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『奇跡』中村航 を読んで[2011-10-23]
『あのとき始まったことのすべて』中村航 を読んで[2010-09-12]
『終わりは始まり』中村航&フジモトマサル を読んで[2009-10-17]
『あなたがここにいて欲しい』中村航 を読んで[2009-05-16]
『100回泣くこと』中村航 を読んで[2009-04-25]

2011-10-23

『奇跡』中村航 を読んで


奇跡奇跡
(文藝春秋)
中村航 (原案・是枝裕和)


souiunogaii評価 


内容紹介(文藝春秋)
人気映画監督の新作を若手新鋭作家がノベライズ
一番列車がすれ違うとき奇跡が起こる。九州新幹線開通に沸く街で噂を耳にした兄弟は、家族の再生のため奇跡を目撃すべく出発した

離婚した両親が仲直りしふたたび家族4人で暮らすことを夢見る航一は、ある噂を耳にする。
九州新幹線開通の日、博多から南下するのと鹿児島から北上するのと2つの列車がすれ違う瞬間、奇跡がおこるというのだ。
航一は弟の龍之介を誘い、奇跡を見ようと計画をめぐらすのだった。
「誰も知らない」の是枝裕和監督の新作映画を『100回泣くこと』の中村航がノベライズ。
2つの才能が結びついた傑作少年文学の誕生。


久しぶりに読んだ、中村航さんの作品。
良かった。

物語の主人公は小学生。
彼らの、世界をみる純粋なまなざしが、中村航の透明で美しい言葉で描かれている。

中村航作品は、これまで恋愛をテーマにしたものが多かった気がするけれど、
今回の「奇跡」のように、家族を主題にしたものでも、やっぱり中村航らしさが感じられる部分がいたるところにあって、読んでいてファンとしてとても楽しめた。

奇跡が起きるという熊本へ行くために、彼らが自分たちの力で計画を実行する姿、
旅の途中で出会う大人たちの優しさ、
そういうのが、独特の文体で綴られる。

最後の、新幹線がすれ違うシーンの、あのスピード感があふれる様子が、すごく良かった。

やがて、ここに命は咲き誇るだろう。
小さな祈りのようだった七人の旅を、結実させるように。世界の優しさだけを象徴し、決して消えないものを、忘れず、引き継ぐように。


kiseki.jpg
映画「奇跡」公式サイト

jr_kyushu.jpg
九州新幹線WEB :JR九州

中村航公式サイト


2010-09-12

『あのとき始まったことのすべて』中村航 を読んで


あのとき始まったことのすべてあのとき始まったことのすべて
(角川書店)
中村航


souiunogaii評価 

奇跡の連続。すごく良かった。やっぱり中村航はイイ!
内容紹介
理系の大学を出て、営業マンとして働く僕は、中学の同級生だった石井さんと十年ぶりに会うことになった。
有楽町のマリオンで待ち合わせ、目の前のニュー・トーキョーに入ると、当時の面影を残す石井さんを前にして、
中学時代の思い出が一気に甦った。親友の柳、一年の時に告白してふられた、少し不思議ちゃんの白原さん。
僕、石井さん、柳、白原さんの四人で奈良の東大寺などを巡った修学旅行、そしてそれぞれの思いを秘めて別れとなった卒業式。
やがて酔った二人は、中学時代の思い出を探しに、僕の部屋に向かうが……。
ベストセラー『100回泣くこと』で40万人を涙させた著者が贈る、ノスタルジーとせつなさ迫るラブ・ストーリー。

大好きな作家・中村航さんの最新作です。
もう最高だった。やっぱり中村航ワールド、素晴らしい。

主人公の岡田くんは25歳。ある日、中学の同級生だった女の子の石井さんと偶然再会することになる。10年ぶりに。
会ってすぐに、もう二人は恋に落ちてしまう。

現在と、中学生のころの回想とを非常に巧みに計算された手法でミックスしながら綴られる物語は、これまでの中村作品と同様に、一つひとつのエピソードが丁寧に選ばれた言葉で表現されて、何でもないことがこの上ない奇跡のように感じさせてくれる。
読んでいてものすごく豊かな気持ちになれる。
何かが始まるとき、今がそのスタート地点だと意識できることなんて、ほとんどなかった。
そのとき始まったと思っていたことは、後から考えてみると、もっと前から始まっていたりするし、始まったと思っても実はまだ何も始まっていなかったりする。

前に読んだ『絶対、最強の恋のうた』でも、現在と中学・高校時代とを織り交ぜて、さらに語り手の視点を主人公の二人の間で変えながら、物語を描いて見せてくれたけれど、
本作ではさらに面白い手法が使われている。
岡田くんと石井さんの中学時代を、その二人を見ていた白原さんという女の子が見た物語を途中にはさむという構成になっていて、それがすごく素敵な効果を出していて、この小説をぐっと深く面白みのあるものにしてくれている。

中村航作品の魅力と言えば、何といってもちょっとした出来事を、まるで奇跡のような素晴らしい出来事のように描く、その一つひとつの言葉の美しさだ。
日常にありふれている普通のことのなかにも、実はじっくり注意して探してみれば、すごいと思うことがいっぱい隠れている、そういうことを気づかせてくれる。
「このシーンを魔術師のように美しく書きたいと思うところが時々あるんですね。それは他人が見せるちょっとした仕草だったり、あるいはストーリー上の重要な場面だったりするのですが、そこに言葉にならないくらいの象徴性を持たせたいと思って書いているんです」
ダ・ヴィンチ2010年5月号より

中学時代の思い出そのものの描かれ方もとても綺麗で純粋ですごくいいのはもちろん、それをずっと忘れずに大切に覚えている岡田くん・石井さんの現在もすごくいい。
タイトルに込められた意味をしっかりとかみしめながら、でも一気に読んでしまった。
誰かが誰かの特別になるというのは、とても不思議なことだ。
特別というのは順位の問題ではないし、こだわりや好みともあまり関係ない。
運命といったら違う気もするし、縁というのもぴんとこない。きっと偶然や必然を孕みながら二つの物語が交差し、誰かは誰かの特別になる。時間や距離を巻き込んで、綺麗な気持ちや欲望や執着や理性が、混ざり合うようにうねる。


中村作品はどれも表にあるテーマは男女の透明で純粋な恋愛物語なんだけど、
本作では、別のこともいろいろ描かれている。

中でも、私が心ひかれたのが、岡田くんと会社の先輩・門前さんの関係。
会社を辞めることになった門前だんが、後輩である岡田くんと二人で飲む場面があるんだけれど、そこでの門前さんが語る言葉が非常に印象的だった。
「岡田くんも、もう新人じゃないからな。これからは優先順位を見極められるといいかもな」
「優先順位ですか」
「こんだけ多様な価値観がある中でな、ある物事とかに対して全肯定とか全否定とかはあり得ないだろ。あるのは優先順位だけなんだよ。だからいつも正しい優先順位を考えて、仕事でも人生でも、何が大切なのか理解するんだよ。やりたいことを先延ばしにしすぎないようにな、人生の一時間一分一秒を大事にして、毎日どんな日も人生を賛美できるといいよな」
「ええ。そうですね」

あと、『絶対、最強の恋のうた』の大野くんが、岡田くん・石井さんの中学時代に教育実習の先生として"挨拶は世界三大美徳の一つ"と語ったというエピソードには、中村航作品ファンには嬉しいプレゼントだった。

とにかくすごくすごくイイ物語だった。
中村航さん、ありがとう。


中村航公式サイト
『あのとき始まったことのすべて』特設ページ:角川書店
中村航さん「あのとき始まったことのすべて」刊行 異色の理系小説家、長編に自信:MSN産経ニュース(2010/5/17)

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『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで
2009-10-17

『終わりは始まり』中村航&フジモトマサル を読んで


終わりは始まり終わりは始まり
(集英社)
中村航, フジモトマサル


souiunogaii評価 

内容紹介
可愛くて不思議で面白い、ぐるぐるワールド
読者が投稿した回文をもとに、フジモトマサルのイラストレーションと、中村航のショートストーリーをコラボレーションさせた掌編集。言葉遊びの面白さを堪能できる、めくるめく回文の世界。

回文を題材にしたショートストーリー集。
一つの物語は3〜4ページほどの短いものばかりなんだけれど、そのどれもが中村航のニオイが感じられる素敵なもので、読んでいる心がろ過されているような気になる。

全部で27編の話がある中で、私が一番気に行ったのは「秀男さんの代わり」かな。
ひたむきに一つのことのために打ち込み、遂に素晴らしい成果をあげた男と、彼の努力を支え続けた男、二人の姿が何だかとってもカッコ良かった。
たった数ページの文章でこんなにも素敵な世界を作り上げ人を感動させることができるなんて、やっぱり中村航ってスゴイんだ!そう思った。

言葉の美しさを感じてとても満たされた気分になれる、そんな一冊だ。


中村航公式サイト

フジモトマサルの仕事
2009-05-16

『あなたがここにいて欲しい』中村航 を読んで


あなたがここにいて欲しいあなたがここにいて欲しい
Wish You Were Hiere
(祥伝社)
中村航


souiunogaii評価 

内容紹介
懐かしいあの日々、温かな友情、ゆっくりと育む恋――
僕は、守り続けなきゃならない
『100回泣くこと』の中村航が贈る、静かで優しい物語
もくじ
あなたがここにいて欲しい
男子五編 (and one extra episode)
ハミングライフ


中村航の『あなたがここにいて欲しい』です。
この本、表紙絵や装丁の感じがとっても素敵な感じで、物語の雰囲気ともぴったり合っていて、すごく好きです。

デザイニングスタジオ・ジェニアロイドblog
空色トロイメン 宮尾和孝公式サイト

まず表題作の「あたながここにいて欲しい」ですが、
主人公は、『夏休み』に登場していた、あのカメラの分解が趣味の吉田くん。
幼稚園児時代からはじまり、小学生、中学生、高校生、大学生と進む彼の成長物語です。
吉田くんの持つ、独特の感性、オリジナルな輝きみたいなものに、何だかとっても魅力的なものを感じる。
あぁ、いいな、って。
こ、これがゾウか、と、痺れるように吉田くんは思っていた。一頭だけいるゾウは、幼稚園児に換算すると五十園児分くらいの質感を放っていた。
(中略)
電力に換算すると、三百ギガワットくらいだろうか。それは園児のやわらか頭に、春の電撃が落ちたような衝撃だった。

『夏休み』で、愛する舞子さんのために戦った、あの強い意志・信念を持った吉田くんという人間は、こういう風にして作られてきたんだ、って。

幼なじみの親友である又野君というのが、結構重要なキャラとして登場するんだけれど、その又野君の描き方、吉田くんとの関係の描き方が、非常に上手い。
中村航の他の作品でも感じることだけれど、「真にたいせつなこと」を「きちんと分かること」がどういうことで、それがどれだけ重要なことなのかを教えてくれる、
そんな力が、この物語にはある。
中村航の紡ぎだす言葉の、一つひとつが、そういう力を生み出している。
守れるものの総量は、とても限られている。電柱を背にうずくまり、吉田くんは思った。呼吸を整え、電柱にもたれかかる。
だからこれからは、大切なものを自分からまもりにいかなければならなかった。好きな人に告白したりとかそんなことは、当たり前にやらなきゃならない。キスとかそういうことも、さりげなくこなさなきゃならない。そしてまっとうな文明を守るのだ。


次の、「男子五編」は、著者である中村航の自伝とも受け取れる作品。
主人公の「僕」が、小中高、大学、と進み、就職し、そして会社を辞めて小説を書き始めるまでの物語。
これは、中村航自身のストーリーかもしれない。
探し続ければ、美徳などいくつでも見つかる。ならば、と男は考える。いや、違う。考えるんじゃない、感じるんだ!(Don't think. Feel!) "礼儀"、"仲良し"に続くもの、それは……。
――もうひとつを探し続けること。

世界三大美徳を追い求め続ける、中村航の物語。素敵だ。

最後の「ハミングライフ」も、爽やかなラブストーリーだ。
木のウロに入れた絵手紙と、一匹のノラ猫を通じて、「私」は「小川君」とメッセージを交換し合う。
一組の素敵なカップルが誕生するまでの、とっても爽やかな物語。

bk1の、みーちゃんさんの書評がとっても良かったので紹介しておきます。
心温まる、思わず微笑んでしまう恋愛小説として、イチオシです。中村航のベストというだけではなく、恋愛小説というジャンルのなかでもトップレベル。読み終わって、よかったね、と言いたくなります:オンライン書店bk1

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)ライ麦畑でつかまえて
(白水Uブックス)
J.D.サリンジャー(著), 野崎孝(訳)
夏休み (河出文庫)夏休み
(河出文庫)
中村航


souiunogaii評価 


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2009-04-25

『100回泣くこと』中村航 を読んで


100回泣くこと (小学館文庫)100回泣くこと
(小学館文庫)
中村航


souiunogaii評価 

内容紹介
実家で飼っていた愛犬・ブックが死にそうだ、という連絡を受けた僕は、彼女から「バイクで帰ってあげなよ」といわれる。ブックは、僕の2ストのバイクが吐き出すエンジン音が何より大好きだったのだ。
4年近く乗っていなかったバイク。彼女と一緒にキャブレターを分解し、そこで、僕は彼女に「結婚しよう」と告げた。彼女は、1年間(結婚の)練習をしよう、といってくれた。愛犬も一命を取り留めた。愛犬→バイク修理→プロポーズ――。幸せの連続線」はこのままどこまでも続くんだ、と思っていた。
ずっとずっと続くんだと思っていた。精緻にしてキュート、清冽で伸びやか。
今、最注目の野間文芸新人賞作家が放つ恋愛長編。

小学館から出た作品で、しかもタイトルに"泣く"なんてフレーズが入っていて、これじゃあいかにも「泣ける恋愛小説です!」っていう感じがあんまりにも過ぎるだろ。
最初はやっぱりそんな風に考えてしまうけれど、
しかし、これが「作者が中村航である」ということになると、話は別で、
それだけで余計な不安はすぐにかき消されてしまう。
実際、この本を手にとるのに一切の躊躇は無かった。

そして、読んで良かった。感動した。

この『100回泣くこと』は、確かにジャンルとしては恋愛悲劇小説に入るのかもしれないけれど、
しかし『世界の中心で、愛をさけぶ』みたいな作品とは全然違う種類の作品だと思う。
これはやっぱり読んでみて感じてもらうしかないと思うのだけれど、
それは一言でいえば、中村航という作家の持つパワーのすごさ、みたいなもの。

一つひとつは小さなありふれたことなのに、それらを「実はかけがえの無い大切な幸せの証なんだ」ってことをハッと気づかせてくれる。
中村航がつむぎ出す言葉の、キラキラと輝き、ふんわりと柔らかくて、温かみにあふれるその"パワー"に、不思議と心がいっぱいに満たされる。
読むたびに、「ありがとう」って気持ちが沸きだしてくる。イイ。
うっかり新幹線で読んで号泣しました。
透明な世界をあなたにも。
ゴスペラーズ 北山陽一

主人公の「僕」は、彼女と結婚の約束をし、一緒に暮らし始める。
何でもないような出来事にだって、意味を見つけて、とっても大切なイベントとしてきちんと描き、忘れてはいけない思い出に変えてしまう。
中村マジックと言ってもいい、2人の間に作れラルHAPPYにあふれる空気の感じを、
本当に素敵な表現で伝えてくれる。
読んでいてこんなにイイ気持ちになれる作家は他にはいないとさえ思う。
食事の場面や、小物の描写など細部まで、幸せな感じが滲み出している。

一つひとつのエピソード、一つひとつのシーンに、中村航ワールドならではの要素がちりばめられていて、面白い。
さまざまなできごとが、僕らに点を穿つ。その中から幾つかを選び出して、僕らは線を引く。そうやって物語を紡いでいく。

主人公が古いバイクを修理して走れるようにするエピソードがあるのだが、
分解したバイクの部品の描き方は『夏休み』でのカメラの分解シーンにも共通するものがあって、
作者の"機械"に対するある種の信仰のような熱い思いが伝わってくる。

さらに、物語に厚み・深みを与えてくれる最高の脇役たちのキャラクターも、実にイイ。ガソリンスタンドの加藤さん(『リレキショ』にも登場したあの人だ)、
試作室の石山さん、彼女の両親。

主人公が、彼女と出会う前の、浪人生時代の話や、実家の家族や飼っていた犬についても丁寧に描かれていて、
それが、主人公がどんな生き方をしてきて、自分をどうやって作ってきたのかを感じられるようになっていて、非常に上手い。
今、僕らには確かに何かが起こっていた。だけどそれはあんまり自然に僕らの皮膚に溶け込んでしまったため、何も起こっていないようにも思えた。
その代わりに――。
誓いの言葉の後に、彼女が今日の日付を書き込んだ。
そっと封印するように、スケッチブックを閉じた。

『絶対、最強の恋の歌』や『僕の好きな人が、よく眠れますように』みたいな幸せいっぱいのハッピーエンドの作品もそれ自体はとても素敵なんだけれど、
でも、それはやっぱり本作のように、幸せが永遠には続かないことをきちんと示してくれる物語があるからこそなんだと、はっきりと思う。

中村航公式サイト
中村航さん:47CLUB 地元著名人インタビュー

『ぐるぐるまわるすべり台』中村航 を読んで
『リレキショ』中村航 を読んで
『夏休み』中村航 を読んで
『僕の好きな人が、よく眠れますように』中村航 を読んで
『絶対、最強の恋のうた』中村航 を読んで
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