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『星のひと』水森サトリ を読んで[2008-07-19]
『でかい月だな』水森サトリ を読んで[2007-09-10]

2008-07-19

『星のひと』水森サトリ を読んで


星のひと (集英社)水森サトリ
星のひと (集英社)
水森サトリ

souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
第19回小説すばる新人賞受賞第一作
夜明け前の住宅街に隕石が落下。その日から人びとの日常は変化し始める。星が引き寄せた、隕石が落ちてくるよりも、もっと大きな奇跡の物語。生の輝きを、みずみずしくうたいあげる連作集。
もくじ
ルナ
夏空オリオン
流れ星はぐれ星
惑星軌道

『でかい月だな』で小説すばる新人賞を受賞した水森サトリさんの二作目です。
素敵な新人作家に出会えたと嬉しい気持ちになりました。
「次回作もぜひ読みたい」私を水森サトリのファンにさせてくれる、「でかい月だな」はそんな本になりました。

『星のひと』っていう何とも言えない透明感のあるタイトル。
ブルーを基調にした、純粋でみずみずさを感じさせる表紙。
そして、前作『でかい月だな』で私を感動させてくれた作者の待望の二作目ってことで、大きな期待を抱きながら、この本を手にとりました。
「この本はきっとイイ!」そんな予感がしたんです。
そしてその予感はばっちり当たりました。

4話の連作です。ひとつの大きな物語を、それぞれ主人公を変えながら、目線を移しながら、語られていくストーリーは、互いに関連し合いながら、ラストには一ヶ所に集まってきて、1つにつながります。

「ルナ」は、月を見上げる女子中学生のはるきの物語。
「夏空オリオン」は、仕事に追われるサラリーマン草一郎の、家族・人生を振り返る話。
「流れ星はぐれ星」は、性同一性障害に悩みながら、自分の居場所・恋を探すビビアンの物語。
最後の「惑星軌道」は、はるきに思いを寄せる少年草太の物語。全ての話が1つに結びついてラストをむかえる。

題名の通り、星にまつわる話になってる。それぞれに大切なシーンで、星が象徴的な描かれ方をしている。
学生時代に天文部にいた私のような星好きには、たまらない。

第2話の「夏空オリオン」っていう言葉が、すごくすごく好き。
小学校の理科の授業では、冬の星座として習うオリオン座だけど、実は冬じゃなくても見える。一晩のうちに星は動いていく(太陽とか月と同じように)。
東から西へ。
だから、夏でも夜が明ける少し前の時間帯には、オリオン座を見ることができる。
中心に綺麗に並んだ3つの星と、それを囲む4つの星。どれも1等星と2等星の非常に明るい星の星座だから、すぐに見つけられる。
学生時代には、8月のペルセウス座流星群のときに、毎年みんなで地面に寝転がって一晩中星空を眺めて過ごした。
あのときに見た、オリオン座は、今でも忘れない。とってもキレイだった。
東の空にわずかばかり光っている星々の中に、インパクトのある並びが見えた。
オリオンだ。
オリオンを、冬の星座だと思っている人は幸いだ。オリオンは晩夏あたりからすでに見られる。深夜から早朝にかけて。それに気付いたのはいつの頃だったか。
<たぶん、我が家にぼくを待つ明かりが灯らなくなった頃>

『でかい月だな』では、中学生の描き方がとっても上手いなと感じたけれども、本作でもそれは変わらない。
セリフも、心情の描写も、中学生の男女それぞれの世界の表現の仕方が、とってもイイ。
でも、水森サトリの魅力は、それだけじゃないそ、というところも本作ではしっかり示してくれる。仕事に家族に悩む父親でありサラリーマンでもある男の姿や、命の大切さや、そういう部分も大切にちゃんと書いている。
「ぼくは何があっても、宇宙が消えても、永遠に死んだししない!絶対だ!」

子供と大人と両方の目線を使って、人生における大切なことを、ぎゅっと濃縮して1つの小説の中に詰め込んでいる。

短文を続けて、心の中から湧き上がってくる声を、強いメッセージ性のある文章で書いて、読んでいる私の気持ちをぐっとつかんでくる。
「何で落ちたと思う。万有引力だ。気が遠くなるほど離れていても、星は互いに引かれ合っているんだよ。てめえ自身の重さで、他の星を呼んでいる。――星はバラバラなんかじゃない」

水森サトリ、今後も楽しみな作家です。
2007-09-10

『でかい月だな』水森サトリ を読んで


でかい月だな (集英社)水森サトリ
でかい月だな (集英社)
水森サトリ

souiunogaii評価 ハート5つ

「でかい月だな」というタイトルだけでは、一体どんな物語なのか、なかなか想像できない。
でもなんとなく表紙を見て、「この本は良い」そんな予感を感じた気がしたんです。
その結果、とっても良い小説でした。
青春、爽やか、ちょっぴりSF、みたいな要素が入っていて、文章も好感の持てるもので、この本を手にとってよかった、と思いました。
あらすじ
ある満月の夜、友人に突然崖から蹴り落とされた中学生の「ぼく」。
一命はとりとめるが、大好きなバスケットボールができない身体になってしまう。加害者の友人は姿を消し、入れ替わるように「ぼく」の前にあらわれたのは、インチキ錬金術師、邪眼を持つオカルト少女、そして「やつら」。そのうちに、世界は奇妙な「やさしさ」につつまれてゆき、やがて、地球のみんながひとつに溶け合おうとする夜がくる…。

一人称の「ぼく」が主人公なんですが、読んでいる私もその少年の目線で物語の世界を見ているような気になれました。
ユキ、中川、かごめ、3人のキャラがとっても好きになりました。

物語の前半は非常にゆっくりな展開で、実は本文を3分の1くらい読み進めても、この物語の正体が見えませんでした。
現実と夢が入り混じったなんとも言えないもやもやした感じ、この後一体何が起こるんだ!っていう期待と少しのイライラとを抱きながら読むことになりますが、文章が良いんで、退屈はしません。

脚の後遺症のせいで、大好きなバスケットを取り上げられ、退屈な毎日を送りながら、なぜ綾瀬は自分を蹴ったのかに答えが出されないことに悩むユキ。
理科室で植物の声を聴く機械を作り、周囲の人間とは距離を置いているが、ユキとは友だちであり、苦しんでいるユキを助けてくれる中川。
眼帯をし、教室で孤立しているが、一人だけ話しかけてくるユキをも無視し続け、ユキに「世界でいちばんアンタが嫌い」という かごめ。
中川京一にしろ横山かごめにしろ、どこか辺境の地に旗を立て、毅然と立っているように思う。その立ち位置からはどんな景色が見えるんだろう。そこは荒涼とした世界だろうか、それとも、とても美しい場所なのだろうか。
ぼくはと言えば、自分の立つべき位置がわからず、どこでもない場所にただぼんやりと浮かんでいるみたいだった。そしてぼくの目に映る世界はピースの欠けこぼれたジグソーパズルの絵のように、いくつかが不足していた。
ぼくの埋めるべきピースを握ったまま、どこかに消えてしまったひとがいる。
ぼくは彼を待っていた。

そしていよいよ後半の3分の1くらいから、徐々に加速していき、それまでもやもやしていたパズルのピースが組み合わさり、最後にいろんなことが分かってくるんです。オブラートみたいに薄いSFが物語全体を包んでいきます。「ぼく」の目で世界を見ながら、「そうだったんだ!そうなんだよ!」そんな感じを楽しみながら読むことができました。

中学生の頃の自分はどんな人間だったかな、なんて思い返しながらいろんなことを考えました。
親、兄弟、クラスメート。いろんな悩み・不安を抱えながら、それでもどうにかして今の苦しい状況を変えていこうとする、そんな中学生の青春を描いた、読み終わったあとの爽やか感がなんとも言えない、青春小説です。
生きてりゃこの先まだ悪いことがいっぱいある。――だから生きよう


水森サトリは、この小説で第19回小説すばる新人賞を受賞しています。
素敵な新人作家に出会えたと嬉しい気持ちになりました。
「次回作もぜひ読みたい」私を水森サトリのファンにさせてくれる、「でかい月だな」はそんな本になりました。

【追記】
『星のひと』水森サトリ を読んで