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『金閣寺』三島由紀夫 を読んで[2008-08-22]

2008-08-22

『金閣寺』三島由紀夫 を読んで


金閣寺 (新潮文庫)三島由紀夫金閣寺
(新潮文庫)
三島由紀夫


souiunogaii評価 ハート4つ

美とは一体何なのか。
孤独に苦しみ続けた彼の告白を受けとめたい。

三島由紀夫の『金閣寺』、ずっと前から、この小説を読むことを待ち望んでいた、こういう言い方は大げさだろうか。
いや、「読んでみたい」という気持ちは強く持ち続けていながら、それでも「まだ君には早いさ」って声がどこかから聞こえてくるようなそんな気がしていた。
手を伸ばせばすぐ届くところにあるのだけれども、しかし今はその時じゃない、みたいな感じと言えば、分かってもらえるだろうか。
そんな魔法のような不思議な魅力を感じさせる小説、私にとっての『金閣寺』はそんな存在だったんだと思う。

そしてとうとう読んでしまったんです。
私にとって、その相応しい時が来たのかどうかは正直分かりません。
実際には、もうこれ以上は待てなかった、そういう部分が大きかった気もします。

と、ずいぶんと長い前置きになってしまいましたが、とにかく私は読んだのです。
私にとって特別なものであった小説『金閣寺』を。
内容紹介
コンプレックス。挫折。美。23歳の男は、なぜ金閣を炎上させたか。

1950年7月1日、「国宝・金閣寺焼失。放火犯人は寺の青年僧」という衝撃のニュースが世人の耳目を驚かせた。この事件の陰に潜められた若い学僧の悩み ――ハンディを背負った宿命の子の、生への消しがたい呪いと、それゆえに金閣の美の魔力に魂を奪われ、ついには幻想と心中するにいたった悲劇……。
31歳の鬼才三島が全青春の決算として告白体の名文に綴った不朽の金字塔。

私にとって、ある意味で憧れのものでもあったこの小説、読み終えての感想に、この言葉を使うのは避けたかった思いもあるのですが、
しかし、やはりまず出てくる感想の言葉は「難しかった」です。

漢語を多用して、抽象的な概念・イメージを表現する文体そのものへの読解とか、太平洋戦争末期〜戦後初期にかけてという時代背景への知識とか、仏教・寺・僧などに関係するいくつもの前提知識とか、美術・建築への理解とか、そういういろんなものが、この小説を理解するための土台というか必要条件みたいなものはもちろんあるんだと思うのだけれど、
しかしそういう表面的な物理的な「難しさ」なんかじゃなくて、
そんなものよりも、もっとずっと難しいのは、主人公の「私」の心の動き、変化を追いかけて理解すること。それがとてつもなく難しいものでした。
主人公の、"美"に対しての考え方というか信念のようなもの、これが私には受止められませんでした。
「世界を変貌させるのは決して認識なんかじゃない」と思わず私は、告白とすれすれの危険を冒しながら言い返した。「世界を変貌させるのは行為なんだ。それだけしかない」

ひたすらに孤独な主人公が、もうすっかり自己の人生を何もかも諦めてしまっていて、
そんな彼が自分を見つめる視線が、悲しいほどに冷静で冷め切っていていることが、
もうどんなことよりも、たまらなく切なく、胸にぐっとくるのです。

両親への想いを一切失ってしまった彼が、
親友の鶴川の死には胸を痛めるところや、少年時代の抱いた有為子への恋心をずっと忘れずにいるところとか、
人間らしさを無くしてしまったような主人公が、それでもやっぱり人間の部分を残している、孤独さの中にある光を見つけたような気持ちになる、そういうところは読んでいて、たまらなくなる。

暗く閉ざされた彼の心が、いかにして形作られてきたのかを見ながら、何を思い何を考えているのかを感じ取り、その暗闇の世界の中に、かすかな小さな明かりを探し出せたときには、やっぱり感動が確かにありました。

金閣寺に火をつけるという犯罪行為を、一人の人間の心の闇を徹底的に描きつくすことで、こんなにも美しい物語が作られたこの事実に、ただひたすら感心する。
すごいことだと思う。
「美は……美的なものはもう僕にとっては怨敵なんだ」

またいつかまとまった時間をとって、しっかりと読みたい、そんな一冊だ。

金閣寺:情報考学 Passion For The Future