
あんたがそれほど不幸だと言うなら、わたしとあんたの人生をそっくりそのまま入れ替えてあげる。それに抵抗があるうちは、あんたはまだ、世界一不幸ってわけじゃない。

"因果応報"っていう言葉が作品中に何度も使われているんだけれど、一つひとつの出来事がつながって、事実が明らかにされていくその描き方は本当に見事だ。

冒頭の部分になる遺書の意味が、ラストになって初めて分かる、その瞬間の衝撃はすごかった。

とにかく湊かなえさん、気になる作家リストにまた一人追加です。

【関連記事】
『告白』湊かなえ を読んで

映画「告白」公式サイト

告白告白
(双葉社)
湊かなえ



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