2010-12-12

『ぼくらのひみつ』藤谷治 を読んで


ぼくらのひみつ (想像力の文学)ぼくらのひみつ
(想像力の文学 早川書房)
藤谷治


souiunogaii評価 


本が好き!より献本。

内容紹介
ベストセラー『船に乗れ!』の著者が贈るゆるやかな青春小説
こんなこと信じてもらえるだろうか。ぼくの時間は2001年10月12日金曜日の午前11時31分で止まってる。喫茶店でコーヒーを飲む。部屋に戻り昼寝をする。起き上がってぼーっとする、文章を書く、顔を洗う、町を歩く、これだけしてもずっと11時31分。
そんなとき京野今日子と出逢ったから、僕のせいで彼女も11時31分にとどまることになってしまった。
やがてぼくらは思い立って、ある計画を考えるのだけど……
止まっているこの時から、ぼくらはゆっくり歩き出す。
スローモーションの新・青春小説。


とっても面白かった!

藤谷治さんの作品を読むのはこれが初めてなんだけど、この一冊ですっかりファンになってしまうくらい、とても楽しませてもらった。


主人公の「ぼく」がおかれてしまった奇妙な状況、それがこの物語のすべてだ。
時間の流れが止まってしまった。
その「止まっている」という現象が何とも不思議なのだ。
これはもう、実際に読んでもらう他になかなか理解してもらうのが難しいのだけど、
とにかく不思議、そう表現するしかない。

そして、その不思議な世界を描くのに、主人公が一人称で綴る「ノート」を読者が読んでいるという形式を用いているのが、非常に巧みだ。

もくじ
ノートI シチュエーション
ノートII 発端
ノートIII 金銭
ノートIV ミドリ
ノートV 京野今日子(1)
ノートVI 京野今日子(2)
ノートVII 情勢論
ノートVIII 哲学
ノートIX 哲学対話
ノートX 旅立ちのまえ
ノートXI 旅(1)
ノートXII 旅(2)
ノートXIII 旅(3)
ノートXIV ゆるいシステム
ノートXV チェス
ノートXVI 筆談
ノートXVII


物語の進み方は、非常にゆっくりで、一体この先どうなるんだろう、という読者の思いに反して、主人公のおかれた時間が止まっているという状況は全く変わることがない。
途中少しじれったく感じたころに、絶妙なタイミングで、彼女(京野今日子)が現れ、そして彼(ぼく)は、自ら何かを変えようと行動し始める。

いたるところに引用される、ヴァジニア・ウルフやカポーティの小説の一節が、
これまた不思議な効果を引き出していて、物語の世界観を作っている。


そこからラストまでの展開、物語が徐々に加速していく感じが、読んでいてとても興奮した。
そして、あの超衝撃的なラストには、もう感動して言葉が出ない。
それまで気になっていた謎を、一気に答えに導いてくれる、あの最後の一文。
作者がこの小説にこめたパワーが解き放たれた瞬間のあの衝撃は、しばらく忘れられない。




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