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『きのうの神さま』西川美和 を読んで[2010-08-18]
『青空チルアウト』中川充 を読んで[2010-04-30]
『ゆれる』西川美和 を読んで[2009-09-19]

2010-08-18

『きのうの神さま』西川美和 を読んで


きのうの神さまきのうの神さま
(ポプラ社)
西川美和


souiunogaii評価 

内容紹介
『ゆれる』で世界的な評価を獲得し、今、最も注目を集める映画監督・西川美和が、
“真実と嘘の境界”をテーマに日常に潜む人間の本性を渾身の筆致で炙りだした短篇小説集。
映画『ディア・ドクター』に寄り添うアナザーストーリーズ。


映画「ディア・ドクター」の監督・西川美和さんが、小説という表現手法で、映画とはまた少し違った視点から、同じ「僻地医療」にまつわる様々な問題をテーマにして描いた5つの物語からなる短編集。

映画の方は、笑福亭鶴べえやえいたの演技が光っていたし、ストーリーも人物も情景も、一つひとつの描写がとてもたくみに作られていて、すごく良かった。
そして、その輝きは、小説になっても全く失われておらず、いわゆるノベライズ本みたいな薄っぺらな本なんかとは違って、このあたりからも、西川美和という人の表現者としての才能を十分に感じさせてくれる。

映画「ゆれる」という作品でも、映画と小説の両方から同じようなすごさを感じたっけ。

5つの短編の物語は、それぞれが「僻地医療」という共通のテーマを持ちながら、医師・看護士・患者・家族という主人公となる人物の視点や、物語の舞台を移し変えながら、別々の独立した世界を描いている。
そういう作りそのものも面白いし、一つひとつの話の深さもあって、読んでいて実に様々なことを考えさせる、ずっしりと重さのある小説になっている。

「1983年のほたる」は、映画にも出てきた「りつ子」さんの小学生時代のお話。
彼女が何を思って、どんな気持ちで村を離れることになり、医者の道に進んだのか、その原点ともいえるものが、少女が村人と自分との間に見えない壁を作り距離を意識し始めるその姿が、上手に綴られている。
それでも、人と同じは、いやだと思う。学校の友だちのことが嫌いなわけじゃない。家族のことも。村のことも。見下したりなんかしてない。たぶん。けれどこの先、全く変わりばえのしない人たちと、全く変わりばえのしない風景を見て、お姉ちゃんたちが過ごしてきた後を全く同じようにたどるのは、わたしはいやだと思っている。


「ありの行列」は、となる離島に、代診で来た男の話。
学会で島を数日の間留守にする老医師の代わりに、男はあるおばあさんを往診する。
そのおばあさんは、退屈なのが嫌だからと、死ぬ注射を打ってくれと男に頼む。
離島という場所が抱える問題を、西川流に描くとこうなるのか、と。


「ノミの愛情」「ディア・ドクター」は映画のアナザー・ストーリーともいえる物語。
医師を夫にもつ元看護士の女、医師を父親にもつ男。
ある種のドクターという職業への憧れをもち続ける人間の、苦悩をこれまた上手に描いている。


「満月の代弁者」は、ある村で長年診療所で医師として仕事をしてきたある男が、ある事情により村を離れることになり、後任の医師への引継ぎをしながら村人たちを診て周る。僻地医療を自分の仕事とする意思の覚悟を描いた、物語。

今さら命が尊いだなんて僕は言わないですよ。だけどとにかく楽に死ぬことよりさきに、楽に生きることです。あなたも、サキヨさんも。少しは逃げたり、人の力に頼ったりすることを考えてもいいんだ。僕だってあなたを見殺しにしたいとは思わないですよ。


映画「ディア・ドクター」公式サイト

【関連記事】
『ゆれる』西川美和 を読んで
2010-04-30

『青空チルアウト』中川充 を読んで


青空チルアウト (ダ・ヴィンチ ブックス)青空チルアウト
(ダ・ヴィンチ ブックス)
中川充


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内容紹介
現在ぼくは、元彼女の実家に居候しながら仕事を探している。しかし「とらばーゆ」をひらいては居眠りしてしまう日々。お義父さんともなんだか気が合って、いっしょに将棋をさしたり花を愛でたり。
これではいかんと心機一転、元彼女のところを出て新たな居候先を見つけた。家主はマルさんという、ブライアン・メイみたいな顔をした男。変な人だと思っていたら――。
なんでもない一日をくりかえしながら、ちょっとずつ進んでいく。
チルアウトな日々をポジティブに描く青春小説。


『POKKA POKKA』で第1回ダ・ヴィンチ文学賞 編集長特別賞を受賞した中川充さんの作品です。

とにかく文体が特徴的。
一人称でしかも関西弁。主人公の「ぼく」が思ったことがそのままの順番で次々に言葉として浮かび上がってくるこの感じ、面白い。

ストーリーは何でもない日常を淡々と描いたもので、その平和な感じが何だか心地良い。
大学を休学中に貧乏旅行をして、卒業後はサラリーマンとして就職したものの、いろいろあって退職、そして現在はフリーターをしながら職探し中。
そんな「ぼく」の、自分の将来のことなのにどこか他人事のような、まるで漂流者な感じが、独特の文体と非常にマッチしている。

とくに大きな出来事が起こることもなくそのまま物語は終わるんだけれど、でもいつか彼は答えを見つけだして先に進むんだろう。
あしたはなにがあるのかな、他人事みたいにそんなことを思いながら地下鉄の駅へとつづく階段をゆっくりと下りていく。ただただ楽しく、静かな感じがただよう、そんなリズムにのっかって。
2009-09-19

『ゆれる』西川美和 を読んで


ゆれる (ポプラ文庫)ゆれる
(ポプラ文庫)
西川美和


souiunogaii評価 

内容紹介
故郷である田舎町を嫌って都会に出た奔放な弟・猛と、家業を継いで町に残った実直な兄・稔。
対照的な生き方をしてきた二人の関係が、幼なじみだった智恵子の死をきっかけに揺らぎはじめる・・・。
映画史に永く刻まれる傑作を監督自らが小説化。
第20回三島由紀夫賞候補作。

映画『ゆれる』を、西川美和監督が自ら小説化したものです。
この作品、映画の方も個人的にけっこう好きで、非常に完成度の高いものなんですが、
小説の方もまたとても良くできてると思いました。
西川美和監督の素晴らしい才能を感じます。

東京でカメラマンとして自由に働く弟と、実家のガソリンスタンドを継いだ静かな兄。
対照的な兄弟が、吊り橋で起こった事件をめぐって悩み苦しむ。
兄弟、家族の間の深い闇の部分を丁寧に描いた物語です。
登場人物一人一人のモノローグ形式での文体は、映画を見た後で読んだ私には、一人一人の心の奥底が非常にリアルに感じられて、その迫力に圧倒されてしまいました。
ああ、この子は、人殺しの弟になりたくないんだ、と。
たったそれだけのことだよ。

よくある映画のノベライズ本とは全く違います。
それぞれにオリジナルな描き方があって、同じ物語なのにそれぞれ別の味わいがあって、とても楽しめます。

筑摩書房の松田哲夫さんも、著書の中でこんな風にコメントされています。
まさに映画では絶対に描けない世界をここでは表しています。映画を見て、小説を読むと、それぞれが補い合って、さらに奥深い世界が見えてくるという楽しみもあります。驚くべき才能ですね。


最後の、弟が兄に向って「兄ちゃん、うちに帰ろうよ!」と叫ぶ場面では、映画のラストシーンが目に浮かんできて、目に涙を浮かべてしまいした。


映画『ゆれる』公式サイト

ゆれる [DVD]ゆれる
監督:西川美和
出演:オダギリジョー, 香川照之, 真木よう子


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