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『糞神』喜多ふあり を読んで[2009-11-08]
『けちゃっぷ』喜多ふあり を読んで[2009-01-11]

2009-11-08

『糞神』喜多ふあり を読んで


糞神糞神
(河出書房新社)
喜多ふあり


souiunogaii評価 

内容紹介
高校の入学式。「世界中の迷えるベイビーたちを救うため!」と、担任教師が突然、学校を辞めた。
センセーはクソなのか? それとも神=ヒーローなのか!?
文藝賞受賞第一作。

『けちゃっぷ』で文藝賞を受賞した喜多ふありの新作。
この喜多ふありという作家、『けちゃっぷ』があまりにも衝撃的な作品だったので、そのあとがたいへんだよなと感じていたけれど、さすがです。
期待を裏切らない(プラスの意味で)力強さ、勢いがあふれる漢字で、今回もまた、とにかく終始はちゃめちゃな喜多ふありワールド全開な感じの衝撃作でした。

物語は高校の入学式直後のホームルームから始まる。
佐竹という担任の教師は突然意味不明のセリフを残して学校を辞めてしまう。
そこで"俺"と、クラスメートの工藤の二人は、佐竹の謎を探るための行動にでるんだけれど……、ていう冒頭から最後までまったく次の展開が読めない不思議なストーリー。

夢なのか現実なのか、本気なのか冗談なのか、リアルとバーチャルのつまらない境界をとっぱらってしまうと、何とも言えない笑いの世界がそこに見えてくる。
小説としての評価は真っ二つに分かれるタイプの作品だと思うけれど、私はこういうの嫌いじゃないかな。うん。

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2009-01-11

『けちゃっぷ』喜多ふあり を読んで


けちゃっぷ (河出書房新社)喜多ふありけちゃっぷ
(河出書房新社)
喜多ふあり


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
引きこもり女子HIROは全く口をきかないが、人と話す時は携帯から、言いたいことをブログにアップして爆裂トーク。血でもない、ケチャップでもない、「血のり=けちゃっぷ」のようなバーチャルな現代に迫る、驚愕すべき才能の誕生。
第45回文藝賞受賞作。

冒頭の部分を読んですぐに感じたのは、「今回の文藝賞は一体どうしちゃったんだろう?何なんだこの文章は!」という衝撃的な印象。
"論理"みたいなものは一切存在しない、頭に浮かんでくる言葉の一つひとつを、その順番に、だーっと書き出してつなげた。
そんな感じの、もうめちゃくちゃな文章。

しかし、それに続く次の一文を読んだ瞬間に、それまでの不安はすぐに吹き飛んでしまった。
その一文だけで、全てに納得させられてしまった。
と私はブログに書き込んだ。

あぁ、そういうこと!と。

物語の主人公は、HIROちゃんという女の子。
親の仕送りを頼りに一人暮らしをしているニートな彼女は、人と会話することができない。
普段まったく人と会話することがない、準ひきこもり的な生活を送っていたために、
言葉を声に出して話すことができなくなってしまった。
そんな彼女が他人とのコミュニケーションのために使うのが、ケータイから更新するブログ。
思ったことの全てを、感じたことの全てを、次々にブログに書き込んでいく。
声に出すよりもキーボードやケータイのボタンを押す方が速い。なんでこんな体になってしまったんだろう?改造人間ブログ更新ツヅケルになってしまったんだろうか?はあ!って大袈裟。ってまたブログに書き込む私。

そんなHIROちゃんは、ある日ブログのコメント欄に投稿してくれたヒロシという男性に興味を持ち、実際に会ってみることにする。

とにかく、HIROちゃんの一人称で書かれる心情描写がイイ。
はちゃめちゃな表現の文章がひたすらうんざりする直前まで続いたその後に、すぐに例の「と私はブログに書き込んだ。」がきて、ふっと一呼吸。
そのサイクルが最後までずーとくり返される。

読者の意識と、主人公の意識のバーチャルな部分と、リアルな部分と、それらが絶妙なリズムとバランスでかき混ぜられながら、良いタイミングでみんな我に返る。
みたいな感覚が、読んでいてとっても面白い。
「と私はブログに書き込んだ」と言った瞬間に、確固とした「私」が出てくる。そして、その揺るぎない「私」が、実は語り手にもなってる。
喜多ふあり 特別インタビュー(聞き手 陣野俊史):文藝2009春号

こんな小説を、私はこれまでに読んだことがない。

やがて、HIROちゃんとヒロシとは、これまた理解不能な不思議な出来事に巻き込まれていく。
後半の方の展開では、何がバーチャルで、何がリアルなのか、その境界がはっきりとは見えなくなっていく。

ブログ、準ひきこもり、アダルト、自殺願望、とそういうキーワードを入れているのは、やっぱりいかにも文藝賞な気がしてしまうが、
それでもこの小説は他の誰にも書けない。
喜多ふありという新人作家のオリジナルでオンリーワンな力を確かに感じました。
すごい。

こういう作品を書いて、それが評価されてしまったという事実によって、
彼が次にどんな作品を生み出してくれるのか、今後が非常に楽しみです。

喜多ふありさん「先入観逆手に、読者を翻弄したい」:asahi.com(2008/12/13)


ちなみに、HIROちゃんの名前の由来にもなっている、バンドのketchup maniaのサイトはコチラ。
kechupmania.jpg
ketchup mania official site

文藝賞授賞式:ketchup mania-HIRO [HIRO・LOG]