2008-10-18

『走ル』羽田圭介 を読んで

走ル (河出書房新社)羽田圭介走ル
(河出書房新社)
羽田圭介


souiunogaii評価 ハート4つ


青春を感じさせる気持ちのいい自転車ロード小説。
高校2年の「俺」は一人で東京〜青森を自転車で走った。

内容紹介
物置で発掘した緑のビアンキ。その自転車で学校に行った僕は、そのまま授業をさぼって北へと走るが……。
「21世紀日本版『オン・ザ・ロード』」(読売新聞)と評された、文藝賞作家の青春小説!

第139回芥川賞の候補にもなった、羽田圭介さんの『走ル』を読んだ。
良かった。非常に良かった。
とても気持ちのいい小説だった。

主人公は高校2年生の俺(本田くん)。
彼はある日、自宅の物置から古いロードレーサー(レース用自転車)を見つける。
翌日、彼は八王子の自宅から四ツ谷の高校まで、その自転車で登校する。
陸上部員の彼は、若いエネルギーに満ち溢れていて、とにかく体を動かすのが好きだった。
そう思っていると身体の中に溜まる無駄なエネルギーを消費させたくなってきた。
せっかくレース用自転車も掘り起こしたことだし、...

学校に着き、朝練の後、コンビニにジュースを買いに出たはずの彼は、なぜかそのまま
自転車で走り続け、北へ北へと進み続ける。
なぜそんなことになったのかは、よくわからない。
強いて言えば、「なんとなく」だろうか。
はっきりした目的地は決めずに、彼は緑の自転車で、ひたすた走る。いや走ル。

はじめは1限目をサボるだけのつもりだったサイクリングが、いつのまにか、1週間学校を休んでの、自転車旅行になってしまう。
もちろん一人で。すごい。

道路標識の「○○まで〜km」を目標にし、そこにたどりついたら、また次の「○○まで〜km」を目指す。
これを繰り返しながら、最終的には信じられない距離を走る。

そんな物語の中で、一番の読みどころは、やはり高校生の男子の頭・心・身体の動きや変化をリアリティにこだわった文章で丁寧に描いている点だと私は思う。
国道を一人自転車で走りながら、そこから彼はどんな景色を見たのか、
何を感じて、何を考えたのか。
そういうことが、本当にリアルに伝わってくる。
基本的に一文一文は短く、主格を省略している。
まるで、主人公と一緒にその場所に自分もいて、同じ空気を吸っているかのような感覚さえあった。
この感動を作り出す表現や構成は、見事で、素晴らしいと思う。

ロード小説にしては、変わっている点は、旅の途中で、誰かとの特別な出会いがあるわけではないこと。
その代わりに、学校の友達や、微妙な関係の彼女との、ケータイでのメールのやり取りが、本作品では大切なキーになっている、ように感じた。
普段学校で会っている人間と、遠く離れたときに、そのときになって初めてわかるものもある。
取りとめもない、他愛のない、高校生のメールなんだけど、そこにはやっぱり、
高校生のときにしか持ち得ない感性みたいなものがあるんだろう。
これぞ青春小説か。
視覚や聴覚が研ぎ澄まされ、荒れ狂う風景は美しく見えた。こんなにもしんどい思いをして走っている嵐の道は、なんて素晴らしい感触をこの身体に残してくれるのだろう。背中に密着しているリュックから携帯電話のバイブを察知し、おそらく鈴木さんからのメールだろうと思った。触れたことのない大きめの乳房の感触を、背中に感じる。

他にも、食事の場面や、女の子のことを思う場面なんかで、高校生男子の描き方が実に上手いなと感じた。
世界最高峰の自転車耐久レース「ツール・ド・フランス」になぞらえての演出も、イイ。作者自身、自転車が大好きであることを窺わせるほどだ。

作者の羽田圭介さんは、1985年生まれだとか。
その若さに驚きと納得を感じつつも、他の作品もぜひ読んでみたいと思った。

「走ル」 羽田圭介さん:本よみうり堂 著者来店(YOMIURI ONLINE)

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