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『ダーティ・ワーク』絲山秋子 を読んで[2008-05-08]
『海の仙人』絲山秋子 を読んで[2008-01-19]
『イッツ・オンリー・トーク』絲山秋子 を読んで[2008-01-09]
『袋小路の男』絲山秋子 を読んで[2007-11-30]
『絲的メイソウ』絲山秋子 を読んで[2007-11-20]

2008-05-08

ダーティ・ワーク (集英社)絲山秋子
ダーティ・ワーク (集英社)
絲山秋子

内容紹介
今日もどこかで、あの人はきっと生きている
熊井はいつもギターを弾いている。もう何年も会っていないTTのことを考えながら……。
様々に繋がる人間関係、それぞれが誰かへの思いを抱えながら、地を這うように生きていく、希望と再生の連作短編。
もくじ
worried about you
sympathy for the devil
moonlight mile
before they make me run
miss you
back to zero
beast of burden

久しぶりに読んだな、絲山秋子の小説。
脇役が次の作品では主役になっている、って形の連続短編集。
うーん、何とも感想を書くのが難しい。
天気で言ったら曇りの日かな(意味不明か)。
これまでに読んだ絲山さんの小説とはちょっと別のテイストがする。
男女それぞれの視点の変化を、上手に書き分けてる。
登場人物は皆、幸せにあと一歩手が届かない、何かを怖がっている、でも前を向いて歩くことをやめない、そんな人ばかり。
応援したくもなるし、読んでいて力をもらえる気もする。
何をすればいいんだろう。もうここに来るのは嫌なんだ、ずっと前から。
けれど多分、何も変わらない。

ストーリーと言えるほどしっかりした物語性は見えないんだけど、それでも「ゴール」が見えたときの晴れ晴れした気持ちもかすかに感じさせてくれる。
読み終わったときに、ちょっとだけ体が軽くなったような気がした。
2008-01-19

海の仙人 (新潮文庫)絲山 秋子
海の仙人 (新潮文庫)
絲山 秋子

孤独に向き合う男女三人と役立たずの神様が奏でる不思議なハーモニー。
芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。
何もしないひっそりした生活。そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。孤独の殻にこもる河野には、2人の女性が想いを寄せていた。かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。
内容紹介(新潮社)より

気に入っている海辺の町で、趣味の釣りと泳ぎを楽しむ気ままな一人暮らし。
テレビも新聞もない。ペットはヤドカリ。そして無職。
まさに“海の仙人”さながらの生活を送る男・河野が主人公だ。

うん、こんな生活も案外いいかもしれないな、なんてふと思ってしまう。
都会の便利な暮らしに一度慣れてしまうと、そこから離れることは難しいと分かっていながら、いつかは、と仙人の生活にあこがれる変な自分に気づいたりして、おかしいよなと思う。

その河野の目の前にある日、ファンタジーという神様が現われる。
このファンタジーという神様、実にいい。
何か超能力的な力を持っているわけでもなく、願いをかなえてくれるわけでもなく、ただ河野のところに居候するだけ。不思議だ。
何より、神様という特殊な存在であるはずなのに、河野は驚きも怖がりもせずに、さも当然のようにファンタジーを受け入れてしまうところが、不思議だ。
でも、そこを、サラッとした文章に、これはこういうものなのだ、と納得させられてしまう。

そして、男女の登場人物たちが主人公にからんできて、物語は進行していく。

クルマや酒・料理の描写なんかは文句なしに上手くて、絲山作品の味わいのひとつだよなとあらためて思う。

敦賀、金沢、新潟、水戸、名古屋、などなどいろいろな町が出てくる。
主人公が抱える過去からのトラウマ、そこに決着をつけるための車での旅。

扱っているテーマはいつになく重たく深いもので、闇っていうか陰っていうか、それが物語後半にドカッと乗っかってきて、前半とのギャップもあってか、読んでいて少しの間ものが考えられなくなる感覚になった。

「孤独」って言葉が何度も出てくる。

それなのにだ、文章は終始一貫して軽やかさ、さらさら感、清涼感を失わない。
だから、重たーいテーマでありながら、嫌な暗さみたいなものがない。

ラストは、何だかいろんなことを想像させる意味深なものになっている。
幸福とは何か、みたいなことをちょっと考えたくなる、読んでよかったと思える小説。

ファンタジーの言葉で、特に印象に残ったものを2つ。
「ファンタジー、なにかをするってことは前にすすむことなんですか?」
「どっちが前かはわからんがな。物事が連鎖するのは間違いないから、前に進むこともあるだろう」

「そうだ。だから思い出せないのが一番正しいのだ。真実とはすなわち忘却の中にあるものなのだ」

絲山秋子 Official Web Site
2008-01-09

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)絲山 秋子
イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)
絲山 秋子

内容紹介(文藝春秋)
うつ病のヤクザに痴漢の友だち、シンドい事情を抱えた奇妙な人々のメゲない、挫けない、すねない生き様を描いた鮮烈なデビュー作
居候は自殺未遂のいとこ、友だちはうつ病のヤクザに、ネットで知り合った「痴漢」さん、同窓生の都議会議員候補はEDでマザコン……。
東京・蒲田の片隅でつかのま心を温め合う奇妙な人々。それぞれに厄介な事情を抱えながらも、メゲず、媚びず、拗ねず――精一杯、自分なりの「今」を生きる。彼らのチャーミングなやさぐれぶりが、きっとあなたを励ましてくれます。

2008年に読んだ本の1冊目は、絲山秋子さんの『イッツ・オンリー・トーク』。
この本には2作品が収められている。

まずは、文学界新人賞受賞作で、芥川賞候補作にもなった「イッツ・オンリー・トーク」。
主人公の橘優子は、ほぼ絲山さん自身なんだろうなと、そんな気がした。
というのは、これまで読んできた他の小説や、絲山さんのホームページの日記を読んでいて、私が(勝手に)頭の中に思い描いている絲山さん本人のイメージと、この主人公の姿とが、あまりにぴったりと重なったからだ。

くり返す日常生活の途中の、特に何でもないところから始まって、そしてまた何でもないところで終わっていく物語。
特別に派手な出来事が起こるわけじゃない。静かな淡々としたドラマ。
そこに、調味料のように加わってくる、それぞれどこかにくせのある登場人物たち。
蒲田という街の描き方も、いい。
クルマ、クスリ、病気、ダメ男、セックス。ああなるほど、これは絲山ワールドだと。

続く2作品目は、「第7障害」。
こちらはまた一味違う。
過去の事故を忘れられずにいる女性主人公が、自分の居場所を求めている、みたいな。
舞台が群馬なのも、やっぱりクルマにはこだわるのも、いい。
これもやっぱり絲山さんならではの作品だなと思う。
読み終わった後の、気持ち良さみたいな点から言えば、私は「イッツ・オンリー・トーク」よりもこちらの「第7障害」のほうが好みかな。

読み終わった後で知ったのだけれど、「イッツ・オンリー・トーク」は「やわらかい生活」という題名で映画になっていて、主演は寺島しのぶで、既にDVDも出てるとか。
こちらも、見たい。
DVD「やわらかい生活」出演:寺島しのぶ, 豊川悦司, 妻夫木聡
DVD「やわらかい生活」
出演:寺島しのぶ, 豊川悦司, 妻夫木聡

蒲田に住むの弁 絲山秋子 :文藝春秋 本の話

絲山秋子 Official Web Site
2007-11-30

袋小路の男 (講談社文庫)絲山 秋子
袋小路の男 (講談社文庫)
絲山 秋子

内容紹介
指一本触れないまま「あなた」を想い続けた
高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。
川端康成文学賞を受賞した表題作の他、「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。

こんな女の人に、ずっと側にいてもらったら、いいだろうな、なんて考えてしまった。

日向子と小田切は、実に不思議な2人だった。
平行な2本の直線は、どこまで遠くまで伸びていっても、永遠に交わったりはしない。
2人の間の距離は、互いに近づくことも離れることもない。
その、“ちょうどいい”距離を保ち続ける。
結婚はしないのに、葬式はするのだ。

友達でもない、恋人でもない、家族でもない。

「袋小路の男」と「小田切孝の言い分」は連作で、2人のその後をちょっと書き方を変えて書いている。

「袋小路の男」では、“あなたは…”と日向子の目線からの世界で表現されたものが、
「小田切孝の言い分」になると、“あいつは…”と小田切の側から見る世界が加わって、ちょっと違ったテイストに仕上がっている。
なるほど、こういう続編の書き方もできるんだ、と。
どっか行きましょうよ、と言えば小田切は、そうだね、近いうちに、と答える。しかしその「近いうち」が近いうちに来たためしがない。


「アーリオ オーリオ」は、この本に収められた3作品の中では、私は一番これが好きだ。
主人公は、工学部出身で、科学が好きで、何より星が好きな人で、そんなところに、私と重なる部分を小さく見つけた気がして、親近感を感じたからかもしれない。
池袋のプラネタリウムとか、群馬の天文台が登場するのは、ポイントが高い。

地球から遠く離れたところにある星の光は、光ってから私たちの目に届くまでに何年もの時間がかかる。
そこに、書いてから相手に読まれ返事が来るまでに数日間のタイムラグがある「手紙」を重ねているところが、何とも素敵じゃないか。
「手紙ってリアルタイムじゃないじゃん」
「いいんだよ。タイムラグがあても」
「手紙かあ……」

コニカミノルタプラネタリウム“満天”in Sunshine City
県立ぐんま天文台

絲山秋子 Official Web Site
2007-11-20

絲的メイソウ (講談社)絲山秋子
絲的メイソウ (講談社)
絲山秋子

内容紹介
ああッ!
人生は、なんでジグザグにしか進まないんだ!
あっちにぶつかり こっちにぶつかり 決してまっすぐには進まない 絲山秋子の偽らざる日々。珠玉???の初エッセイ集

個人的にすっかりハマッてしまっている小説家、絲山秋子さんのエッセイ集。
小説ももちろん文句なしで面白いのだけど、エッセイもまた格別に面白いじゃないか。
もくじ
絲山の由来 / 禿礼賛 / さあ、モテましょう! / うまい話があるんだよ / 寝言は寝て言え / 男は外、飯は別 / 祭嫌い / 世の中よろず五七調 / タンスの大奥 / アンチグルメ体験 / 喫煙党 / 講談社24時 / 勝ち負けなんてしみったれ / 下り坂ドライブ / 自分の取説 / 恋のトラバター / 男たちよ、本を読むな! / 群馬人絲山 / 無駄と無意味

触れている題材はいろいろ。
酒、タバコ、引っ越し、会社員時代、ルームシェア、群馬、九州、出版社、ハゲ、納豆 などなど。

絲山さんのHPで公開されている日記を読むのも楽しいのだが、こうして一冊の本になっているものを読むのもまた楽しい。

普通の人が言っているのを聞いたら、
「何を自分勝手な!」「理不尽な、屁理屈だ!」などと怒ってしまうようなことでも、
同じことを絲山さんが文章で語ってくると、「そうそうその通り!」「分かる分かる!」と納得・賛同してしまう気になるから不思議だ。

絲山さんの文章には、彼女の強さやカッコよさや豪快さがにじみ出ている気がする。
私はすっぱり化粧をやめてしまった。開き直りもついにここまできた。どうせ洗い流す物に何千円もかけてるなんてバカかと思う。

「絲山作品のファン=絲山さんのファン」と感じる一冊。

【関連】
『逃亡くそたわけ』絲山秋子 を読んで
『沖で待つ』絲山秋子 を読んで
「ニート」絲山秋子 を読んで


絲山秋子 Official Web Site