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『カフカ短篇集』池内紀(編訳) を読んで[2007-11-07]
『変身・断食芸人』カフカ作 山下肇, 山下萬里訳 を読んで[2007-09-30]

2007-11-07

『カフカ短篇集』池内紀(編訳) を読んで


カフカ短篇集 (岩波文庫)カフカ(著), 池内 紀(訳)カフカ短篇集
(岩波文庫)
カフカ(著)
池内 紀(訳)

souiunogaii評価 ハート3つ

『変身』の作者、カフカの短編集。実に不思議な魅力を持った物語たち。
内容紹介
実存主義、ユダヤ教、精神分析――。カフカ(1883-1924)は様々な視点から論じられてきた。だが、意味を求めて解釈を急ぐ前に作品そのものに目を戻してみよう。難解とされるカフカの文学は何よりもまず、たぐい稀な想像力が生んだ読んで楽しい「現代のお伽噺」なのだ。語りの面白さを十二分にひきだした訳文でおくる短篇集。20篇を収録。

カフカの作る物語世界にはどれも、不思議な魅力というか、魔法のような力を、私は感じる。
読むのにはいくらかの集中力が必要。少しでもボーっとしていると、すぐに文章の中で迷子になってしまう。

短編集である本書に収められている物語は、もちろんどれも短いものばかり。
2〜3ページで終わるものも多く、「夜に」は最も短く本文は9行しかない。
もくじ
掟の門
判決
田舎医者
雑種
流刑地にて
父の気がかり
狩人グラフス
火夫

バケツの騎士
夜に
中年のひとり者ブルームフェルト
こま

町の紋章
禿鷹
人魚の沈黙
プロメテウス
喩えについて
万里の長城

迷子になってしまう、というのは、ストーリーの先がまったく予想がつかない、ということによるのかもしれない。
突然、思いがけない方向転換があったり、予想よりもずっと早く結末にたどりついたりする。
気を抜いては読めない。しかし、決して難しいというわけでもない気がする。

読んで即座に物語の世界を頭の中に映像化する、ということが、やりにくい。

イメージする力というか、じっくりと想像力を働かせながら、その世界を作って、その中に入っていく、という読み方をしなくては。

読者にゆだねられている部分も大きく、そして多い。

最も印象に残った作品はどれかといえば、やはり「掟の門」だろうか。
うすれていく意識を呼びもどすかのように門番がどなった。
「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのためのものだった。さあ、もうおれは行く。ここを閉めるぞ」
「掟の門」より

もうひとつ挙げるとすれば、「流刑地にて」も、気に入った。
機械にかけられた囚人のすべてが見出したものが将校には拒まれていた。死体は唇をかたく横にむすび、目をひらいていた。生きているようにみえた。視線はもの静かで信念をたたえていた。その額に太い鉄の針が深々と突き立っていた。
「流刑地にて」より

上の2つに限らず、他のどの物語も、その主人公は皆、他人には理解されない孤独な世界にいながらも、自身の信念や正義を貫こうとする。

カフカがまた好きになる一冊。

【関連】
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審判 (岩波文庫)辻 王星(訳)
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辻 王星(訳)

カフカ寓話集 (岩波文庫)池内 紀(訳)
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池内 紀(訳)

カフカ短篇集 :情報考学 Passion For The Future
2007-09-30

『変身・断食芸人』カフカ作 山下肇, 山下萬里訳 を読んで


変身・断食芸人 (岩波文庫)カフカ(作) 山下肇, 山下萬里(訳)変身・断食芸人
(岩波文庫)
カフカ(作)
山下肇, 山下萬里(訳)

souiunogaii評価 ハート4つ

カフカの「変身」を初めて読んだのは、高校生のとき、現代文の教科書でだった。
でも教科書に載っていたのは、冒頭の部分だけだったので、正確には読んだとはいえない。

授業の内容は、よく覚えていないけれど、確か「山月記」と比べながらの話だったと思う。
当時の私は、つまらない授業だと感じていて、「変身」の全文を読もうという気も起こらなかった。
それから数年がたってしまったけれど、やっと全文を読むことができた。

たった100ページの短編小説。それは次の一文から始まる。
グレゴール・ザムザはある朝、なにやら胸騒ぐ夢がつづいて目が覚めると、ベッドの中の自分が一匹のばかでかい毒虫に変わっていることに気がついた。

朝起きたら、自分はイモムシに変身していた!なんて、信じられない異常な緊急事態が発生しているのにもかかわらず、当の本人グレゴールの不思議なまでの冷静さが、私には面白くてたまらなかった。
イモムシになっているのに、会社に行こうと電車の時刻を気にしたり。
「いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないよ!」と言いたくなってしまう。

グレゴールの家族に対する姿勢、家族たちのグレゴールへの接し方、その両方が、月日がたつにつれて変わっていく様子が、上手く描かれている。
この家族の態度の変化こそが、この物語のテーマにもなっているんだと思う。

家族とは何だろう?といろいろ考えさせられる。
どんなに困難な状況に追い込まれても、家族全員が一緒に暮らし続けることが大切なのか。

迷惑だと感じたり。いなくなってほしいと感じたり。
人はどんな気持ちで、家族の一人を見捨ててしまうのか。

現代社会でも、血のつながった家族を殺してしまうなんて事件があったりする。
介護疲れ、家庭内暴力、ひきこもり。

イモムシの声になってしまったグレゴールの言葉は、もう人間には理解できない。
そのことが、物語を悲しくさせていく。
気持ちが伝わらない、自分の意思を分かってもらえない。
そのことがどんなに辛いことなのかを、ひしひしと感じた。

しかし、イヌやネコなどのペットだって、言葉は通じなくても人間と分かり合えることがあるという。
でもグレゴールはよりにもよって醜いイモムシだ。
外見の大切さをあらためて感じる。
同じ変身でも、ジブリの「紅の豚」なんかは、言葉も通じて外見もそれほど悪くない。そういう場合には周囲の人間の対応のしかたはまったく違ったものになる。
彼は家族たちのことを、感動と愛情をこめて回想した。自分は消えていなくなるべきだ、

どうしてイモムシに変身してしまったのか、その原因は何だったのだろう…。

私が読んだのは、岩波文庫で2004年に出た改訳版で、古い言葉が現代のものに置き換えられている。(例えば、巴丹杏→アーモンド)

本書には、おまけ的に、「断食芸人」という20ページ弱の短編がついている。
これも、一言で言えば、周囲に理解されない悲しさに苦しむ主人公の物語だ。

【追記】
『カフカ短篇集』池内紀(編訳) を読んで
変身/掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫)カフカ(作), 丘沢 静也(訳)
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異邦人 (新潮文庫)カミュ(作), 窪田 啓作(訳)
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