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『おひるのたびにさようなら』安戸悠太 を読んで[2009-01-11]
『パーフェクト・ルーム』吉田龍二 を読んで[2007-10-05]
『星見るしあわせ』吉沢深雪 を読んで[2007-09-04]

2009-01-11

『おひるのたびにさようなら』安戸悠太 を読んで


おひるのたびにさようなら (河出書房新社)安戸悠太おひるのたびにさようなら
(河出書房新社)
安戸悠太


souiunogaii評価 ハート3つ

内容紹介
昼休み、会社の外階段で行われる3人だけの遊び。真司の任務は近くの病院へ行き、無音のTVの昼ドラを観ては、先輩女子社員にストーリーを想像して報告すること。視覚と聴覚のずれに揺れる世界をせつなく描く、企みに満ちた傑作!
第45回文藝賞受賞作。

安戸悠太さんの『おひるのたびにさようなら』には、すっかりやられました。
最後まで読んだところで、ようやくこの小説の本当のストーリーをきちんと知ることができました。
そうか、そういう風になっていたんだ、と。
いやいや、途中までは完全に騙されていました。

安戸悠太さん、なかなかやるじゃないですか。

この小説は、登場人物、語りの視点、内容、などの面で考えると、大きく3つの構造に分かれて作られている。
1つ目は、真司という男性と、その先輩の2人の女性が、会社の昼休みにテレビの昼ドラの話をする部分。
2つ目は、彼らが見ている昼ドラのストーリーの部分。
そして3つ目が、その昼ドラを演じている女優やスタッフを中心とした部分。
これら3つの構造が、非常に上手く計算されたやり方で組み合わされて、1つの物語を形作っている。

三人称による、登場人物の描き方、視点の書き分けなどは、とても良くできていて、作者の小説家としての力を感じさせる。
錆びた鉄の匂い。雨の匂いの奥にあった。
真司は外階段にいた。遠くを見つめる目をしていた。雨は止んだが、真昼でも暗い。見下ろす街灯は点ったまま、道沿いにずっと遠くまで続く。緑がかった白が滲む。濡れた道路は黒く光った。静かだった。ほかに誰もいなかった。
もういちど、大きく息を吸い込んだ。錆びた鉄の匂いだった。やっと見つけた。この場所で深く呼吸するたび確かにあったのに、初めて嗅ぎ分けられた。
もう真司が、ドラマの正解を聞くことはできない。

さらに、場面の情景描写には、小説というよりもむしろドラマや映画を見るときに感じるような、シーンごとの流れやつながりを意識させるものがある。
映像の面白さのある小説と言ってもいい。

大きな3つの構造には、それぞれに独立した物語が展開していて、それらが最終的に1つの物語として完成されている、こういう作品を読むと、「小説を読む」という行為そのものに対して、いろいろなことを考えさせられる。

人物、セリフ、心情、情景、ストーリー、場面展開、物語を読む視点の置き場所。

読む、というのは、何とも奥深く、何とも楽しく面白いものなんだと、あらためて感じることができた。
自分でも、終わりまで見通せてしまったら書けなかったと思います。最後までゆらゆらしていたかったんですよ。終わらなくていいんだったら、それぞれの枝がどこまでも広がっていくように、ずっと書いていたかった。
安戸悠太 特別インタビュー (聞き手 神山修一):文藝2009春号

「おひるのたびにさようなら」というタイトルの持つ本当の意味を知るときの感動を、ぜひとも味わっていただきたい。


2007-10-05

『パーフェクト・ルーム』吉田龍二 を読んで


パーフェクト・ルーム (新風舎)吉田 龍二パーフェクト・ルーム
(新風舎)
吉田 龍二


souiunogaii評価 ハート3つ

本を読むスピードはそれほど速くはない私だが、この「パーフェクト・ルーム」は1時間くらいであっという間に読みきってしまった。
それほどに面白く引き込まれる小説だった。

まったく思いつきもしなかった予想外の急展開。
読んだ人は、誰もが「そうだったのか!」と思わず叫びそうになるはず。

久しぶりに感じた、「やっぱり小説を読むのって面白い」って感覚。
パーフェクト・ルーム【perfect room】=完全な部屋。
四方八方をコンクリートに囲まれた密室で、脱出は不可能。設計者、所有者、場所、目的、実在性など、すべて不明。この世界のどこかに存在すると言われているが、その実体は謎に包まれている。
脱出せよ! コンクリートの完全密室には、僕と少女と黒猫。果たして脱出できるのか? それとも? そもそもこの部屋の存在とは?
奇想天外な設定がもたらすミステリー小説。

「パーフェクト・ルーム」そのタイトルに魅かれてこの本を手に取ったのだけれど、間違いなかった。

早くその謎を解き明かしたい!真相が知りたい!そう思って読み進めていく。
しだいに気持ちも高まってくる。

思いついたことを順不同にとにかく書き並べたという感じの、短い文を連続させるスタイルの文章が、現実社会・実世界と異世界・夢とを混ぜ合わせたような不思議な空間の雰囲気を表現するのにはぴったりだと感じられる。

そして、それらは後から考えれば、実によく計算された文章表現になっていると気づかされる。上手い。
ここは宇宙の中心だ。
僕がそう望むのならば。

読者の期待を裏切らずに、しかし予想は出来ない急展開。
そして、あのラスト。
読み終わった後、頭の中の回路が再構築されてすっきりするような気持ち良さが残る。
そもそも、あらゆる問いには正しい答えなんて存在しないのです。完璧な翻訳が存在しないのと同じです。大多数の人が答えだと思っているものを、これが答えだと教えてもらっただけ。それは限りなく答えに近い、近似値でしかありません。答えとはそういうものです。真実とは別物です。

ロスト・ブルー (新風舎)吉田 龍二
ロスト・ブルー (新風舎)
吉田 龍二

CUBE2 特別版監督:アンドレイ・セクラ
CUBE2 特別版 DVD
監督:アンドレイ・セクラ
2007-09-04

『星見るしあわせ』吉沢深雪 を読んで


星見るしあわせ (WAVE出版)吉沢 深雪 星見るしあわせ
(WAVE出版)
吉沢 深雪


souiunogaii評価 

何年か前に、池袋のプラネタリウムを見に行ったことがあります。
そのとき、プラネタリウムの丸いドームスクリーンに映された満天の星と一緒に見たのは、癒し系のやわらかなイラスト。
そして、星についての詩・エッセイの朗読が聞こえてきました。

「星見るしあわせ」情報 :深雪社公式サイト

Planet Cafe2−星見るしあわせ− :コニカミノルタプラネタリウム

とっても素敵なプラネタリウム番組で、見終ってからも「良かったなー」と頭に残ってました。
で、気になってAmazonで探して買ったのが、この本「星見るしあわせ」でした。
もくじ
1章 星見るしあわせ
星暮らし/星をつくる/どこまでも遠く/流れ星/星の旅に行く/星のお祭り/自分流に星をみる/星座の名前を覚える/星浴/星に名前をつけてみる/水にうつった星/星を集める/星見る約束/星に願いを/星から生まれて/タイムマシンも/なにかのついでに/見えなくても/告白/星のデート/くじら座のミラ/輝かなくちゃ/二重星/雨夜の星/見上げるだけで/未知との遭遇

2章 星の記憶
星が恐い/星の砂/プラネタリウム/流星をおいかけて/七夕/星がみたい

3章 星をとる男

以来、なにかのきっかけでふと思い出しては、何度も読み返しています。
詩・エッセイなんで読みやすいというのもあるし、詩と一緒にほぼ全てのページに描かれているイラスト(ネコが星空を眺めている)を見ると、なんだかいい気持ちになれるんです。

私はもともと星とか宇宙とかプラネタリウムとか、結構好きな方です。
この本を読むと、「あぁ、星ってそんな楽しみ方もあったんだ」とあらためていろいろ考えたりします。

「東京の空では星なんて見えない」なんて言ったりしますけど、晴れてる夜には、意外にたくさん星が見えたりします。