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『ミート・ザ・ビート』羽田圭介 を読んで[2010-02-14]
『不思議の国のペニス』羽田圭介 を読んで[2010-01-24]
『黒冷水』羽田圭介 を読んで[2008-11-01]
『走ル』羽田圭介 を読んで[2008-10-18]

2010-02-14

『ミート・ザ・ビート』羽田圭介 を読んで


ミート・ザ・ビートミート・ザ・ビート
(文藝春秋)
羽田圭介


souiunogaii評価 

内容紹介
首都圏から約1時間、地方都市に住まう19歳の主人公。予備校に通いつつ地元の友人たちと遊んでいたある日、ホンダの乗用車「ビート」を譲り受ける。
クルマの改造、新たな出会い、そして恋。疾走する群像小説。
第142回芥川賞候補にもなった新鋭による待望の最新刊

芥川賞候補作品に選ばれた、羽田圭介さんの最新作です。

『走ル』の自転車での疾走感が、今作では車になっている。
主人公は予備校生だが、受験勉強よりも工事現場で交通整理のバイトの方が忙しい感じのお気楽な感じの若者。

そんな主人公が、ホンダのビートに出会い、徐々に車にハマっていく。
まさに青春・車小説、みたいな。

登場人物たちの名前、っていうかあだ名が面白い。
ベイダー、ブヨ、レイラ、ザキさん、ユナ。

地方都市独特の空気の描き方も、上手い、気がする。

ただ、『走ル』で感じさせてくれたあの爽快感が、本作ではちょっとしぼんでしまったかな、と思った。

次回作に期待。

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2010-01-24

『不思議の国のペニス』羽田圭介 を読んで


不思議の国のペニス不思議の国のペニス
(河出書房新社)
羽田圭介


souiunogaii評価 

内容紹介
男子校1年の遠藤は自称エロセレブ。
2つ歳上の女とSMならぬSSの関係を続けるが実は童貞。
エロから始まり、ラブに落ちた、ぼくとナオミの“逆走する純愛”を描く、
文藝賞受賞後第一作!

『走ル』に続いて、最新作『ミート・ザ・ビート』が芥川賞候補になった羽田圭介さん。
私的には、文藝賞受賞作の『黒冷水』の衝撃があまりにも強すぎて、あれを超える作品を羽田圭介という作家がどうやって書いてくるのかいつも期待していたんですが、なかなか。

ということで、今回読んだのは、男子高校生のひたすらエロなバカ青春小説。
明治大在学中に書かれたということで、お茶の水、秋葉原の街の描き方が上手いのも納得。

ラストは爽やか。

今後の羽田圭介に期待。

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2008-11-01

『黒冷水』羽田圭介 を読んで


黒冷水 (河出書房新社)羽田圭介黒冷水
(河出書房新社)
羽田圭介


souiunogaii評価 ハート5つ

面白かった!と言うのは勇気がいるブラックな作品。
しかし、間違いなく面白い。

内容紹介
兄の部屋を偏執的にアサる弟と、執拗に監視・報復する兄。
出口を失い暴走する憎悪の「黒冷水」。兄弟間の果てしない確執に終わりはあるのか?
当時史上最年少17歳・第40回文藝賞受賞作!

『走ル』を読んで、羽田圭介の緻密でリアルな描写力に魅せられてしまい、ぜひ他の作品も読んでみたいと思い、
それで手に取ったのが、『黒冷水』。

著者の羽田さんが、明治大付属高校に通っていたころに書いた作品で、本作は文藝賞に選ばれている。

タイトルが『黒冷水』。何ともブラックな印象を受けたが、物語の中身の方も、タイトルに負けずに実にブラックだ。

高校生の兄・正気と、中学生の弟・修作の間の、深い憎しみ。
兄の部屋(机やパソコンや本棚)をこっそりとあさり、隠してある秘密の品を盗みだす弟。
そして、その弟に、とてつもない残酷な方法で復讐を図る兄。

主人公は兄・正気なんだけれど、「正気は〜」「修作は〜」と、兄弟両方ともに三人称で表現し、場面ごとに視点を切り替えて描く構成になっていて、両者の相手への憎しみの深さが、実にリアルに伝わってくるようになっている。

この秀逸に計算された書き方のために、最初の数十ページを読んだところで、もう私は一気にこの物語に引き込まれてしまっていた。
早く次のページが読みたい!一体この先はどうなっていくんだろう!
先を読むのが楽しみで、たまらなく面白かった。
だがもう遅かった。
冷たい流動体は、心臓に開いた穴からじわじわと周りを浸食してゆく。正気には、その流動体が黒色をしていることがすぐにわかった。流動体、という表現も間違っている。もっとサラサラとしていて、澄んでいる。黒の原色であって、尚且つ澄んでいる。そしてそれは、凍えるほどに冷たい。
黒冷水。
(中略)
修作を潰すしかない。
そうしないと、この圧倒的な黒さと冷たさを抱いた黒冷水を、体の外に追いやることはできないだろう。黒冷水の源である修作さえ潰してしまえば、すべての問題が解決する。
徹底的に、だ。徹底的に修作を潰す。

尊大な自尊心と羞恥心、高いプライドを持ち、頭も良く、世間体を極度に気にし、
オタク趣味を持つ弟を、軽蔑視する兄・正気。
兄よりレベルの低い学校に通うことにコンプレックスを感じ、あらゆる面で兄に勝とうともがき、自分を上から見る兄が嫌でたまらない弟・修作。

著者自身が高校生のときに書いた、高校生が主人公の小説。
しかし、そのことだけでは到底おさまりきらない、圧倒的に、徹底的にリアルさを追い求めた描写。
『走ル』でも感じられたけれど、とにかく羽田圭介の緻密で正確な描写力には、感動する。
読む者の視線を、その場面のその物体にぐっと引きつけて離さない。逃がさない。
そういう強い力を持っている。

物語後半の、スピード感と迫力のある、衝撃的な展開には、小説としての面白さをしっかりと感じることができた。

とにかく、ブラックでディープな物語だけれど、間違いなく誰が読んでも面白い。

読みながら、正気と同じように、修作をもっと痛めつけてやりたい、潰してやりたい、そんな気持ちを自分が抱いてしまっていることにハッと気づいて、とても恐くなった。
この小説の持つ力を感じた瞬間だった。

17歳で文藝賞受賞というのは、最年少だそうだ。
(綿矢りさが『インストール』で文藝賞を受賞したのも17歳だったっけ。)


『黒冷水』、ぜひおススメの作品です。

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2008-10-18

『走ル』羽田圭介 を読んで


走ル (河出書房新社)羽田圭介走ル
(河出書房新社)
羽田圭介


souiunogaii評価 ハート4つ


青春を感じさせる気持ちのいい自転車ロード小説。
高校2年の「俺」は一人で東京〜青森を自転車で走った。

内容紹介
物置で発掘した緑のビアンキ。その自転車で学校に行った僕は、そのまま授業をさぼって北へと走るが……。
「21世紀日本版『オン・ザ・ロード』」(読売新聞)と評された、文藝賞作家の青春小説!

第139回芥川賞の候補にもなった、羽田圭介さんの『走ル』を読んだ。
良かった。非常に良かった。
とても気持ちのいい小説だった。

主人公は高校2年生の俺(本田くん)。
彼はある日、自宅の物置から古いロードレーサー(レース用自転車)を見つける。
翌日、彼は八王子の自宅から四ツ谷の高校まで、その自転車で登校する。
陸上部員の彼は、若いエネルギーに満ち溢れていて、とにかく体を動かすのが好きだった。
そう思っていると身体の中に溜まる無駄なエネルギーを消費させたくなってきた。
せっかくレース用自転車も掘り起こしたことだし、...

学校に着き、朝練の後、コンビニにジュースを買いに出たはずの彼は、なぜかそのまま
自転車で走り続け、北へ北へと進み続ける。
なぜそんなことになったのかは、よくわからない。
強いて言えば、「なんとなく」だろうか。
はっきりした目的地は決めずに、彼は緑の自転車で、ひたすた走る。いや走ル。

はじめは1限目をサボるだけのつもりだったサイクリングが、いつのまにか、1週間学校を休んでの、自転車旅行になってしまう。
もちろん一人で。すごい。

道路標識の「○○まで〜km」を目標にし、そこにたどりついたら、また次の「○○まで〜km」を目指す。
これを繰り返しながら、最終的には信じられない距離を走る。

そんな物語の中で、一番の読みどころは、やはり高校生の男子の頭・心・身体の動きや変化をリアリティにこだわった文章で丁寧に描いている点だと私は思う。
国道を一人自転車で走りながら、そこから彼はどんな景色を見たのか、
何を感じて、何を考えたのか。
そういうことが、本当にリアルに伝わってくる。
基本的に一文一文は短く、主格を省略している。
まるで、主人公と一緒にその場所に自分もいて、同じ空気を吸っているかのような感覚さえあった。
この感動を作り出す表現や構成は、見事で、素晴らしいと思う。

ロード小説にしては、変わっている点は、旅の途中で、誰かとの特別な出会いがあるわけではないこと。
その代わりに、学校の友達や、微妙な関係の彼女との、ケータイでのメールのやり取りが、本作品では大切なキーになっている、ように感じた。
普段学校で会っている人間と、遠く離れたときに、そのときになって初めてわかるものもある。
取りとめもない、他愛のない、高校生のメールなんだけど、そこにはやっぱり、
高校生のときにしか持ち得ない感性みたいなものがあるんだろう。
これぞ青春小説か。
視覚や聴覚が研ぎ澄まされ、荒れ狂う風景は美しく見えた。こんなにもしんどい思いをして走っている嵐の道は、なんて素晴らしい感触をこの身体に残してくれるのだろう。背中に密着しているリュックから携帯電話のバイブを察知し、おそらく鈴木さんからのメールだろうと思った。触れたことのない大きめの乳房の感触を、背中に感じる。

他にも、食事の場面や、女の子のことを思う場面なんかで、高校生男子の描き方が実に上手いなと感じた。
世界最高峰の自転車耐久レース「ツール・ド・フランス」になぞらえての演出も、イイ。作者自身、自転車が大好きであることを窺わせるほどだ。

作者の羽田圭介さんは、1985年生まれだとか。
その若さに驚きと納得を感じつつも、他の作品もぜひ読んでみたいと思った。

「走ル」 羽田圭介さん:本よみうり堂 著者来店(YOMIURI ONLINE)

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