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『ひとり日和』青山七恵 を読んで[2008-12-20]
『やさしいため息』青山七恵 を読んで[2008-11-30]
『窓の灯』青山七恵 を読んで[2008-11-15]

2008-12-20

『ひとり日和』青山七恵 を読んで


ひとり日和 (河出書房新社)青山七恵ひとり日和
(河出書房新社)
青山七恵


souiunogaii評価 ハート4つ

20歳フリーター女性の何でもない平凡な日常を、特別な感性で描いて芥川賞。
内容紹介
20歳の知寿が居候することになったのは、71歳の吟子さんの家。奇妙な同居生活の中、知寿はキオスクで働き、恋をし、吟子さんの恋にあてられ、成長していく。
選考委員絶賛の第136回芥川賞受賞作!

主人公は知寿、20歳、フリーター。
彼女は、母親の転勤を機に埼玉から上京。遠い親戚である71歳のおばあさん吟子さんと小さな一軒家で二人暮らしを始める。

前作『窓の灯』『やさしいため息』と同じく、若い女性の淡々とした日常を、一人称わたし目線で、その独特の感性で描いた、これぞ青山七恵スタイルな物語。

舞台は京王線沿線で、知寿がバイトするのは笹塚駅の売店。
都心から適当な距離にある、実に平和そうな町の感じが、物語の雰囲気にぴったりな感じがして、何だかとってもイイ。
知寿と吟子さんが暮らす家も、駅のホームから見下ろせるところにある。
この「駅」っていうのが、物語の中では不思議な存在感を持っていた。

京王線と言えば、私は広末涼子のTVCMのイメージが強くて、それも手伝ってか、実際に行ったことはなくても、その町の光景が眼に浮かんできて、何度も行ったことがあるような気さえしてくるから不思議だ。

YouTube:KEIO TVCM「あたたかい街」篇


バイトをして、恋をして、吟子ばあさんやその周りの人たちと会話して……
そうやって何人かの人たちと関わり合いながら、一年間という時間の中で、知寿は何かしら次へのスタートのためのヒントを見つける。
救いようがない。いつになったら、ひとりじゃなくなるのだろうか。思って、はっとした。わたしはひとりがいやなのか。ひとりがいやだなんて、子どもじみていて恥ずかしいと思っていたのに。

「自分探し」というような恥ずかしさのあるカッコよさがあるものじゃなくて、そこまで立派で大げさなものではないけれど、それでもきっと自分にとってのプラスになるものを得ることができたんだと確かに感じられる。

そういう、はっきりとした言葉にはできないものを、本当に丁寧なメッセージ性のある形で上手く描いているから、青山七恵の文章は素敵なんだと思う。

160ページの物語は、春・夏・秋・冬・春の手間、と章立てされていて、
季節と主人公の心情の移り変わりとをリンクさせた構成も、シンプルだけれどとてもしっかり考えられてる。
「吟子さん。外の世界って、厳しいんだろうね。あたしなんか、すぐ落ちこぼれちゃうんだろうね」
「世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ」
吟子さんは、きっぱりと言った。そんなふうにものを言う吟子さんを、わたしは初めて知った。


[書評]ひとり日和 by斎藤美奈子:asahi.com

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『窓の灯』青山七恵 を読んで
2008-11-30

『やさしいため息』青山七恵 を読んで


 やさしいため息 (河出書房新社) 青山七恵やさしいため息
(河出書房新社)
青山七恵

souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
今日はどんな一日だった?
4年ぶりに再会した弟が綴るのは、嘘と事実が入り交じった私の観察日記。
立ちこめる湯気の中、私は冷たい肌が温まっていくのを感じている……。
『ひとり日和』で芥川賞を受賞した著者が描く、OLのやさしい孤独

先日読んだ『窓の灯』に続いて、青山七恵さんを読むのはこれが2冊目。

物語の主人公は、人材派遣会社で事務をしているOLのまどか。
一人暮らしをする彼女の元へ、ある日突然、弟の風太が姿を現し、2人はしばらくの間一緒に暮らし始める。
風太は、学生で、あちらこちらとふらふらしている自由人。
そんな風太は、姉まどかの毎日の生活を、日記のようにノートに記録し始める。
それまで内向的で他人との係わりを極力避けるように生活してきたまどかが、
弟との生活をきっかけに、ほんの少しずつだけれど、自分を変えようとしていく。

職場での周りの人たちのランチや飲み会なども、断り続けているうちに誘われなくなり、"一人が好きです"オーラを無意識のうちに振りまいてしまっている、
そんなまどかが、弟に一日の出来事を話すときには、何もない空虚な自分の生活を恥ずかしがり、見栄を張って、社交的な自分を演出してしまう。

そんな彼女の、ひたむきで純粋でけなげな様子が、青山さんの薄味だけれど飽きのこない、透明感のある文章で、丁寧に綴られている。
数週間前までと生活の場はまったく変わっていないはずなのに、見えている景色が違う。ぴったり合う眼鏡をかけたときのように、風景が自分から飛び込んでくる。

ほんの少しだけの勇気を手に入れて、
会社の忘年会に参加する返事をして、男の人を食事に誘って、
そんな風にゆっくりと変わっていくまどかの姿を、読んでいる私は思わず応援せずにはいられない。

一緒に収録されている『松かさ拾い』は、学者の先生とその秘書との微妙な関係を描いた作品で、こちらも青山さんの涼しげな文章が心地よい作品だ。

著者来店「やさしいため息」青山七恵さん:YOMIURI ONLINE 本よみうり堂

書評「やさしいため息」by 阿刀田高:asahi.com BOOK

『やさしいため息』の青山七恵さんに聞く:【週末読む、観る】MSN産経ニュース

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【追記】
『ひとり日和』青山七恵 を読んで
2008-11-15

『窓の灯』青山七恵 を読んで


窓の灯 (河出書房新社)青山七恵窓の灯
(河出書房新社)
青山七恵


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
大学を辞め、時に取り残されたような喫茶店で働く私。
向かいの部屋の窓の中を覗くことが日課の私は、やがて夜の街を徘徊するようになり……。
ゆるやかな官能を奏でる第42回文藝賞受賞作。

『ひとり日和』で芥川賞を受賞した青山七恵さんののデビュー作です。

100ページちょっとの、短い小説です。
私はこういう感じの小説、とっても好きです。

主人公の、私(まりも)は、大学を退学して、何となく通っていた喫茶店で、店主のミカド姉さんに誘われて、一緒に働くことになる。店に住みこみで。

店の向かいのアパートに男の人が引っ越してきて、「私」はその部屋の窓を、自分の部屋から覗き見るのを日課にする。

不思議な魅力を持つ、ミカド姉さんのもとには、いろんな男が次々に訪ねてくる。

私と姉さんの関係が、とても面白い。

何を考えているのかさっぱり読めない、それでも周囲の人を引きつけて離さない魅力を持つ、そんなオーラを持つミカド姉さんがいて、
彼女を好きで、でも嫌いで、彼女のことを知りたくて、近づきたくて、でもやっぱり束付けなくて、近づきたくなくて、みたいな私がいる。

そんな微妙な関係を、青山さんのどこまでも澄んでいて美しくて、さわやかなのに、しっとりとしている、そんな感じの文章で描かれている。
息を整えながら、手のひらで胸から下腹までそっと撫で下ろす。皮膚の内側は忌まわしいほどほてっているのに、体の表面はひんやりと冷たかった。
頭の隅がかすかに痛む。
私は痛みをそのままにしておいた。全身でその痛みを感じようとした。

青山七恵の素晴らしい才能を、ひしひしと感じられる。

[気鋭新鋭]青山七恵さん 22(作家):YOMIURI ONLINE 本よみうり堂(2005/12/09)

【追記】
『ひとり日和』青山七恵 を読んで
『やさしいため息』青山七恵 を読んで