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『シンデレラ・ティース』坂木司 を読んで[2007-10-13]
『ワーキング・ホリデー』坂木司 を読んで[2007-09-28]

2007-10-13

『シンデレラ・ティース』坂木司 を読んで


シンデレラ・ティース (光文社)坂木 司 シンデレラ・ティース
(光文社)
坂木 司


souiunogaii評価 ハート3つ

歯科治療恐怖症というのは、医学書にも載っているれっきとした病気、だそうだ。
この小説「シンデレラ・ティース」の舞台は、とあるオフィス街の歯科医院。

もし歯医者に対して、「怖い」ってイメージ・思い込みを持っているとしたら、この小説に登場する優しい歯科スタッフたちが、それをきっと消してくれる。
歯痛と、小さいけれど大切な秘密に効きます。
注目の新鋭による、ひと夏の物語。

大学生のサキは、大の歯医者嫌い。なのに、ちょっとしたきっかけで、なぜか歯科医院の受付アルバイトをすることになってしまう。
冗談じゃない! 断ろうとするサキだが、いつしか魅力的なスタッフと、患者たちの持ち込む謎に、夢中になっていく。
夏休み、少しだけ彼女は成長していく。
新鋭が柔らかに紡ぎあげた、青春小説ミステリー風!


主人公を含めた、品川デンタルクリニックのスタッフたちそれぞれのキャラクターが、とっても魅力的。

サキ。主人公。大学2年生。小さい頃から歯医者が大っ嫌い。
なりゆきでクリニックの受付係のアルバイトを始める。
笑顔が素敵。まじめで一生懸命。

歯科医は、品川院長、唯史おじさん、成瀬先生、の3人。
女性陣は歯科衛生士の歌子さん、中野さん、春日さん。それに事務の葛西さん。

そして、歯科技工士の四谷さん。

サキは、歯科が苦手ながらも、受付係として、患者への笑顔を忘れずに、とまどいながらも懸命に仕事に取り組みながら、歯科恐怖症を少しずつ克服していく。その姿が、とってもいい。
大学2年生の女の子の、若い力・元気さ・ひたむきさ、がひしひし伝わってくる。
「ありがとう、ここは本当にいいクリニックだね」
一瞬、言葉を失ってしまった。なんだろう、なんか嬉しい。ものすごく苦手な場所なのに、居て良かった、そう思ってしまうほどだ。
(中略)
そして、笑顔。今の私にできることって、やっぱりこれしかないから。

私自身も去年の11月〜今年の1月まで、虫歯の治療のために歯科に通った。
歯科医にかかるのは小学生のとき以来で、実に10年ぶりだった。
歯医者恐怖症の私は、違和感を感じながらも長い間、奥歯の虫歯を放置してしまっていた。
自宅近くのクリニック。最初にそのドアを開けて中に入るときには、恐怖と不安と緊張とでドキドキした。
でも、意を決して入ったそのクリニックが、私が持つ歯科医へのイメージを変えてくれた。大げさかもしれないけれど、医療は「人」なんだと感じた。
新しい器具の開発や治療法の改良なども、もちろんあるんだろう。
けれど、やっぱり大切なのは「人」なんだ。
何回か通ううちに、私の歯医者恐怖症はすっかり治ってしまったみたいだ。
「サキ、患者さんはもともとどこかが痛かったり不快だったりするから、ここへ来るんだ。そこでさらにつらい目に遭わされたら、不幸の二乗だよね。だからここでは、そのストレスをできるだけ減らしてあげたいと思うんだ」

「僕は『良薬は口に苦し』なんてことわざ、大っ嫌いだからね」

患者の気持ちを一番に考え、理解し、納得・安心させてくれ、その上で最善の治療のために力を尽くしてくれる。

この小説のクリニックは、まさに理想の歯医者さんだ。

オフィス街のクリニックには、歯そのもの以外にも、精神的にいろんな悩みを抱えた患者がやってくる。
サキは、そんな患者たちの悩みを何とかして解決してあげたいと、一生懸命になる。

歯科技工士の四谷さんにヒントを出してもらいながら、サキは患者へのアプローチ方法を探っていく。
ちょっとミステリー小説みたいな感じになっているのも、読んでいて面白い。

とにかく、歯医者さんが好きになる、そんな小説だ。

サキの友人のヒロちゃんを主人公にした姉妹編の小説「ホテルジューシー」も、ぜひ読んでみたい。

坂木司といえば、前に読んだ「ワーキング・ホリデー」も面白かった。
ホテルジューシー (角川書店)坂木 司
ホテルジューシー (角川書店)
坂木 司

ワーキング・ホリデー (文藝春秋)坂木 司
ワーキング・ホリデー (文藝春秋)
坂木 司
2007-09-28

『ワーキング・ホリデー』坂木司 を読んで


ワーキング・ホリデー (文藝春秋)坂木 司ワーキング・ホリデー
(文藝春秋)
坂木 司


souiunogaii評価 ハート4つ

読んでて、とっても気持ちの良くなる爽やかな小説でした。
読み終わったあとの、何とも言えない爽快感が、良い。
夏休みに見る映画にも似た、こういう感じの気持ちよさ、大好きです。
内容紹介
夏のある日、ホストクラブで働く元ヤン・沖田大和のもとに、突然、息子と名乗る小学五年生の進がやってきた! 息子の教育上ホストはよろしくない、と大和は昼間の仕事である宅配便のドライバーへ転身するのだったが……。正義感溢れ、喧嘩っ早くて義理人情に篤い大和。家事にたけて口うるさい、おばちゃんのような中身の進。仕事や仲間を通して、二人は絆を深めてゆくが、進の夏休みも終わりに近づいて……

見知らぬ少年が突然に目の前に現われて、一緒に暮らし始めて、二度と忘れられない最高の夏休みを過ごす。
戸惑いが喜びに変わっていく。

家事が得意で主夫みたいな言葉を繰り出す小学生の進と、元ヤンキーでちょっと乱暴だけれども自分の正義と信念を堂々と持っている、父親の大和。
父親と息子の何ともいえず絶妙な距離感が、たまらなく良い。
「自分のスタイルを貫くこと。どんなに他人から笑われようが、自分の信じた道をゆくこと。それがカッコ良さを生み出すんだ。わかったか?」
「うーん……わかるようなわからないような……」
半信半疑の態度に業を煮やした俺は、おっさんから貰ったタオルをぎゅっと頭に巻いて見せる。
「どうだ。カッコ悪いか?」

元ヤンキーで、前職はホストの男が、一転して宅配便の配達員になる。その働く姿が、もうとにかくカッコいい。
重い荷物をもって階段をのぼって、雨の中を濡れながら走って。
宅配便の配達員への見方が、この小説を読んで少し変わったような気もする。
今まではあまり感じていなかった「ありがとう」「ごくろうさま」の気持ちが、意識できるようになったというか。
もうすぐ郵便が民間会社になるそうだけれど、あらためて“届けてくれる人”の存在に感謝しなきゃと思った。

ほとんどが登場人物のセリフと、主人公ヤマトの心の声で構成されている文章。
よけいな情景描写や説明文はとことん省かれている。
そのことが、場面を目に浮かべさせる不思議な臨場感を生み出していて、読む人をどんどん物語の中に引き込んでいく。
上手い文章だなと思う。
(あと、食事のシーンが多いんですが、これが本当に美味しそう。)

数々の出来事の後に、やがて訪れる夏休みの終わり。

いまの楽しい日々は永遠には続かないけれど、でも楽しいことはこれからも次々にやってくる。

「あんな父親だったらいいな」なんて、子供の頃はしょっちゅう考えたりした。
そんな、理想の父親像のひとつが、ヤマトなのかもしれない。
「二度と大和さん、なんて呼ぶなよ」
首の後ろに、汗じゃない湿り気がじわじわしみ込んできた。畜生。俺も鼻水が垂れそうだぜ。
「お前が嫌だって言ったって、俺は一生お前の親父なんだからよ」
「……うん!」

カッコいい男になるためのヒントがいっぱい詰まった、素敵な親子の物語です。
シンデレラ・ティース (光文社)坂木 司
シンデレラ・ティース (光文社)
坂木 司

切れない糸 (東京創元社)坂木 司
切れない糸 (東京創元社)
坂木 司

青空の卵 (東京創元社)坂木 司
青空の卵 (東京創元社)
坂木 司