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『ばかもの』絲山秋子 を読んで[2010-02-13]
『ラジ&ピース』絲山秋子 を読んで[2009-01-10]
『ダーティ・ワーク』絲山秋子 を読んで[2008-05-08]
『海の仙人』絲山秋子 を読んで[2008-01-19]
『イッツ・オンリー・トーク』絲山秋子 を読んで[2008-01-09]

2010-02-13

『ばかもの』絲山秋子 を読んで


ばかものばかもの
(新潮社)
絲山秋子


souiunogaii評価 

内容紹介
絶望の果てに響く、短く不器用な、愛の言葉。待望の恋愛長篇。

気ままな大学生と、強気な年上の女。かつての無邪気な恋人たちは、いつしか別れ、気づけばそれぞれに、取り返しのつかない喪失の中にいた。
行き場をなくし、変わり果てた姿で再会した二人の、むき出しの愛。生きること、愛することの、激しい痛み。そして、官能的なまでの喜び――。
待望の恋愛長篇。

久しぶりに絲山秋子さんの小説を読みました。

bakamono.jpg
本作品は映画化もされるだ(2010年春公開予定)。
監督は金子修介、主演は成宮寛貴、内田有紀。こちらも楽しみだ。

主人公のヒデが、物語序盤ではお気楽な大学生ライフを楽しんでいて、
あぁ、そういう何でもない日常を描く感じなのかな、と思いながら読み進めていくと、
徐々にヒデの人生が壊れていき、遂にはアルコール依存症で自分も周りの人間も大きく傷つけてしまい、どうしようもない闇へと落ちていきます。

一人の人間の人生が音を立てて崩れていく、その描写が非常に上手いなと思いました。
楽しかったあの頃にはもう二度と戻れない、失ってからその存在に気づく大切なたくさんのもの・人。

物語の舞台になっているのは、やはり群馬で、もう群馬で小説を書かせたら絲山さんの右に出る人はいないんじゃないかな、と。

物語のラストで、主人公のヒデを救い、またヒデによって自分も救われる女性・額子の存在がとってもイイ。
結局、人は誰かと一緒じゃなきゃ生きられないんだ、みたいなことを感じさせてくれる。



絲山秋子 Official Web Site

絲山秋子『ばかもの』刊行記念対談(佐々木 敦×絲山秋子):新潮社


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2009-01-10

『ラジ&ピース』絲山秋子 を読んで


ラジ&ピース (講談社)絲山 秋子ラジ&ピース
(講談社)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
彼女の心は、何も入っていない冷蔵庫のようにしんと冷えていた――。
それでも電波は、必ずラジオを見つけて鳴らす。女性DJの心を描く、絲山秋子の最新小説。

絲山秋子さんの新作です。
けっこう久しぶりに読んだ絲山さんの小説は、「やっぱり私は絲山さん好きだな」とあらためて感じさせてくれる素敵な物語でした。

読み終わってから知ったのですが、絲山さんってFMぐんまの番組に隔週で出演されているんですね。
ああ、それでこんな物語が生まれたんだな、と納得です。

主人公は、相場野枝という女性。
群馬県のFM局のアナウンサー。彼女がパーソナリティを担当する番組が、タイトルにもなっている「ラジ&ピース」。

野枝は、いろいろな思いを抱えて、全然縁もゆかりもない群馬県にやってきた。
そこで、孤独な自分を守りつつも、地元の友人やリスナー、局の同僚と交流する中で、ちょっとずつ群馬の町になじみ、気持ちをやわらかくしていく、そんなストーリー。

群馬、車、働く女性主人公、という、これぞ絲山秋子な感じの物語。

大学卒業までを東京の実家で過ごした野枝と、群馬の方言を話す地元人との会話が、面白い。

普段は、他人との関わりを極力避ける孤独な野枝が、スタジオでマイクに向かって話すときだけは、明るく楽しげな人気者に変身する、その姿が、その複雑な心情が、とてもよく描かれている。

停電が終わって突然夜景が目の前に広がったようだった。野枝の胸の中にきらきらと無数の灯りがともった。
野枝は生まれて初めて人気者になった気がした。こういうことだったのだ。
野枝の声が空を飛んでいるのではなかった。
リスナーたちが空を飛んで、スタジオの野枝のそばに座るのだった。
(中略)
目に見えぬリスナー、言葉を発さぬリスナーと心が寄り添っていくのを野枝は感じた。

家族とか、故郷とか、友人とか恋人とか、会社とか、そいういういろんなものに対する、もやもやしたものを抱えながら生きていく、強くも弱くもある主人公が、すごく素敵に思えた。

一緒に収録されている、「うつくしま ふぐすま」という短編は、同姓同名の2人の女性のお話。
これもさわやかな感じでイイ。

FMぐんま ラジ&ピース

絲山秋子 OFFICIAL WEB SITE

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2008-05-08

『ダーティ・ワーク』絲山秋子 を読んで


ダーティ・ワーク (集英社)絲山秋子ダーティ・ワーク
(集英社)
絲山秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
今日もどこかで、あの人はきっと生きている
熊井はいつもギターを弾いている。もう何年も会っていないTTのことを考えながら……。
様々に繋がる人間関係、それぞれが誰かへの思いを抱えながら、地を這うように生きていく、希望と再生の連作短編。
もくじ
worried about you
sympathy for the devil
moonlight mile
before they make me run
miss you
back to zero
beast of burden

久しぶりに読んだな、絲山秋子の小説。
脇役が次の作品では主役になっている、って形の連続短編集。
うーん、何とも感想を書くのが難しい。
天気で言ったら曇りの日かな(意味不明か)。
これまでに読んだ絲山さんの小説とはちょっと別のテイストがする。
男女それぞれの視点の変化を、上手に書き分けてる。
登場人物は皆、幸せにあと一歩手が届かない、何かを怖がっている、でも前を向いて歩くことをやめない、そんな人ばかり。
応援したくもなるし、読んでいて力をもらえる気もする。
何をすればいいんだろう。もうここに来るのは嫌なんだ、ずっと前から。
けれど多分、何も変わらない。

ストーリーと言えるほどしっかりした物語性は見えないんだけど、それでも「ゴール」が見えたときの晴れ晴れした気持ちもかすかに感じさせてくれる。
読み終わったときに、ちょっとだけ体が軽くなったような気がした。
2008-01-19

『海の仙人』絲山秋子 を読んで


海の仙人 (新潮文庫)絲山 秋子海の仙人
(新潮文庫)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

孤独に向き合う男女三人と役立たずの神様が奏でる不思議なハーモニー。
芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。
何もしないひっそりした生活。そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。孤独の殻にこもる河野には、2人の女性が想いを寄せていた。かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。
内容紹介(新潮社)より

気に入っている海辺の町で、趣味の釣りと泳ぎを楽しむ気ままな一人暮らし。
テレビも新聞もない。ペットはヤドカリ。そして無職。
まさに“海の仙人”さながらの生活を送る男・河野が主人公だ。

うん、こんな生活も案外いいかもしれないな、なんてふと思ってしまう。
都会の便利な暮らしに一度慣れてしまうと、そこから離れることは難しいと分かっていながら、いつかは、と仙人の生活にあこがれる変な自分に気づいたりして、おかしいよなと思う。

その河野の目の前にある日、ファンタジーという神様が現われる。
このファンタジーという神様、実にいい。
何か超能力的な力を持っているわけでもなく、願いをかなえてくれるわけでもなく、ただ河野のところに居候するだけ。不思議だ。
何より、神様という特殊な存在であるはずなのに、河野は驚きも怖がりもせずに、さも当然のようにファンタジーを受け入れてしまうところが、不思議だ。
でも、そこを、サラッとした文章に、これはこういうものなのだ、と納得させられてしまう。

そして、男女の登場人物たちが主人公にからんできて、物語は進行していく。

クルマや酒・料理の描写なんかは文句なしに上手くて、絲山作品の味わいのひとつだよなとあらためて思う。

敦賀、金沢、新潟、水戸、名古屋、などなどいろいろな町が出てくる。
主人公が抱える過去からのトラウマ、そこに決着をつけるための車での旅。

扱っているテーマはいつになく重たく深いもので、闇っていうか陰っていうか、それが物語後半にドカッと乗っかってきて、前半とのギャップもあってか、読んでいて少しの間ものが考えられなくなる感覚になった。

「孤独」って言葉が何度も出てくる。

それなのにだ、文章は終始一貫して軽やかさ、さらさら感、清涼感を失わない。
だから、重たーいテーマでありながら、嫌な暗さみたいなものがない。

ラストは、何だかいろんなことを想像させる意味深なものになっている。
幸福とは何か、みたいなことをちょっと考えたくなる、読んでよかったと思える小説。

ファンタジーの言葉で、特に印象に残ったものを2つ。
「ファンタジー、なにかをするってことは前にすすむことなんですか?」
「どっちが前かはわからんがな。物事が連鎖するのは間違いないから、前に進むこともあるだろう」

「そうだ。だから思い出せないのが一番正しいのだ。真実とはすなわち忘却の中にあるものなのだ」

絲山秋子 Official Web Site
2008-01-09

『イッツ・オンリー・トーク』絲山秋子 を読んで


イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)絲山 秋子イッツ・オンリー・トーク
(文春文庫)
絲山 秋子


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介(文藝春秋)
うつ病のヤクザに痴漢の友だち、シンドい事情を抱えた奇妙な人々のメゲない、挫けない、すねない生き様を描いた鮮烈なデビュー作
居候は自殺未遂のいとこ、友だちはうつ病のヤクザに、ネットで知り合った「痴漢」さん、同窓生の都議会議員候補はEDでマザコン……。
東京・蒲田の片隅でつかのま心を温め合う奇妙な人々。それぞれに厄介な事情を抱えながらも、メゲず、媚びず、拗ねず――精一杯、自分なりの「今」を生きる。彼らのチャーミングなやさぐれぶりが、きっとあなたを励ましてくれます。

2008年に読んだ本の1冊目は、絲山秋子さんの『イッツ・オンリー・トーク』。
この本には2作品が収められている。

まずは、文学界新人賞受賞作で、芥川賞候補作にもなった「イッツ・オンリー・トーク」。
主人公の橘優子は、ほぼ絲山さん自身なんだろうなと、そんな気がした。
というのは、これまで読んできた他の小説や、絲山さんのホームページの日記を読んでいて、私が(勝手に)頭の中に思い描いている絲山さん本人のイメージと、この主人公の姿とが、あまりにぴったりと重なったからだ。

くり返す日常生活の途中の、特に何でもないところから始まって、そしてまた何でもないところで終わっていく物語。
特別に派手な出来事が起こるわけじゃない。静かな淡々としたドラマ。
そこに、調味料のように加わってくる、それぞれどこかにくせのある登場人物たち。
蒲田という街の描き方も、いい。
クルマ、クスリ、病気、ダメ男、セックス。ああなるほど、これは絲山ワールドだと。

続く2作品目は、「第7障害」。
こちらはまた一味違う。
過去の事故を忘れられずにいる女性主人公が、自分の居場所を求めている、みたいな。
舞台が群馬なのも、やっぱりクルマにはこだわるのも、いい。
これもやっぱり絲山さんならではの作品だなと思う。
読み終わった後の、気持ち良さみたいな点から言えば、私は「イッツ・オンリー・トーク」よりもこちらの「第7障害」のほうが好みかな。

読み終わった後で知ったのだけれど、「イッツ・オンリー・トーク」は「やわらかい生活」という題名で映画になっていて、主演は寺島しのぶで、既にDVDも出てるとか。
こちらも、見たい。
DVD「やわらかい生活」出演:寺島しのぶ, 豊川悦司, 妻夫木聡「やわらかい生活」
出演:寺島しのぶ
豊川悦司, 妻夫木聡

蒲田に住むの弁 絲山秋子 :文藝春秋 本の話

絲山秋子 Official Web Site