2010-09-26

『勝手にふるえてろ』綿矢りさ を読んで


勝手にふるえてろ勝手にふるえてろ
(文藝春秋)
綿矢りさ


souiunogaii評価 

内容紹介(文藝春秋)
著者3年ぶりの新刊は、不器用なOLが脳内と現実の2つの恋の間で右往左往しつつ自分の道を探していく様を描いた新境地。
何とも思っていなかった同期に告白されて戸惑う良香。
26歳まで恋愛経験のない彼女はこれを機に、中学からひきずってきた不毛な片思いの相手に会ってみようと行動に出るが……。
時に暴走する遅咲きの主人公が愛しく思えて、切なくもコミカルな一風変わった恋愛小説です。


『勝手にふるえてろ』特設サイト:文藝春秋

「勝手にふるえてろ」著者インタビュー:文藝春秋

綿矢りさの待望の新作です。

主人公のヨシカは著者と同じ26歳。
ちょっと妄想癖の強い元オタクなOL。
脳内で勝手に作り上げたイメージと、現実世界の両方に気になる男性がいて、その間で思い悩む不思議な心理を、独特の間合いとリズムのある文章で綴る。
好きなタイプとか嫌いなタイプって多分けっこうあいまいなんだろうな。似たような人でもどこかがほんのちょっと違うだけで、心にひっかかる部位が違う。だって当たり前だけど、みんなそれぞれ違う人間だから。ニだって本当に冷静につくづく私を眺めたら、なんでこんな女好きだったんだろうと不思議に思うかもしれない。私だってイチを冷静にながめたら……。

一歩間違うと、単なる勘違いジコチュー女の独り言のような物語とも読めてしまうんだけれど、でも何だかヨシカちゃんのキャラが不思議な魅力を持っていて、気づくと彼女を応援したくなる気持ちもわいてくる、みたいな。

とにかく綿矢りささんにはこれからも積極的に作品を書いていってほしい、そう思わせてくれる一冊だった。

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2010-09-26

『ここに消えない会話がある』山崎ナオコーラ を読んで


ここに消えない会話があるここに消えない会話がある
(集英社)
山崎ナオコーラ


souiunogaii評価 

内容紹介
何もない人生にも、キラキラ輝く会話がある
25歳の派遣社員、地味系男子の広田は半ば諦めの境地で生きている。しかし、会社で同僚と交わす会話が楽しくて世の中を嫌いになれない。人とのささいなやりとりのかけがえのなさを描く職場小説。


「ここに消えない会話がある」刊行記念 山崎ナオコーラさんロングインタビュー:集英社

微炭酸ホームページ(山崎ナオコーラが書いています)

またまた大好きな山崎ナオコーラさんの小説です。

とにかく、山崎ナオコーラ節というか、言葉の選び方・表現の仕方が絶妙すぎる!
小説なんだけど、ひとつひとつの文章から伝わってくるメッセージがたいへん力強い。


以前、他の作品でも扱われていた、新聞のテレビ欄の製作会社が舞台で、
登場人物たちは、そこで働く20代の男女。

一人ひとりの仕事に取り組む姿勢が、それぞれに違っていてその温度差みたいなものが面白い。
広田(アキバ系?)、岸(こそこそ小説を書いている)、佐々木(リーダーシップを取りたがる)、別所(いつも日焼けをしている)、魚住(ふざけている)、津留崎(美人)。
物語は三人称で綴られ、一応広田が中心になって語られるんだけれど、他の人物が中心になったりする場面もあったり、そのバランスがすごく上手い。
今日も、広田は出勤途中に空を見上げる。
空の青さ。「青」って一体なんだろう。人間にとって青ってなんだろう、青っていうのはどこにあるんだろう。

山崎ナオコーラ作品の最大の魅力とも言える、詩のような表現を織り交ぜた会話・心情描写が本作では特に印象的だった。
先に続く仕事や、実りのある恋だけが、人間を成熟へと向かわせるわけではない。ストーリーからこぼれる会話が人生を作るのだ。

誰にも読めない流れるような字を書いて、郵便屋さんに届けられない手紙を出そう。

山崎ナオコーラさん、やっぱりこの人の書く小説を私は大好きだ。


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2010-09-12

『あのとき始まったことのすべて』中村航 を読んで


あのとき始まったことのすべてあのとき始まったことのすべて
(角川書店)
中村航


souiunogaii評価 

奇跡の連続。すごく良かった。やっぱり中村航はイイ!
内容紹介
理系の大学を出て、営業マンとして働く僕は、中学の同級生だった石井さんと十年ぶりに会うことになった。
有楽町のマリオンで待ち合わせ、目の前のニュー・トーキョーに入ると、当時の面影を残す石井さんを前にして、
中学時代の思い出が一気に甦った。親友の柳、一年の時に告白してふられた、少し不思議ちゃんの白原さん。
僕、石井さん、柳、白原さんの四人で奈良の東大寺などを巡った修学旅行、そしてそれぞれの思いを秘めて別れとなった卒業式。
やがて酔った二人は、中学時代の思い出を探しに、僕の部屋に向かうが……。
ベストセラー『100回泣くこと』で40万人を涙させた著者が贈る、ノスタルジーとせつなさ迫るラブ・ストーリー。

大好きな作家・中村航さんの最新作です。
もう最高だった。やっぱり中村航ワールド、素晴らしい。

主人公の岡田くんは25歳。ある日、中学の同級生だった女の子の石井さんと偶然再会することになる。10年ぶりに。
会ってすぐに、もう二人は恋に落ちてしまう。

現在と、中学生のころの回想とを非常に巧みに計算された手法でミックスしながら綴られる物語は、これまでの中村作品と同様に、一つひとつのエピソードが丁寧に選ばれた言葉で表現されて、何でもないことがこの上ない奇跡のように感じさせてくれる。
読んでいてものすごく豊かな気持ちになれる。
何かが始まるとき、今がそのスタート地点だと意識できることなんて、ほとんどなかった。
そのとき始まったと思っていたことは、後から考えてみると、もっと前から始まっていたりするし、始まったと思っても実はまだ何も始まっていなかったりする。

前に読んだ『絶対、最強の恋のうた』でも、現在と中学・高校時代とを織り交ぜて、さらに語り手の視点を主人公の二人の間で変えながら、物語を描いて見せてくれたけれど、
本作ではさらに面白い手法が使われている。
岡田くんと石井さんの中学時代を、その二人を見ていた白原さんという女の子が見た物語を途中にはさむという構成になっていて、それがすごく素敵な効果を出していて、この小説をぐっと深く面白みのあるものにしてくれている。

中村航作品の魅力と言えば、何といってもちょっとした出来事を、まるで奇跡のような素晴らしい出来事のように描く、その一つひとつの言葉の美しさだ。
日常にありふれている普通のことのなかにも、実はじっくり注意して探してみれば、すごいと思うことがいっぱい隠れている、そういうことを気づかせてくれる。
「このシーンを魔術師のように美しく書きたいと思うところが時々あるんですね。それは他人が見せるちょっとした仕草だったり、あるいはストーリー上の重要な場面だったりするのですが、そこに言葉にならないくらいの象徴性を持たせたいと思って書いているんです」
ダ・ヴィンチ2010年5月号より

中学時代の思い出そのものの描かれ方もとても綺麗で純粋ですごくいいのはもちろん、それをずっと忘れずに大切に覚えている岡田くん・石井さんの現在もすごくいい。
タイトルに込められた意味をしっかりとかみしめながら、でも一気に読んでしまった。
誰かが誰かの特別になるというのは、とても不思議なことだ。
特別というのは順位の問題ではないし、こだわりや好みともあまり関係ない。
運命といったら違う気もするし、縁というのもぴんとこない。きっと偶然や必然を孕みながら二つの物語が交差し、誰かは誰かの特別になる。時間や距離を巻き込んで、綺麗な気持ちや欲望や執着や理性が、混ざり合うようにうねる。


中村作品はどれも表にあるテーマは男女の透明で純粋な恋愛物語なんだけど、
本作では、別のこともいろいろ描かれている。

中でも、私が心ひかれたのが、岡田くんと会社の先輩・門前さんの関係。
会社を辞めることになった門前だんが、後輩である岡田くんと二人で飲む場面があるんだけれど、そこでの門前さんが語る言葉が非常に印象的だった。
「岡田くんも、もう新人じゃないからな。これからは優先順位を見極められるといいかもな」
「優先順位ですか」
「こんだけ多様な価値観がある中でな、ある物事とかに対して全肯定とか全否定とかはあり得ないだろ。あるのは優先順位だけなんだよ。だからいつも正しい優先順位を考えて、仕事でも人生でも、何が大切なのか理解するんだよ。やりたいことを先延ばしにしすぎないようにな、人生の一時間一分一秒を大事にして、毎日どんな日も人生を賛美できるといいよな」
「ええ。そうですね」

あと、『絶対、最強の恋のうた』の大野くんが、岡田くん・石井さんの中学時代に教育実習の先生として"挨拶は世界三大美徳の一つ"と語ったというエピソードには、中村航作品ファンには嬉しいプレゼントだった。

とにかくすごくすごくイイ物語だった。
中村航さん、ありがとう。


中村航公式サイト
『あのとき始まったことのすべて』特設ページ:角川書店
中村航さん「あのとき始まったことのすべて」刊行 異色の理系小説家、長編に自信:MSN産経ニュース(2010/5/17)

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