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『LAST[ラスト]』石田衣良 を読んで[2008-06-08]
『ブルータワー』石田衣良 を読んで[2008-05-31]
『下北サンデーズ』石田衣良 を読んで[2008-05-11]
『眠れぬ真珠』石田衣良 を読んで[2008-03-16]
『約束』石田衣良 を読んで[2008-03-13]

2008-06-08

LAST (ラスト) (講談社文庫)石田衣良
LAST [ラスト] (講談社文庫)
石田衣良

内容紹介
もう、あとがない!でも明けない夜はない。

“現実”に押しつぶされそうになった7人の、予想もできない反撃!
外国人窃盗団に雇われ、通帳から現金をおろす出し子の男が最後に打った手は(「ラストドロー」)。
住宅ローンに押し潰されそうな主婦が選んだ最後の仕事とは(「ラストジョブ」)。
リアルで凶暴な世界に、ぎりぎりまで追い詰められた者たちが、最後に反撃する一瞬の閃光を描く。明日への予感に震える新境地の連作集。

もくじ
ラストライド
ラストジョブ
ラストコール
ラストホーム
ラストドロー
ラストシュート
ラストバトル


石田衣良が書く、「人生の終わり→再出発」をテーマにした短編集。
爽やかさはあんまり無い。どちらかといえば、暗く沈んだ重たい物語。
7作の中で一番好きなのは、「ラストホーム」かな。
職を失って、アパートを追い出され、上野公園でホームレスの仲間入りをして、雑誌集めを始める男の物語。
クリスマスシーズンの商店街で、彼がなけなしのお金で肉屋のローストチキンを買うシーンがあるんだけど、それが何とも言えないくらい、すごく美味しそうな表現で描かれている。
1個350円のチキンを、しばらく迷った後に、我慢できなくなって買ってしまい、涙を流しながら食べるそのシーンが、何故か非常に印象に残ったのだ。
お金があって、好きなものが食べられるということが、どんなに幸福なことか、あらためて強く実感させられた。

何でもない毎日をただ平凡に過ごしながらも、お金の心配をせずに暮らせることが、人生においてどれほど重要な基本要素なのかを感じる。
2008-05-31

ブルータワー (徳間文庫)石田衣良
ブルータワー (徳間文庫)
石田衣良

内容紹介
悪性の脳腫瘍で、死を宣告された男が200年後の世界に意識だけスリップした。地表は殺人ウイルスが蔓延し、人々は高さ2キロメートルの塔に閉じこめられ、完璧な階層社会を形成している未来へ。「…この物語は平凡な一人の男が、天を衝く塔を崩壊から救う。『ブルータワー』へようこそ! 夢みる力が決して失われる事のない世界へ」

石田衣良が9.11テロで崩壊した世界貿易センタービルに衝撃を受けて、書き上げた初のSF小説です。
400ページを超える結構な長編です。でも本当に面白くって、寝る間を惜しんでどんどん先へと読み進んで、一気にラストまで読んでしまう。
あらためて、石田衣良さんの作家としての力を感じさせられます。

大きな戦争の後、恐怖の生物兵器「黄魔」によって地上に住むことができなくなり、交配した200年後の未来の世界。
人類は、高さ2キロメートルの超高層タワーのなかで何とか生き延びています。
タワーの下層には貧困に苦しむ人々がひしめき合い、タワーの上層には、富裕な支配者階級が優雅に暮らす。ひどすぎる格差社会。
そんな未来に、主人公はタイムスリップし、伝説の救世主の役割を与えられてしまう。
タワーの格差問題を解決し、人々を導き、戦争を終わらせ、生物兵器「黄魔」に戦いを挑みます。人類の存亡をかけて。

実に壮大なスケールの世界観で描かれる未来の物語。
そこには、現在に既に存在している様々な問題に対する危機感を強く呼び起こすものがありました。
果てしなく発達した科学テクノロジー。人類を滅ぼそうとする生物兵器・殺人ウィルス。解決の糸口を見出せないまま続く、戦争・紛争そしてテロ。

SFという新たなジャンルでも、石田衣良ならではの街の描写力は変わりません。
本作の舞台は新宿。200年後の荒れ果てた新宿の町は、現在と上手くリンクさせた表現によって、何ともいえないリアルさを持っています。

そして何より、この物語を感動的なものにしているのは、主人公の心の動きの表現。
意図せずして救世主としての役割を負うことになった彼は、タワーの上下の戦争の中で、自身の居場所を探してさまよう中で、何度も自爆テロや戦闘を目の当たりにして、何人もの人々の死を目にします。
命をかけて戦争を終わらせるために闘おうと決意する彼は、一人で活躍するヒーローではありません。周囲の様々な立場の人々と互いに協力し、正しいと信じる道を進んでいく、そういう感じです。
そんな彼の心情描写が、表現豊かな文章からあふれるように伝わってきます。

最後に人類を救うのは、科学テクノロジーでもコンピュータでもない。
もっと大切なものがある。そんなメッセージを感じさせてくれる素敵な物語でした。
スター・キング (創元SF文庫)エドモンド・ハミルトン

スター・キング (創元SF文庫)
エドモンド・ハミルトン
2008-05-11

下北サンデーズ (幻冬舎)石田衣良
下北サンデーズ (幻冬舎)
石田衣良

内容紹介
日本最後の《貧乏の楽園》にようこそ!夢を追い続ける自信はありますか?
ずっと貧乏でいる覚悟はありますか?
演劇の聖地を舞台に、夢を懸けて奮闘する劇団員たちの青春を描く傑作長篇!

石田衣良の『下北サンデーズ』、これってドラマになった作品ですよね。
いや、実はドラマは見てないんですけど。
で、ネットで番組HPを見てみると、演出は堤幸彦。
キャストは、
里中ゆいか:上戸彩
あくたがわ翼:佐々木蔵之介
キャンディ吉田:森山中の大島美幸
寺島玲子:松永京子
伊藤千恵美:佐田真由美
サンボ現:カンニング竹山隆範
ジョー大杉:金児憲史
八神誠一:石垣佑磨
江本亜希子:山口紗弥加

今回、私はドラマの出演者を確認してから、この小説を読み始めました。
なるほど、それぞれピッタリのキャスティングだな、と感心。

下北サンデーズは、下北沢にある小劇団の名前。
主人公は、里中ゆいか。彼女は大学進学のために上京してきたのだが、初めて見た下北サンデーズの舞台に感激して、入団を決意。
下北沢の安アパートでの貧乏生活、大学の講義に出席、喫茶店でのアルバイトをこなしながら、劇団の中で、周りの個性的な仲間たちに囲まれながら、女優として一歩ずつ成長していく、そんなストーリー。

まず、さすが石田衣良さんの小説だけあって、街の描き方がとっても味がある。
実際に下北沢の駅で降りたことが無い私にも、この街の景色が目の前に広がるようにイメージさせてくれた。
小劇場、スタジオ、安アパート、八百屋さん、ハンバーガーショップ、激安の居酒屋などなど。
ぜひとも一度行ってみたくなる。

登場人物たちは、みな劇団員・役者たちなので、とにかく感情表現が豊かで、キャラが濃くて、個性が強くて、もう面白いヤツばかり。

劇団員というのは、とにかく貧乏で、ゆいかは毎日もやし料理ばかり食べている。
そうえいば、私も学生のとき、お金を節約するためによくもやしを買って炒めて食べたよな、と。
さらに、ゆいかが私と同じ理系の大学に通っているということで、非常に親近感がわいた。

基本的には、徐々に劇団が周囲から評価されて、ステップアップしていき、ゆいかも女優としての階段を登っていく、サクセスストーリーなんだけど、そこには、登場人物たちの悩みや葛藤や嫉妬や、もういろんなものが織り交ざって絡み合ってくるから、読んでいてもいろんな気持ちになれて、とっても満足感がある。
セリフや心理描写や行動の背景にあるもの、などが分かりやすくダイレクトな形で表現されている文章なので、読みやすいし、納得できるし、共感もできる。
ゆいかたち劇団員が、心の底から演劇を愛し、楽しんでいるのが強く伝わってくる。

演劇・芸能界の世界のしくみや文化なんかも、しっかり説明してくれるような構成になっているから、ほとんど知識の無い私にもすんなり入り込めた。

とにかく面白かった。一気に読んでしまった。
ドラマもDVDになってるから、そっちも見てみたいな。
ゆいかはそのときに思ったことを叫んで、ジャージ姿でイモ洗い状態のベッドに身体を投げた。
「下北サンデーズにはいって、わたしほんとうによかった。みんな、ありがとう」

下北サンデーズ :テレビ朝日
下北サンデーズ DVD-BOX
下北サンデーズ DVD-BOX
2008-03-16

眠れぬ真珠 (新潮社)石田衣良
眠れぬ真珠 (新潮社)
石田衣良

内容紹介
恋は、若さじゃない。愛は、経験じゃない。恋愛小説の真髄、石田衣良の真骨頂!
「今の、このときを忘れないでね。わたしのこと、忘れないで」「どうして、忘れないでなんていうんですか。まだ始まったばかりなのに」女性版画家と17歳年下の青年が過ごす、美しくつややかな日々。それは、強かに生きざるを得ない現代の女性を、少女のように無防備にする恋。サガンの「ジゴロ」をも凌ぐ切なさ、待望の恋愛長編!

45歳の版画家の女性・咲世子と、28歳の映画監督の卵・素樹の2人が、運命的な恋に落ちる。
舞台は逗子、葉山。
双方の昔の恋人や、さらにはストーカーまでも絡んできて、結構ドロドロな感じで展開していく物語。
そして、最後には素敵なラストシーンが訪れる。まるで映画のようだなと。
「東京タワー」って映画を以前見たけど、あれに似てるかな。

石田衣良が大人の恋愛物語を書くと、なるほどこういう風になるんだ、と。
文章には、内面描写もセリフも情景描写も、適度な湿り気があって、非常に良い感じだ。セックスの描写もまったくごまかしがない。
街の描き方も、食べ物の描写も、服装も建物も、上手く書かれてる。
映像がぱっと浮かんでくる。

そう、映画化するんだったら、咲世子役はやっぱり寺島しのぶ、かな。鈴木京香も合うかも。
素樹役は、うーんちょっと思い浮かばないな。

なんだかロイヤルミルクティーが飲みたくなってきた。
2008-03-13

約束 (角川文庫)石田衣良
約束 (角川文庫)
石田衣良

内容紹介
大切なものを失ったことのあるすべての人に捧げる、七つの再生の物語。
かけがえのない大切なものを失ったとき、人はどのように立ち直ることができるだろう――。直木賞作家が再生への祈りをこめて紡いだ、絶対泣けるセブン・ストーリーズ。
たくさん泣いて、もういちど歩きだそう――
池田小学校事件の衝撃から一気呵成に書き上げた表題作はじめ、ささやかで力強い回復・再生のものがたりを描いた必涙の短編集。人生の道程は時としてあまりにもハードだけど、もういちど歩きだす勇気を、この一冊で。

石田衣良の短編集。それぞれの作品に共通して描かれているのは、暗く長いトンネルの中にいた人間が、やっとの思いで光の差し込んでくる出口を見つけることができたその瞬間と、そこに至るまでの過程。
心の変化の様子を大切にして、じっくりと丁寧に真剣に書かれた文章からは、「命のあることのありがたさ」とか「前を向いて生きるための勇気の大切さ」みたいなものが、読んでいる私の心に、素直にまっすぐにサーッと染み込んでくる。

作者あとがきにはこうある。
「かけがえのないものをなくしても、人はいつか自分の人生に帰るときがくる」
「病や喪失から生きることに立ちもどってくる人間を描くほうが、何倍も力強い。単純にそう信じているのです」

「約束」は池田小事件への鎮魂歌として書かれた作品。
「青いエグジット」では事故で片足を失ったひきこもり青年がダイビングに挑戦。
「天国のベル」は心因性難聴になった少年と家族に起こったひと時の奇跡。
「冬のライダー」モトクロスのバイクの練習を、ある女性にコーチしてもらう少年。
「夕日へ続く道」不登校の中学生は、軽トラックで廃品回収をする老人を手伝い始める。
「ひとり桜」山奥の一本桜を撮る写真家と、その桜にある思いを寄せる女性の出会い。
「ハートストーン」悪性脳腫瘍に犯された少年と、その家族たちに起こった奇跡のような出来事。

これまでには読んだことがなかった(あまり気づかなかった)石田衣良の新たな魅力を感じた、そんな作品たちだった。