2008-11-01

『黒冷水』羽田圭介 を読んで

黒冷水 (河出書房新社)羽田圭介黒冷水
(河出書房新社)
羽田圭介


souiunogaii評価 ハート5つ

面白かった!と言うのは勇気がいるブラックな作品。
しかし、間違いなく面白い。

内容紹介
兄の部屋を偏執的にアサる弟と、執拗に監視・報復する兄。
出口を失い暴走する憎悪の「黒冷水」。兄弟間の果てしない確執に終わりはあるのか?
当時史上最年少17歳・第40回文藝賞受賞作!

『走ル』を読んで、羽田圭介の緻密でリアルな描写力に魅せられてしまい、ぜひ他の作品も読んでみたいと思い、
それで手に取ったのが、『黒冷水』。

著者の羽田さんが、明治大付属高校に通っていたころに書いた作品で、本作は文藝賞に選ばれている。

タイトルが『黒冷水』。何ともブラックな印象を受けたが、物語の中身の方も、タイトルに負けずに実にブラックだ。

高校生の兄・正気と、中学生の弟・修作の間の、深い憎しみ。
兄の部屋(机やパソコンや本棚)をこっそりとあさり、隠してある秘密の品を盗みだす弟。
そして、その弟に、とてつもない残酷な方法で復讐を図る兄。

主人公は兄・正気なんだけれど、「正気は〜」「修作は〜」と、兄弟両方ともに三人称で表現し、場面ごとに視点を切り替えて描く構成になっていて、両者の相手への憎しみの深さが、実にリアルに伝わってくるようになっている。

この秀逸に計算された書き方のために、最初の数十ページを読んだところで、もう私は一気にこの物語に引き込まれてしまっていた。
早く次のページが読みたい!一体この先はどうなっていくんだろう!
先を読むのが楽しみで、たまらなく面白かった。
だがもう遅かった。
冷たい流動体は、心臓に開いた穴からじわじわと周りを浸食してゆく。正気には、その流動体が黒色をしていることがすぐにわかった。流動体、という表現も間違っている。もっとサラサラとしていて、澄んでいる。黒の原色であって、尚且つ澄んでいる。そしてそれは、凍えるほどに冷たい。
黒冷水。
(中略)
修作を潰すしかない。
そうしないと、この圧倒的な黒さと冷たさを抱いた黒冷水を、体の外に追いやることはできないだろう。黒冷水の源である修作さえ潰してしまえば、すべての問題が解決する。
徹底的に、だ。徹底的に修作を潰す。

尊大な自尊心と羞恥心、高いプライドを持ち、頭も良く、世間体を極度に気にし、
オタク趣味を持つ弟を、軽蔑視する兄・正気。
兄よりレベルの低い学校に通うことにコンプレックスを感じ、あらゆる面で兄に勝とうともがき、自分を上から見る兄が嫌でたまらない弟・修作。

著者自身が高校生のときに書いた、高校生が主人公の小説。
しかし、そのことだけでは到底おさまりきらない、圧倒的に、徹底的にリアルさを追い求めた描写。
『走ル』でも感じられたけれど、とにかく羽田圭介の緻密で正確な描写力には、感動する。
読む者の視線を、その場面のその物体にぐっと引きつけて離さない。逃がさない。
そういう強い力を持っている。

物語後半の、スピード感と迫力のある、衝撃的な展開には、小説としての面白さをしっかりと感じることができた。

とにかく、ブラックでディープな物語だけれど、間違いなく誰が読んでも面白い。

読みながら、正気と同じように、修作をもっと痛めつけてやりたい、潰してやりたい、そんな気持ちを自分が抱いてしまっていることにハッと気づいて、とても恐くなった。
この小説の持つ力を感じた瞬間だった。

17歳で文藝賞受賞というのは、最年少だそうだ。
(綿矢りさが『インストール』で文藝賞を受賞したのも17歳だったっけ。)


『黒冷水』、ぜひおススメの作品です。

【関連記事】
『走ル』羽田圭介 を読んで
この記事へのコメント
コメントを書く
Name:

URL:

Comment:

認証コード:


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

本「黒冷水」羽田圭介  :日々のつぶやき  2008-11-01
Excerpt: 初めて読む作家さん。 17歳での文藝賞受賞作品だそうです。 「兄の部屋を執拗にあさる弟と、それを知り阻止する兄。二人の憎悪はどこまで続くのか・・」 ん〜何か変な感じだな〜と思いつつ読み進..